5.そーいうのは、得意中の得意よ
ヤツの話では、オリハルコンに感応するのはみーよだけ、ということで。
で、もう一台、サイコミュシステムを設置して、こっちはみーよと感応させたいのだそうで。
ん-つまり、みーよをフィンファンネル扱いにするってことかしらん。
そんなマネができるのは、そう、あたし、あたししかいないということで。
その許可を、親にお願いしたいと、そういう理屈らしい。
父ちゃんは、実の親じゃないで、ちょっと弱いみたい。
みーよの件はどーすんのよ、と思ったけど、そっちは彼女が勝手にやったことで押し通すつもりか。
あたしにはそういうわけにはいかないので(そりゃそうだ絶対に許さん)、母ちゃんをダシにしたいというわけね?
「いや、Dr.エニグマ、それは乱暴な話だろう」
「我々は強制しない。ただ、美代子君の意識を戻せるのは、郁美君しかいないだろうと、我々は考えている」
「どういうこと?」
あたしがらみの話なので、あたしにも質問したり意見したりする権利はあるよね?
ま、無くても吐かせるけどね。
「美代子君の生体反応は極めて低いのだが、脳は非常に活発なのだ。通常、こうしたことはありえない。彼女がオリハルコンの導きで、どこか別の世界で活動しているという公算が極めて高い。しかも脳の生体サイクルも極めて速く推移している。つまり時空すら飛び越えているのではないかと推察できる。
興味深い、大変興味深いのだよ。これはぜひモニタリングしてデータ収集するべき案件だ。郁美君なら、美代子君を通してもっと深くデータ収集してくれるものだと信じているのだ」
データって、そっちのほう?
みーよの意識を回復させる方が優先でしょ?
……なんて、コイツに言ってもしょうがないか。何とかと天才は紙一重っていうもんね。
「話は、分かったわ。アンタの事だから、コレ、もう一台用意してあるんでしょ」
「話が早い」
Dr.エニグマは、自分と同じ知性レベルを見つけた、とばかりにニヤリと笑う。
天才は相通じるとでも思ってんだろーな。あー気持ち悪い。
ま、機嫌取りはあたしも苦手じゃない、かもしんない、ちょっと自信ないかも。
でもま、みーよの意識を取り戻すには、あたしが助けに行くのが一番早そうだしね。
そーいうのは、得意中の得意よ。
みーよの座るコクピットシートもどき。その後ろの壁が横にスライドして、もう一台のコクピットシートと、そして。
オリハルコン、らしい。
でっかいなー
ちょっとした小山、位あるかな。むき出しの岩塊。ライト級のAK位は優にある。
外側の岩石はだいぶ削られて、中身がほとんど出ている。
その中身は鈍い銀色。所々、チラチラと輝いたり消えたりしている。
あれ、これ、もしかして、生きてる?
石というか、金属なのに?
「わかるか? コイツは高度な精神感応者に波長を合わせて活動しているのだ。コイツをとことん調べ上げれば、人類の進歩に多大な影響を与えるだろう」
「そーいうのは任せるわ。あたしとみーよの肉体の保証はされてんの? なんかあったら強制的に起こしてくれんの?」
「肉体は、生命維持できる。美代子君と違って、君の場合は今着ているパイロットスーツのままで大丈夫だろう。
意識だが、強制的に起こすと、恐らく脳の許容量が持たずに廃人化するだろう」
だろうって、あんたね。
分かってんならみーよ止めなさいよ、このマッドサイエンティストめ。
むしろこんな危ないもんに呼びつけて搭乗せちゃうだなんて、なに考えてんのさ。
ま、考えてることは、簡単に理解るか。あんたデータ収集と解析にしか興味ないもんね。
さて。
顔面蒼白な、父ちゃん。
同じく、顔色が青い、母ちゃん。
だめだよ、今は大切な時期なんだから。心労は身体にも心にもお腹の子にも夫婦仲にも良くないよ。
まったく、妊娠8か月、もうすぐ臨月。よりによってこんな大切な時期に。
もう、しょーがないなー
「父ちゃん、母ちゃん。あんまり心配しないで。あたしが何とかしてみせるから」
「し、し、しかしだね郁美君」
「郁美……」
「このあたしに任せておきなさいって。絶対にみーよを連れ戻して見せるから」
あたしは父ちゃんと、母ちゃんにそれぞれ、軽くハグする。
ついでに源さんにも。
「必ず帰ってくるから、Sweet Bombの整備点検よろしくね」
「あ、ああ……」
いまいち、話の流れに乗り切れないでいる源さん。ま、そりゃそうだよね。
Dr.エニグマ、最初はなんか変なこと言ってるな、みーよの事を寄生虫に操られる宿主扱いかー止めろよーとか思ってたけど。
あたしにも、なんか聞こえて来た。
「郁ちゃん、助けて!」の声が。
嘘みたいだけど、確かに、聞こえる。
急がなきゃ!
あたし専用のコクピットシートに飛び乗る。
ドライブギアは、残念ながら、無い。そりゃそうだね。
各種モニターもないし、CPUグランザール様も出てこない。
代わりに、パパの映っているタブレットを正面に置いた。
「Dr.エニグマ、あたしのコクピットにモニター設置しないのは、手抜きもいい所よ。ダメねぇ、使いもんになんないわね、アンタ」
「ぐっ、こちらにも予算と都合があるのだ」
へ、ようやく化けの皮を剥がしてやったわ。
なんて、以前はそうやって丁々発止やってたなー
今のあたしと源さんの仲の良さを見せつけてやりたいんだけど、そういうことには何の関心も持たないんだよね、コイツ。
サイコミュシステムをフルフェイスヘルメットの上に取り付ける。
「郁美君……」
「郁美……」
「郁ちゃん……」
あたしは、大切な家族(源さんは別だけど、家族みたいなもんよ)に見守られながら、Dr.エニグマに合図を出す。
「いつでもいいわよ」
「脳波状況、異常なし。生体システム、異常なし。対象、樫崎美代子管理システム。オールグリーン。3,2,1,サイコミュシステム、起動」
Dr.エニグマが生の声で暗唱する。見た目より、意外にイイ声。
サイコミュシステムの電源が入る音と共に、視界が暗転した。




