4.さすが父ちゃん。ついつい忘れそうになるけど
あたしが先頭、手には源さんから借りたタブレット。映っているのはパパ。搭載カメラでモニタリングと、一応の警戒も、して貰ってる。物理はあたしが見れるけど、電子的なことはパパの方がいい。
後ろに父ちゃんと母ちゃん。母ちゃん、ちょっとお腹が重そう。気を付けてね。
最後方は源さん。興味深そうに辺りをきょろきょろしている。源さんにとっては、今、自分が整備しているSweet Bombの生みの親の本拠地だからね。なんか、自分より上の技術者だとか言って尊敬してるんだっけ?
あたしはこんなイケ好かないヤツより源さんの方がずっとイイけどねー
「ここだ」
随分と奥の方に連れてこられたけど、造りからして、例のレアメタルの研究所なんだと思う。区画を何回か折れ曲がるように回ったから、後付けの施設っぽいんだよね。
中に入ると、縦5メートル、横3メートルの楕円形の、コクピットルームみたいな機械が部屋の中央に置かれていた。
その中に、みーよが、眠っていた。
「!」
「待て」
本能的に動き出そうとするあたしを、Dr.エニグマが片手で制止する。
フン、反応速いじゃん。
そうだね、さすがにこれじゃ情報が無さすぎ。
みーよは入院着っぽいのに着替えさせられてる。頭には、多分サイコミュシステム運用装置。頭全体を覆うヘルメットに、何本か(たぶん5本。陰で見えないところがある)太いケーブルが繋がっている。
あたしが前にサイコミュシステムのテストをさせられたときは、フルフェイルヘルメットの上からコイツをかぶせられた。邪魔くさかった。
両方の腕にはそれぞれ太い点滴チューブ、というよりは常設チューブだね、ソイツが肘裏(多分大静脈)に刺さっている。詳しくはないけど、多分、栄養輸液と血液透析、だと思う。色がやや黄色と、もう一方は赤い血の色だから。
当然、意識は、ない。反応、全くなし。
息はしている。生きてるね。
まだ、呼吸補助装置は必要ない段階なんだね。
大丈夫、まだ余裕。助けられる。
気持ちを抑えて。あたしは女優。あたしは絶対無敵。
みーよの事を尋ねようとしたら。
後ろから父ちゃんがぬっと出てきた。
「Dr.エニグマ。どういうことか、説明を貰えるかね?」
威厳のある声。あたしが普段、聞かない声だ。
さすが父ちゃん。ついつい忘れそうになるけど、どっかのなんかの偉い人なんだよね。
「小惑星no.152より採掘されたレアメタルは、精神感応金属、つまりオリハルコンだった。我々は、感応能力の高い者を探していたのだが、君の娘、樫崎美代子君が、最適合者だった」
父ちゃんを見もしないで、マニュアルでも読み上げるような感じでDr.エニグマは説明した。
お前は、機械かCPUか?
人としてシツレイでしょうが。
殴ってもイイ?
「どういう意味かね?」
ムッとしそうな気持ちを抑えてんだろうな。父ちゃんがDr.エニグマの前に回り込んで、正面から質問を重ねる。
「君の娘の感応能力が高いことはデータ解析で分かっていた。誘拐しようかとも思ったが、色々と面倒なことになりそうなので、こちらに来て貰った」
誘拐?
みーよを?
オイふざけんなよっ!
「来てもらった、というのは?」
あたしと違って感情のぶれを見せない父ちゃん。さすが大人だね。
「ドーリング会場に招待したのだよ。“自分”で、ここに来て貰うように」
「意味が、分からないのだが。もう少し説明を加えて貰ってもいいかね」
「オリハルコンが採掘されて、この研究所に届いた辺りから、美代子君の脳内に呼びかけは始まっていたはすだ。微弱な電波でも、感度の高い者は感知できるのと同じだ。後は、彼女に“頭の中に呼び掛けている者の正体を知りたければ、ここに来るように”と連絡すれば、平和裏に済むだろう」
平和裏?
ちょっと待ってなにそれ?
それじゃみーよは、寄生虫に操られた宿主みたいに、“自分から”このサイコミュシステムを付けているってわけ?
「我々は、彼女の意思を尊重し、その手助けをしただけだ。後は彼女と、彼女を“召喚した者”との間の話、だ」
Dr.エニグマは、まるで父ちゃんなんか正面になどいないかのように、虚空に向かって話している。
視点は、みーよ、というより、その背後に向けられている。
あーオリハルコンは、あの壁の裏にあるんだ。
Dr.エニグマは“オリハルコン”の、いわば“代弁者”なわけね。
「彼女は進んでその席に座り、進んでサイコミュシステムを起動させた。なんなら、分析動画も撮影してある」
「何が、目的なんだね?」
静かな怒りを抑えながら、父ちゃんが尋ねる。
だよね、とりあえず、みーよを止めるつもりはなかったことは分かるよ。
初めて、Dr.エニグマが、父ちゃんの顔を見つめた。
父ちゃん、チビだからなー
視界に入ってなかったんだとか、コイツは言い出しかねないんだよね。
「オリハルコンのデータ収集、美代子君の生体サンプル、特にサイコミュシステムに関連する脳の動きだな。そこのサンプルパイロットのデータは、役に立たなかったが、今回はうまく行くかもしれない」
そこの、ってあたしか?
あーアレかぶされてた時、そんなことヤッてたの?
だから、あたしはあんなもん無くてもフィンファンネル動かせるんだから、意味無いよって言ってんだけどね。人の話をちゃんと聞きなさいよね。
「君の実験のために、美代子を犠牲にするのは当然と、言うことかね?」
「同じことを繰り返すが、彼女は進んでその席に座ったのだ。我々はその手助けをしたに過ぎない。データ収集は、それとは違う話だ」
少し呆れたような物言い。
天才にありがちな、自分の思考レベルについてこれない奴は置き去りにして構わないという態度。
あーヤダヤダ。やっぱあたし、コイツキライ。
「あの、それで……」
母ちゃんが大きなお腹をさすりながら、声を掛けてくる。
「美代子は、この子の姉は、いつ起きるのでしょうか?」
起きる、ああ、意識が戻るのは何時かって事か。
オーナールームから出て行って、せいぜい2,3時間だもんね。
身体が無事なら、そんなにオーバーに考えなくてもいいんじゃないの?
ん?
そいえば母ちゃん、なんでここにいるの?
みーよが心配だから、とか言ってたけど、本人さえ無事なら、大したことないでしょ?
あれ?
もしかして、みーよ絡みで、あたしらが試合する前から、別便でここに呼ばれているとか?
じゃないと、時間的に合わないよね?
「お母さん、あなたをお呼びしたのは、あなたのもう一人の娘、近野郁美君に関することなのです」
Dr.エニグマが、厳かに母ちゃんに言い放つ。
え?
あたし??




