3.Dr.エニグマ
いつもはそんなこと言ったりしないみーよが「わたしも郁ちゃんの試合、観に行きたい!」なんてオーナーにおねだりするのも、なんかおかしいとは思ってたんだ。
試合の最中までは、オーナールームにいたらしい。お手洗いに行きたいと言ったので、部屋の中にあるとオーナーが言ったのも、間違いない。
返事して、フラッと出て行ったので、トイレに行ったのだと思い込んで、そのまま試合を観戦していたのは、オーナーの責任ではないよね。
で、気が付いたら、みーよはいなくなっていた、というわけ。
「私がしっかり見守っていれば……」
「ワシがきちんと見ていれば……」
オーナーと源さんが悪いんじゃないよ。それは、言ってもしょうがない。
源さんに借りた予備のタブレットで、パパを呼び出す。
こういう時、便利ねぇ。
「それはあっしのことかい?」
「ちがうよパパ。このタブレットの事ヨ。パパのことは、ダイスキよ」
本当の事なんて、言わない。パパの機嫌は損なわないに限るからね。
あたしの女優ぶりにすっかり満足したパパは、あたしの言うことをなんでも聞いてくれる。
オーナールームのセキュリティは万全。みーよは自分で部屋を出て行ったらしい。
パパがセキュリティシステムと“お話”して足取りをたどると、例の小惑星から採掘されたレアメタルの研究室に向かっている。
当然、むしろこっちの方にこそ厳重なセキュリティが掛かっているはずなんだけど、何もないというか、関係者みたいな感じで通過している。
「パパ、あたしたちも同じように研究所に入れたりするの?」
「いや、セキュリティさんは、許可を取ってくださいって言ってる」
「みーよは?」
「彼女は召喚れたから、問題ないんだって」
召喚?
誰に?
研究所の人に?
んもう、ラチが開かないわね。
強行突破して調べようかしらん、なんて物騒な事考えてると。
「許可が、でたよ。みんなで来てくれって」
「セキュリティさんが?」
機械に“さん付け”って、なんか気持ち悪いわね。
「いや、責任者がOK出したんだって」
責任者……あーアイツかー
「来たか」
ぶっきらぼうに言い放つ、身長180cmのやせ形の、白衣の男。
Dr.エニグマ。
あたしたちのアルタイルコロニーに住む、ま、もう一人の天才、ね。
あと一人は? なんて野暮なことは聞かなくてもいいでしょ?
ただ、コッチの天才サマ、ヤラカシ率も結構高めなんだよね。発明、開発の半分は、失敗してると思う。
本人は全く認めていない辺りが、救いようの無い所だけどね。
ん-例えばSweet Bombはコイツが開発したんだよね。
で、CPUグランザールもコイツの作品なんだけど「忠誠の試練」なんてもんを付けちゃったもんで、誰も運用できなかったらしい。
で、もう一人の天才サマのあたしがスカウトされたんだわ。
それも闇雲じゃなくて、コロニー内の色んなデータをかき集めて、見つけ出したのだと本人は言ってる。
いや、最初から余計なモン付けなきゃいいでしょ、と思うんだけど、そういうことを平気でヤッちゃうのがヤラカシ率半々の由縁ね。
あたしがそんな感じでスカウトされて、TILTに所属してドーリングを始めてからの付き合いだから、辞めるまでの2年半、もうちょい居たかな、の間柄なんだわ。
ま、精魂込めて造り出したSweet Bombを運用できるあたしと。
ま、期待通りに勝ちまくるSweet Bombのデータを集めるDr.エニグマ。
お互い、そんなにキライなわけじゃ、ない。
でも、どうせあんたはあたしのことを実験用モルモットとでも思ってんだろうし。
あたしはあたしで、コイツの事を使い勝手の良い便利屋、なんか使えそうなもんがあるなら使ってやってもいいよ、ちゃんとしたのを寄こしてよね、なんて思ってたし。
うん。仲は、良くはないね。
あたしがTILTを抜けてからしばらくして、AKの開発に飽きたとか言ってマッチメーカーの業界から足を洗った、ようなことをオーナーから聞いたことがある。
コイツの事だから、他の事に興味が移っただけなんだとは思うけど。
「見せたいものがある」
あごをクイっと振って、付いてくるように促してから、後ろも振り返らないでスタスタと速足で歩き始める。
ちょっとー誰も付いて行かなかったらどーすんのよ、コッチは妊娠8か月の母ちゃんもいるのよ、もっと人としての配慮を……
いうだけ無駄か。天才サマだもんね。自分が興味のあることにしか関心ないんだもんね。
そーいうのヒトとしてどーかと思うケドなー
ん?
自分の事を言ってるのかって?
まーさーかー、あたしは全然コンなんじゃないよ?
なによパパ、その顔は?
あたしの顔に、なんか付いてる?




