6.だってこれ、SFでしょ?
「いくみぃ」
お、あたし、電脳世界に飛び込んでる?
パパが、全身そのままのパパが、あたしの横を“飛んで”いる。
あたしも同じように“飛んで”いるわけね。
ふーん、電脳世界って、こんな風になってるんだ。
「あっしは途中までしか行けない。オリハルコンさん、あんまりあっしとお話してくれないんだ」
そっか、相性の問題かもね。
パパを連れていければ、だいぶ違うんだろうけどなー
あたしは“声”が聞こえるから、多分相性はいいんだと思う。
「向こうは、共通語、コモンとか言うらしい、言語はそれで伝わる。魔法? 理念? みたいなもんだから、属する世界に敵意が無い者同士なら、最低限のコミュニケーションは取れるようにしておくよ」
魔法?
理念?
ん?
まだ実現してないけど、他の宇宙との交友というか、同じ時空間の話じゃないの?
だってこれ、小惑星からの発見物でしょ?
「今からいくみぃが行く世界は、古代ヨーロッパ文化で、人類は数が少なく、怪物や魔物が跋扈する所なんだって」
は、はあ……
ちょっと待って、頭が追い付かないわ。
えっと、異世界転移ものってことかしらん。
そこで、大暴れしてこいって話で、合ってる?
「あってると、思う」
思うって、パパねぇ。
「このオリハルコンを使って、その異世界の女神さまが勇者を召喚したらしい。それが美代子君ということだ」
みーよが?
勇者?
はぁ??
まあ、トラックに撥ねられたとか、教室ごと召喚されたとか、階段から転げ落ちたとか、残業残業の過労死でお亡くなりになって生まれ変わったとか、そういうご都合主義な荒唐無稽の物語よりは、マシだけどねェ。
あ、石投げないでね。悪気はないのよ悪気は。
……誰に向かって言ってんだろあたし。これじゃ本当に異世界転生者が虚空に向かってブツブツ言ってるのと同じじゃないのさ。
「続けてもいいかい、いくみぃ?」
「どーぞ」
パパに睨まれちゃった。
「いくみぃに聞こえる“声”は、美代子君のものだから、その声のする方へ飛ぶといいよ、だって」
「おっけー」
「それと、あっしはいくみぃを通さないと直接には関われないけど、関われさえすれば、こっちの世界と連絡とかはできると思う。なので、向こうでネットに繋がりそうな何かを見つけて欲しい」
ネット?
ん-あるかなあ?
ま、探してみるよ。
「いくみぃたちが死んだりしたら、こっちの世界の身体もどうなるか分からない。だから、くれぐれも気を付けて……」
パパの声が遠くなる。
だいぶ深くまで飛んで来たらしい。
パパはそろそろ限界なんだね。
「ありがとパパ。大好き。愛してるよ」
「……」
伝わったかな?
聞こえてると、いいな。
何か、素直な気持ちになっちゃった。小学生の頃の、なんにも考えてなかった幸せな頃のあたしに、戻ったみたいだった。
パパの全身を、実際に動いている姿を見れたからかな?
そうだね。絶対にみーよを連れて、生きて戻るよ。
だってあたしたち、青春真っ盛りのジョシコーセーだもんね。
あんなコクピットシートで植物人間にさせられるのなんか、まっぴらゴメンだわ。
~ ・ ~
声が聞こえる。だんだん強くなる。
声というより、思念だ。
思念というより、悲鳴だ。
呼ばれてる。
召喚されてる。
みーよ、あたしはここだよ。今すぐに助けに行くよ。
あたしは、全身に力を込める。そうするべきだと、なぜか、知ってる。
スピードが格段に増して、あたしは電脳空間から、徐々に重みと現実感が増してくる現実世界に現れ始めた。
何もない空中に、浮かぶあたし。高さ20メートル位だと思う。
と、思うじゃないわよ、ちょっと待ってさすがにここから落ちたらあたしでも無事では済まない。
体に気合を入れて、怪我しないように降下。下がれ下がれ下がれ!
でも、無意識に周囲を観察。これはもう癖だね。
粗末な造りの家が三件、焼けている。
所々に転がる死体。
畑もあちこちに見える。
でかいのが、5匹、何か光るものを取り囲んでいる。
光の中心に、白い法服を着た小柄な女性が、杖を上にかざしたまま、うずくまっている。
杖を立てて、その光で、 デカいのを寄せ付けなくしているんだね。
声、じゃなく、思念、でもない、もう形にならない悲鳴が、あたしの心を突き刺して止めない。
みーよだ。
彼女の目の前に、そのまま降り立つ。
「……いく、ちゃん??」
「郁ちゃんだよ。みーよ、迎えに来たよ。帰ろー」
ブギブギブギィ!
あーウルサイな、周囲のなんとか。
デカいのは図体だけで十分よ、ウルサイなー
感動の御対面の最中なんですけど。
「だって、豚鬼たちが……」
ふーん、オークっていうんだ。みーよ、あんた詳しいね。
「チャッチャと片づければいいんでしょ?」
いつの間にか、あたしの手にはガードグローブ。足にはエンジニアブーツ。
ついでにガッコの制服仕様。さっきまでパイロットスーツ着てたんだけどな。
パパが気を利かせた?
んなわけないか。パパにそんな気の回し方は出来ない。
「わ、わたしが、郁ちゃんに……助けてほしいってお願いしてたから……でも……」
あー、みーよのイメージなのね。
ま、そうだね。あたし最強番長だもんね。
便利ねえ、みーよのイメージでお着換えできるのね?
それならそれで、みーよのイメージ通りで行きましょー!




