8.元は豚でしょ? 豚だけど、腐ってるよ?
落ち着いたらしい、みーよ。
オークの討伐証明は、魔石らしい。
肉は不味くて食べられないんだって。
そーなの? と聞いたら、この手の怪物は必ず魔素が体内に充満していて、特に邪悪な連中はその方向に魔力が傾くので、人間にとっては腐った味しかしないんだとか。
元は豚でしょ?
豚だけど、腐ってるよ?
納得したわ。たまに、この手の話で怪物を料理して食べるシチュエーションがあるけど、実際には絶対にありえないわけね。
とんかつ、生姜焼き、ポークチャップ、豚丼……
うぬう、食べられないのかぁ。
んで、魔素が体内に蓄積されて結石になるのが、魔石ってわけで。
ソイツは心臓の近くにできるらしい。
獲物の解体作業なんてやったことないけど、体の構造は大体わかる。
切り分けやすい所と、そうでもないところがあることは知ってる。
タプタプの脂肪が邪魔だけど、隊長オークの短刀は中々の切れ味なので、それほど手間でもなかった。死んだオークは切り分けやすいしね。
みぞおちの辺りから切り裂いていくと、あ、これね。
みーよのこぶし位の大きさの黒い石が4つ、隊長オークはあたしの拳位の少し大きめ(少し?)だった。
「終わったよ」
「ありがと」
みーよは聖女様なので、血を浴びて解体とか、血を浴びて戦うとか、そういう野蛮な事をしてはイケナイのだそうで。
なんでも穢れてしまうと理力の純度が極端に落ちて、ただの人になっちゃうんだって。
穢れていないと出来る事。
みーよは杖を前斜めに掲げつつ地面につけて、両手で支えながら、両ひざを地面につける。
きれいな白い法服が、汚れちゃわないのかな?
逆に、膝が直接地面につかないようになってるのかな?
前のめりに近い格好で、杖が自分と同じ斜め向き。
この格好、結構厳しくない?
そんなあたしの思いなどお構いなしに、みーよは目を閉じて何かをつぶやきながら祈り始めた。
何言ってるかは分からない。共通語じゃない。聖女専門の言葉らしい。
杖の先端が光り始め、だんだん強くなっていき、急に輝きを増した。
倒れているオークの死体が呼応して光り始め、形が崩れ始める。
崩れた部分は黒い霧のように舞い上がり、光によって打ち消されてなくなっていく。
内蔵や骨なんかも、あんまりグロくなく、きれいに黒い霧になってそのまま光によって、ん-浄化? されていくみたい。
地面に飛び散った血の跡も含めて、みーよの杖から放たれる光が、周囲を清めていく。
30秒位かな。あたしたちが戦った痕跡は、奴らの汚い衣服や、大ナタや短剣なんかを残して、そのまま消え失せた。
「ふー。おしまい」
あたしは、なんか思わず拍手しちゃった。
「すごいね」
「いやー照れますなー」
まんざらでもない、みーよ。
「戦利品を回収してくれる?」
「いーよー」
聖女様、やるじゃないのさ。このしもべに、なんでもお申し付けくださいませませ。
大ナタ4本、同じく短剣。
汚い腰布は、どーする?
「一応回収する」
「隊長オークの戦利品は?」
「一緒にまとめられるけど、郁ちゃんが手元に置きたいならそれでもいいよ」
ん-、短刀は重宝するから、持ってようかな。
隊長オークの腰袋を改造して、あたしの背中の腰の辺りに廻せば、動く邪魔にはならんでしょ。それなりに物も入りそうだし。
シミターは、イラナイかな。重たいし。
鉄のヘルメットは絶対にイラナイ。なんか臭そうだし。
盾は、それなりに役には立つ。でも、あってもいいけど、無理に欲しくもない。片手が塞がるのはあんまり好みじゃないのよね。
革鎧は、サイズが違いすぎるし、生理的にイヤ。絶対にイヤ。
あと、小物を入れる袋がオークの人数分あって、何気に見てみたら銀の硬貨とか干し肉とか水袋とか、それなりのものを見つけることが出来た。
「で、これ、どうするの?」
この手の小説ではアイテムボックスがあって、収納無限大とかいうんだけど?
みーよも使える口なの?
「異次元に放り込むとか、よく言うけど、入れたらそのままどっかに行っちゃうよね、あれって」
まーそーだね。そー思う。
現実でもそうじゃない? 整理整頓しておかないと、アレどこ行ったっけ? になるもんね。
ゲームだと見やすいように管理や表示されるけど、実際にそんなことは無いでしょ?
……いいのよそういうもんなんだから、ケチ付けちゃダメよ。
……誰に言ってんのよ、あたし。
「こういうものは光の女神さまに奉納するのよ。そして必要な時にはお願いして恩寵を頂くの」
へーはーふーん、そんなことできんの?
「女神さまはわたしたちとは別の次元にお住まいになっているし、信徒から捧げられたものは、信徒の必要のために使ってくださるからね」
な、な、なるほど。正論だわ。
「もちろん、捧げられないものもあるし、捧げても戻ってはこないものもあるから、全部何でも、というわけにはいかないけどね」
そりゃそうだね。
「邪悪なオークたちを討伐した証拠に関しては、大体は大丈夫だと思うよ」
「便利なもんね……」
みーよはにこっと笑って、再びあの厳しい前かがみの姿勢を取り始めた。
倒れないでね?
なんかあったら支えようと思っているあたしの気持ちなどお構いなしに、再びみーよの杖の先端が光り始める。
光は戦利品を包み、オークたちとは違って光の粒となって少しだけ漂い、消えていった。
15秒位で、全部消えてなくなった。
「ほんとに消えちゃった」
なにこれ、手品?
「消えてないよ。女神さまにお願いすれば出せるから、必要なときは言ってね」
「分かった。でも、すぐには出ないんでしょ?」
「そうだね。5秒位は掛かるかな?」
「おっけ。おぼえとく」
何を預かって貰ってるのか、忘れそうだけどね。
「で」
みーよはあたしをじっと見る。
「なに?」
「とりあえず、着替えよっか。制服、汗と血でひどいことになってるよ。あと、怪我とかしてない? 簡単なものなら、治せるよ?」
「着替えったって?」
みーよは、また前かがみで祈り始めた。
杖が光り、その光が形を帯びてきて……
制服?
制服!
新しい制服だ!
「シャワーも出せるよ」
杖からの光は、ちょっと離れた処に、布張りの四角い縦型のテントを作り出した。
「わたしのレベルだと、この辺が精一杯。普通に持ち運べるものなので、イメージしやすいのよ。家とかは無理ね」
「はぁ……」
みーよ、あんた何でもありだね。いつからそんなことになったのよ。
「更衣室兼シャワールーム。水は10リットルしかないから節約してね」
背中を押され、新しい制服を持たされて、中に押し込まれてしまった。
前後左右正方形、1メートル弱。高さ2メートルかな。大きい人は困るかも。
ほのかに照明付き。光の女神さまだから、灯には困らないって感じ?
角の柱にシャワーノズルがかけられていて、手元で水の出し入れができる。
着替えは、壁に防水ビニールの大きな袋が2つ、備え付けられている。
持ってきた制服を袋に入れて、脱いだ制服はもう一方の袋へ。袋ごと外せるらしい。
シャワーの水はさすがに熱くはない。生ぬるい、というより常温ね。
シャンプーやせっけんはさすがにないだろうと思ったら、ちゃんと用意されていた。気が利くわね。
床は樹脂のスノコ(たぶん折り畳みができる)で、足元も汚れない。
改めて自分の身体の様子を確認する。右腕、左腕、右脚、左脚、異常なし。
胴体も損傷無し。お腹がシックスパックに割れているのは元々なので、しょうがない。
おっぱいが大きすぎるのよね、あたし。ホント発育郁美とは、上手いこと言ったもんだわ。
おしりも大きい、というか、筋肉でぎっしりだし。
ふとももに至っては、ボンレスハムですか漲ってるんですかはちきれんばかりですか、だしねぇ。
サイズが大きいと、下着選びが大変なのよね。でも、意地でも男物は着ないんだもんね。
ブラは、それなりに種類あるんだけどねー
……チョットソコ、乙女のシャワーを軽々しく覗いてるんじゃないわよ、油断もスキもないわね!
え、見たくもないって?
シッツレイしちゃうわ!




