83.大地の息吹
「でもメロー、あなたはこちらを手伝いなさい」
「えー」
「不満でも?」
「いえ、お姉さま」
しぶしぶ、でも逆らえない、といった感じで、黄色い法服の野良ちゃんが、女僧侶の側に立った。
同じデザインの法服。違うのは、女僧侶の頭にティアラがあるのと、野良ちゃんのケープのデザインと(聖女の証しらしい)、杖のデザインというか、豪華さというか、気品が違うところ。
ついでに物腰や態度や話し方も、まるで違う。
うん、格が違い過ぎる。
二人が、クレーターの脇に立ち、大きく手を広げ、杖を高く掲げ、こっちも神代語なんだろうね、ぜんぜん分からない言葉で、響き渡るように歌うように、唱えている。
二人の杖の先端と、女僧侶のティアラについている宝石が光り始める。
杖から黒雲が発生し、みるみる大きくなって、クレーターを覆っていく。
びっしり覆われると、雲が上昇し、雨が降り始めた。
雷も鳴る、本格的な強い雨。
雨が収まり、日が照りだすと、いつのまにかクレーターが無くなっており、草木が映え出て、大地が元通りになっていた。
「な、なに、これ……」
「大地母神ガイアナ様の思し召し、傷ついた大地を回復させる術“大地の息吹”ですわ」
女僧侶が、自分の術の出来栄えに満足して微笑んでいる。
「マクロン閣下の“星落とし”と、私の“大地の息吹”は、破壊と回復のセットになっているのですわ」
そ、そうなんですか。
いやでも、最初からあんなにスゴイ魔法使わなければいいんじゃないの?
「マクロン閣下は仲間が無意味に傷つくことを嫌がっておいでなのですわ。
そのためにはある程度の犠牲は容認されなければなりませんわ。
わたくしが教会から遣わされたのは傷ついた大地を蘇らせるためなのですわ」
お分かり?
いえ、すいません、よく分かんないです。
ま、おバカさんには何言っても分からないでしょうから。
表情で会話して。
お姉さま、あたしの相手に飽きたらしい。
矛先が黄色野良聖女に向いた。
「メロー、また瞑想と祈りをさぼってますね。それだから、いつまでたっても付き人が現れないんですよ。さあ、もうあきらめて教会に戻りなさい」
「いやです。こればかりは、お姉さまの指示には従えません」
フルフルとかぶりを振って。
「みんなを手伝ってきます」
行ってしまった。
困ったわねえ、な顔の女僧侶。
なんか、複雑なご家庭なのねぇ。
「あの……」
緑色の、モジャ頭に黒メガネの聖女ちゃんが、あたしに声を掛けて来た。
「お怪我の具合を見たいのですが、宜しいですか?」
「あぁ、そうだね」
大地の息吹だっけ、見とれてたんで、自分の身体の事を忘れてた。
ってか、色々ヒドいことになってる。
特に制服。あちこち破れてるし、返り血と泥でぐちゃぐちゃ。
あら、ブラがみえてるわ。あたしのアミメニシキヘビちゃん、こんにちは。
ん-身体をキレイにしたい。シャワー浴びたい。一刻も早く!
「ごめん、ちょっと理力が足りない」
「いいよ、みーよの防御結界がなければ、みんな消し飛んでた。我慢するよ」
そう。わがまま言わない。生きてるだけで充分だよ。
「ミヨ、わたしの理力を分けましょうか?」
緑色の聖女が申し出てきた。
そういうこと、出来るの?
「頼める?」
出来るんだ。
彼女たちが、互いの額をそっと当て、祈り始めると。
二人の杖が徐々に光り、消えた。
「ありがとう。ギリギリ、一回分。なんとか」
みーよの奇跡で、うわぁ、シャワールームだ!
「ありがとー!」
大急ぎで跳びこみ、急いで制服を脱ぎ捨てる。
ああ、なんて気持ちいい! 生き返るっ!
右手と左手、同じように打ち身で腫れてる。
ただ、ガードグローブのおかげで、その程度で済んでる。
お腹の傷は、地竜に飛びついた時かな? これ、結構深いね。大きな擦り傷になってるわ。
胸とか背中に打撲と切り傷が多数。まあ、オークの足とか槍衾とか、思い当たるシーンがありすぎる。よく無事でいられたねぇ。
両足も、結構打撲がヒドいんだけど、エンジニアブーツの防御のおかげで、その程度で済んでる。
チラみせに使う、あたしの可愛い太ももちゃん。すり傷切り傷かすり傷がたくさんだわ。
おしりも3か所、やられてる。
全身、傷だらけ。興奮が収まってくると、全部痛みだすんだろうな。
まあ、関節と骨に異常が無いのはありがたいね。
あれだけの戦いで大きな怪我が無いのは、相手が弱かったのか、あたしが天才なのか。
欲を言えば、将軍クラスの、武芸や武勇をもっているオークと戦いたかったんだけどね。
いや、欲張りすぎだよね、さすがに。




