7.「気が合うわね。じゃあ、遠慮なく死んで頂戴」
ガシ、ガシガシッ!
オークたち、光の外側を、手にしている武器で殴り始めた。
この光って、殴れるんだ?
「ホントうるさいわね。黙らせてくるわ」
「ちょっと! 素手であんな怪物たちに立ち向かうつもりなの⁈」
ああ、みーよにはそう見えるのね。
「武器ならあるわよ」
「え?」
「奴らが手に持ってるじゃん」
おあつらえ向きな、肉切り包丁ね。
まあ、もっと粗雑で鈍そうな鉈、らしいけどね。
えっと、ザコ4匹、リーダー1匹ね。分隊を組んで村を荒らしまわるって感じかしらね。
「みーよ、一応聞くけど、全部殺しちゃっていいんでしょ?」
あたしは、パパ曰く“悪い顔”全開で、尋ねた。
「豚鬼に限らず“邪悪”で“混沌”の勢力に属するものは、改心とか転向とかは絶対にないわ。暴力と淫猥と略奪の他に、奴らに出来ることは無いのよ」
きっぱりと言い切った、みーよの顔が凛々しい。
「おっけ、自分の身だけは、一応守っといてね」
あちこち燃え盛る家を背景に、あたしはこちらを半分取り囲むオーク共の中に、堂々と足を踏み入れた。
手にはガードグローブ。足にはエンジニアブーツ。
ガッコの制服に身を包んだいつも通りのあたしのことを、あいつらはどう思ってるだろ?
ま、どうでもいいかそんなもん。
異世界だけど、時々攻め寄せてくる他校の不良どもと比べても、そんなに違和感はないわ。
恰好が半裸の豚顔で、それぞれが旧時代の“オスモーサン”みたいな体格をしている、ん-100~200キロ位かな?程度の違いよ。
……大分、違うか。
ま、あたしが“変わらなければ”問題ないかな。
あ、一つあった。
“皆殺し”にしていいんだった。
さすがにガッコの敷地ではマズいけど、ここならヤリたい放題で、いいのよネ?
変な豚の鳴き声でしゃべっている豚顔ども。
威嚇? 嘲り?
ん-何言ってんのか分かんない。ま、どうでもいいよね。
左からざっと見て、右端が一番弱い。
奥の隊長? みたいな、こいつだけ革の鎧と鉄のヘルメット被ってるヤツは、あたしを見極めようとしている。
こっちも同じだけど、先にザコを片付けるから待っててね。
あたしがさらに一歩踏み出すと、喚き声がもっと大きくなった。
何言ってるか、何となく分かる。
“一斉に 掛かれ”だ。
そーだよね、分かってんじゃん。
でも、もうあたしの間合いなんだよね。
オークどもの呼吸の一つ前、息を吐いたそのタイミングで、あたしは右に跳ぶ。
1歩、2歩で右端のオークの懐へ。
反射的に振り下ろされた大ナタを、半身回してかわしつつ、握った指、しかも小指目がけて右正拳。
「ギャァア!」
喚きながら取り落とした大ナタをすかさず掴む。
ちょっと重い。でも振り回せそう。回せるなら何とでもなる。
両手は使わない。片手は開けておく。
背中を見せつつ、大きく隙だらけで旋回。
反撃は来ない。痛みで悶えてるだけ。
知ってた。
あんたら、自分らが痛めつけるのは得意でも。
自分が痛めつけられるのは、苦手なんだって事。
そういうヤツ、いっぱいいるよ。
だから、思い知ればいい。
遠心力をたっぷり乗せた大ナタの一撃を、痛くて下がったオークの頭に向けて、思い切り叩き込んだ。
半分めり込んで、ナタが止まる。
生命力が強くて、それ位じゃ止まらないのも知ってるので、すかさず跳びのく。
オークは、あたしを捕まえようと前のめりになったまま、そのまま地面に倒れた。
「まず1匹」
予備の武器位、さすがに持ってるんでしょ?
と、腰の辺りをまさぐる。
しょぼい短剣みっけ。
振り向きざま、あたしに襲い掛かるオークの顔目がけて投げつける。
大きく口を掛けて、何か叫びながら突っ込んできたその空洞に、きれいに短剣が突き刺さった。
言葉にならないうめき声をあげている間に、そいつの右の腰にしまってある短剣を奪いとり、でぶっと太った、脂ぎった腹にそのまま突き刺した。
深く入って、柄の先まで、なんならあたしが握った手の先まで突き刺さる。
っていうか、この短剣、鍔がないんですけど。
雑なつくりねぇ。
「ほら、貸して」
苦悶に呻くオークから大ナタを奪い取り、憎しみの目を向けるけど何もできないでいる豚の首を一撃で斬り落とした。
汚い血のシャワーなんて浴びたくもないので、斬った側からすぐ離れる。
「2匹」
あら、ひるんじゃうの?
互いに様子を見るように「お前行けよ」「お前こそ行けよ」みたいに瞳を交わし合うオークども。
隊長さんは、こっちを見ながら、部下のオークに命令を出している。
何言ってるか、分かんないけど、分かる。
一匹があたしを足止めしている間に、もう一匹はみーよを襲えって言ってるわ。
いい方法ね。
でも全然遅いね。
低く体を沈めて、大ナタを振り回しつつ左のオークに向かって跳び込む。
そう、ちょっと間合いが遠いから、来るとは思ってないのよね。
びっくりしつつも、自分の大ナタを構えて立ち向かおうとするオーク。
でも、あたしが自分で武器を手放すことまでは分からないのよね。
回転しながら低く飛んでくる大ナタ。
黙ってると足を切断されるので、どーする?
自分のナタを地面につけてガードね。
そうすると上半身が開くのよね。
はい、ジャンピングニーで、その無駄にデカい鼻っ面を顔の奥にめり込ます!
「グギャァア!」
背中側に降り立つと同時に、腰に下げている短剣を引き抜き、刃を横にしてあばら骨の間に突き通した。
背骨側に切り開こうとしたけど、刃が鈍くて引っ掛かる。んもう、お手入れを怠ってるな?
痛さで振り回した拳をひょいとかわして、地面に突き刺した大ナタを頂き、左膝の辺りに叩きつけた。
骨が砕ける感触。切断は出来なかったけど、まあいいでしょう。あとでとどめを刺してあげる。
あたしを必死に捕まえようとする腕をかわして、みーよを襲おうとするもう一匹の背後に走り寄せる。
あら、気が付いたの。遅いわね。
振り向いて受け止めようとしたけど、まるで遅い。
頭から唐竹割りにして差し上げた。
「3匹め」
一応、周囲を警戒すると、みーよと目が合った。
「大丈夫?」
いちおう、みーよに聞いておく。
コクコクと、壊れた人形みたいに頷いたので、ニコッと笑って見せる。
そういうとこ、父ちゃんにそっくりだよ。親子なんだねぇ。
「良かった。みーよはあたしが絶対に守るからね」
というと、少しは落ち着いたみたいだ。
まあ、純粋無垢なお嬢様には、チョコッとだけ、刺激が強すぎるかもしれないわね。
とかなんとか思いながら、4匹目の、足を砕いたオークにもとどめを刺しておいた。
「4匹目。で、あとはアンタだけ。ヤル?」
通じないんだろうな、とは思いながら、随分な余裕の隊長オークに話しかける。
「イキガ アガッテルゾ コムスメ」
お、なんか片言だけれど、しゃべれるんだ。
そりゃ立て続けに4匹も平らげたんだし、一息位つかせてよ。
「ハンデよハンデ。あたし、弱い者いじめは嫌いなの」
隊長オークは、意外にお手入れが行き届いている曲刀、たぶんシミターだと思う、を抜いて、あたしの真正面に立った。
「ツヨキモノガ ヨワキモノヲ コロスノハ セツリ」
「気が合うわね。じゃあ、遠慮なく死んで頂戴」
あたしは右手に大ナタ、左手には短剣。
隊長オークは刃先1メートルくらいかな、のシミター。左手には直径50センチ位の丸盾。ヘルメットと皮鎧装備。
間合いは2メートル。
邪魔なザコは、いない。
へえ、オークにも決闘の仁義を重んじる奴なんているんだ。
合図なんてないけど、分かる。
あたしたちは同時に相手に向かって突っ込んだ。
オークがシミターを横殴りに振り切ってくる。
あたしは短剣で受け流そうとするけど、意外に力が強い。
意外でもないか、あの体格だもんね。
もうチョイ角度をつけて、右下に潜り込むスペースが欲しいけど、無理みたい。
力で押し切られそうなので、右手のナタも手放して両手で受け止める。
「ヒリキ ショウシ!」
そりゃあんたと比べりゃね。
でも、おかげでスペースが開いた。
もともと、あんたらの武器とか、当てにしてない。
あれば使うし、なければイラナイ。
その辺が、隊長オークは分かっていないらしい。
あたしは短剣も手放して、オークの懐に入り込む。
盾で防ごうとしたけど、その盾も掴んで懐へ。
「ナ、ジャラ、アグフ」
知らないわよ、オークの言葉なんて。
皮鎧に包まれたデカい身体に、あたしの身体を密着させる。
鎧を着ているから、素手なら平気だとか思ってるんでしょうね。
バカじゃないの?
左脚から起動、右脚を添えてうねりを呼び、腰、背中、両肩を伝って力場を両の手に伝える。
「寸勁!」
ヤツの心臓に向かって、力場を収束した状態で、放つ。
電気ショックでも喰らったみたいに、でかいオスモーサンな体がビクンと震えた。
右腰にはお約束の短刀が吊るしてある。
刃渡り約30センチ。ザコオークの短剣と違ってそれなりの長さがあり、鍔もしっかりしていて使いやすそう。
しかも、ちょうど皮鎧の脇腹の辺りに、おあつらえ向きの隙間があるわね。
スタンして身動きの取れない隊長オークの柔らかい脂肪に、バターナイフで切りこむような感じで短刀を刺し込んだ。
こっちの刃はお手入れが割と行き届いてる。引っかからなかったので、前後に揺すってあげる。
なんか喚いてるので、短刀を引っこ抜いて、隊長の左肩に手を伸ばし、軽くよじ登る。
「うっさいわよ」
短刀を逆手に持ち替えて。
のどぼとけの辺りを切り裂いて、とっとと脱出。血のシャワー浴びるだなんてイヤなの。制服が汚れるでしょ?
それは盛大に、噴水のように汚いもんを飛び散らかして、こっちを虚ろな目で見つめて、そのまま、倒れた。
「5匹目。オシマイかな?」
なによ息が上がってるって?
なによ強気弱気摂理って?
ザコのくせに、何を生意気なこと言ってるんだか?
ケンカは相手をよく見て言いなさいよ。これじゃガッコを襲撃してくる不良どもの方がはるかに賢いわ。
あ、ケンカじゃないか。殺し合いか。テヘッ。
「郁ちゃん……」
なによ、みーよ。
そんなウルウルした目で見ないでよ。
大したことないわよ。ザコよ。危なくなんかないわヨ。
あら、いきなり飛びつかれて、泣きだされちゃった。
しょーがないなーヨシヨシ。




