86.そういうの、もうイラナイからね?
風景としては、高い所から街を見下ろしていたはず。
塔から、階段を下りていたはず。
なのに、いつの間にか階段を登っている?
ん?
なんだっけ、ミラーハウス? マジックハウス?
登った先が、客の姿はないが、様々なものがきれいに陳列されている店内になっている。
「なに? ここ……」
あたしの反応がよほど面白いらしい。
マクロン閣下がご機嫌だ。
「吾輩の孫が経営しておる、魔法用品店じゃ。空間を繋いでおる」
こともなげに空間を繋ぐって言われても。
「転移術は周囲に障害物のない、広い空間が好ましいのでな。城の先端にある塔を使っておる。そこから歩きで出ると、衛兵どもに見つかるでな。空間を繋いでおるのだよ」
ん? ん?
ゴメン、話について行けない。
「マクロン閣下は“なんでもあり”だ。あまり深く考えない方がいい」
あたしの横で、マイアミが首を振って、そう慰める。
「送って貰って助かった。文句ではないが、できれば味方ごと焼き尽くすのは、手加減して貰えるとなお良い」
言っておかねばならない、と戦斧使いが釘を刺している。
ん-コイツの名前、また忘れそうだなー
ヘタレでいいか。
「ダナン、俺たちは警告したぞ?」
「星落としは、あらかじめ定められた時間にしか行使できない。ご存じですわよね?」
シュトルムと女僧侶が、諭すように反論してる。
「……承知している」
「マタネ」
亜人の小人が、話に関係ないのに割り込んできた。
いや、あたしらじゃない、デンに言っているんだ。
「気が付いたか?」
「……降ろせ」
マイアミの腕の中で、もぞもぞ動き出している。
そっと降ろされたけど、まだふらふらしているデン。
それでも、小人の手を取り、軽くハグを交わした。
「デン、ガンバッタ。エライ」
小人が回した手が、そっとデンのフードに触れる。
「クチュクチュ、ありがとう……」
デンも、小人の三角帽子の上から、頭をなぜている。
へえ、小人の名前、クチュクチュっていうんだ。
小さい人同士の交友というか、抱擁を、周囲の大きい連中が微笑ましく見守った。
なんか、毒気を抜かれたみたいで、戦斧使い、んと、ヘタレじゃない、ダナンが鼻を鳴らした。
「まあ、皆が無事なら、それで良いことにしてやる」
「……そうしてくれ」
シュトルムも、言い争いは回避したい口だね。
「もう良いな? 認識阻害の結界を解くぞ」
なに? 情報が多くて付いてけないよ。
あたしの疑問なんか無視で、閣下が杖を左右に振る。
次の瞬間、あたしたちは通りに立っていた。
右にマイアミ。手を繋いでデン。
左にダナン。真ん中に、気絶したままのみーよを抱えたあたし。
街の音も、臭いも、風も、急に感じて来た。
後ろに、魔法用品店の看板が掲げてあるお店。
なによ、いきなり店外に出されたの?
「認識阻害の結界は、私たちの方にも掛かります。外への認識を阻害されるのですよ」
もう慣れた、風にマイアミが説明してくれる。
なんだかなー
もっとちゃんと説明してよ。
誰だろう、この手の人物、あたし、知ってる。
似ても似つかないけど、なんか性格がそっくり。
現代の、あたしたちのコロニーのもう一人の天才。
うん。Dr.エニグマだ。
自分勝手に研究を進めて、周囲の事は気にしない。
自分の意見と合わない奴は平気で無視してくる、そう、アイツだ。
ま、チョコチョコとは、違うところもあるけどねー
「さ、教会までお送りしますよ」
マイアミが先に歩き出す。
「ん? 一緒に行くの? 別にいいよ? 一人で帰れるよ?」
「聖女様を抱えてですか? 何かあったらどうするんです? 護衛が必要でしょう?」
「なんにもないよ? そんなもん」
「両手が塞がっているのに? どうやってお守りするんですか?」
ぐ、ぐぬう。
あたしの嫌いな、あたしが反論できない、正論も正論だわ。
くそーコイツ、弱いくせに大人なんだよね。
こういう大人に、あたしは意外と弱いんだよねー
「デンも一人で歩ける位には回復してきたみたいですし、お送りさせて下さい」
「……分かった」
分かったけど、まさかウチらの教会に居つくつもりじゃないでしょうね?
そういうの、もうイラナイからね?
ホントにホントにイラナイからね?
護衛の効果は絶大で、大通りでもスラムでも、誰にもなにもされなかった。
制服姿で聖女様を抱っこして歩くあたしは余計に目立ったけど、フルプレートアーマーのバトルアックス持ちと、モーニングスターと丸盾で武装したチェーンメイルに紋章付きベストの男たちが左右を固めていると、存分に戦ってきた冒険者が帰路に付いているようにしか見えないね。
デンは、こういう時は極力存在を隠しているんだね、というのも分かってきた。




