81.背中は任せろ こじ開けろ!
走りながら、説明を求めたけど、コイツ、足が速い!
こっちも全速で走んないと、置いてかれる。話なんて無理!
んもー体重差があるでしょー手加減しなさいよー!
大体、そんな全身覆い隠してる恰好で、なんで足が速いのよー
あ、そっか、ローブの下から足元だけ見えてるね。
ってそんな理由ちがーう!
近道なんだと思う、やぶで隠された獣道を、くぐるように突き進む。
あたしの忍び走りより、はるかに速いデン。
姿を追うので精一杯。
いつまで走るの、と思ってたら、急に視界が開けた。
川の流れる音。たくさんの豚の鳴き声、いや、オークの鳴き声。
女性の悲鳴や、すすり泣きの声。複数。10人はいる。
大きな屋根付きの荷車が何台も連なる、その奥の方から聞こえる。
見張りは大勢。もう見つかっている!
「背中は任せろ」
デンの低い声。
「こじ開けろ!」
誰が誰に向かって命令してんのよ、もー!
「付いてこれないなら置いてくからね!」
無茶苦茶な事を言われてると思う。
でも、身体は正直。
歓喜に震えている!
本能のままに、たくさんのオークたちで踏み固められていて安定している地面を、低い体勢で走り始める。
うわぁ。最初の大きな荷車まで100メートル位。結構近い。
見つけた。
女性たちの荷車は4台目か。むりやり中に放り込まれている。
こっちに集まってきたオークは20匹位。すぐにもっと集まってくるね。
で、奴ら、投げ槍を投げて来た。
へー飛び道具なんだ!
でも、それは大勢対大勢の時に使うもの。
当たりっこない。
あ、そっか、本隊同士の決戦用の備えか。
デンがかわせるかは知らないけど、気にしなくていいんでしょ?
気にしないことにする。
2度目の槍の斉射の前には、もう先頭グループのオークの目の前に着いている。
コイツら、皮鎧とヘルメットで武装してる。さすが本隊だ。
武装付きのオークって、お金になるのよね。
でも、ポーター制度だから、武装分は山分けになるのかー
ま、いっか。
槍で地面に突き刺そうとしてくるのをかわして、アキレス腱を切断する。
呻いてかがんだ背中に登り、そのまま2匹目のヘルメットを蹴飛ばして高く跳ねる。
頭を下にして宙返り、アギト・ナイフごと旋回して、あたしを捕えようと伸ばされた腕をかたっぱしから斬り落とす。
そのまま縦回転、いい所にあったオークのヘルメットを蹴っ飛ばし、1台目の荷車の屋根に張り付く。
デンは?
確認したいけど、暇がない。
そのまま屋根越しに、女性たちのいる荷車に向かって走り出す。
2台目との距離は7、8メートルあるかな?
踏切を間違えなければ、跳べる距離。
ギリギリ足が掛かった。掛かればこっちのもの。
そのまま勢いで走り抜ける。
下の方でかなりの騒ぎになってるのが分かる。もう、二重三重に取り囲まれてる。
あたしの狙いも分かるらしい。女性たちの荷車を移動させようとしているのが分かる。
動かしてるのは、角の生えた大きな地竜だね。全長4、5メートルはありそう。首と腹に革帯を付けられ、綱で荷車に繋がれているらしい。
3台目の荷車に飛び乗り、そこから強く助走をつけて、動き出した地竜目がけて跳ぶ。
ギリギリ、背中には届くけど、着地が難しい。
気にしない。ちょっと斜めに、竜の背中を滑るように着地しながら。
アギト・ナイフを両手で握って、背中に根元まで突き立てた。
そのまま勢いよく切り裂きながら、落下速度を落としていく。
ナイフのグリップが効いて、両手でぶら下がるように滑るあたしの体重と落下速度を支えてくれる。
ものすごい悲鳴を上げる地竜に、ビビるオークども。
地面に着くと同時に、女性たちの乗る荷車と地竜を繋ぐ綱を切り落としていった。
解放された地竜が、痛みに悶えながら暴れまわる。
他の地竜も、不安げに鳴き始めた。
よーし、暴れろ暴れろぉ!
オークどもが混乱している間に、あたしは荷車の入り口を探す。
「こっち」
低いけどよく通る声に導かれて、裏に回ると、もうデンがいた。
「カギを開ける。30秒」
「分かった」
こっちに気づいたオークの方に、あたしの方から向かう。
振り下ろされた大ナタをかわし、そのまま腕によじ登り、背後に取りついてアギト・ナイフを首元に当てる。
まだ、斬らない。
「武器を捨てろ! さもないと、コイツの首を斬り落とす!」
伝わるかどうかは知らないけど、人質をとったぞ、抵抗を止めろ、というのはジェスチャーってか、見れば分かるんでしょ?
オークどもは、互いの顔を見合わせ、こっちを指差して笑いだす。
「何がおかしい! コイツがどうなってもいいのか!」
こっちもリップサービス満点で、悲壮な声を張り上げる。
デン、まだ?
そんなに持たないよ、これ。
笑いあったオークどもは、そのまま、あたしごとオークに大ナタを振るってきた。
全方位からの容赦ない攻撃!
逃げ道は上しかないけど、落ちる間にヤラれるね。
だから、逃げるのは下!
オークの首を斬り落としながら、その肉の陰に隠れる。
滅多切りの音、血しぶきがシャワーみたいに降り注ぐ。
臭いなーもー
潰されないように転がりながら、オークの足をかたっぱしから斬りつけていく!
かなり取り囲まれている。囲いの外が見えない。
ここで粘るしかないか。
いつか、潰されるか踏みつけられるけど。
お、あたしを見つけて、こんな狭い所で大ナタを打ち下ろすオバカさん!
転がったまま、アギト・ナイフの背で受け流す。
さすがに、重い一撃。手がしびれる。
けど、ヤツがつんのめってくれたんで、腹にナイフの一撃を入れてやる。
皮鎧ごと、貫いてやった。
この程度の防具なら、無いよりマシッて程度だね。
そのまま背中に回ってよじ登る。
少し、空間ができた。
肉の塊を踏み台に、あたしだけのステージよ。
オークたちの憎悪の目、目、目!
イヤん、そんなに見つめないで。照れるじゃないのさ。
仲間のオークがいるにもかかわらず、またも全方位から大ナタが振るわれる!
背中を滑り降りて、足元をまた切り裂いていく。
指揮官らしいのが、なんかブヒィブビィと叫んでいる。
包囲を広げて、足元に入れさせるな、って感じ?
それが正解だよね。
こんな足元じゃ狭すぎて、アンタらの武器じゃ、あたしに当たらないもんね。
ま、コッチも大変なんだけどね。
囲いが広がるのを感じて、ついて行こうとするけど、さすがに転がったままじゃ無理。
立ち直った時には、あたしの周囲、直径3メートルに肉壁が、二重三重に作られていた。
また足元に入られないように、下段に大ナタの構え。
中段、上段は、投げ槍が、文字通り槍衾。
羽根でもないと、空へは逃げられないね。
指揮官、あたしを絶対に逃がさない気だね。
槍が勢い良く突かれる。
かわした方向から、再び槍が突かれる。
かわしたまま掴んで、引き倒そうとすると、他の方向から槍突き。
手を放してかわさざるを得ない。
参ったね、こりゃ。
強硬手段で突っ込むと、何匹かは殺せるけど、ソイツらごとあたしも一緒に八つ裂きになるね。
迂闊に近づくと、背後から槍が襲ってくる。
連中、このままあたしの体力を削って、なぶり殺しにするつもりか。
どーしよっかなー
こういう時は、まともに考えたらダメだね。
ブタどもに、隙を作って貰うのがイイよね。
コイツラ、どう考えても女好きなんでしょ?
わざわざ、女性たちを閉じ込める荷車を用意する位だもんね。
ナイフを持たない手で、制服のスカートをチラリと捲って見せる。
血だらけの制服だから、人間には何の効果も無いと思うけど。
アンタら程度なら、イケルでしょ?
ほら、今日の下着はアミメニシキヘビ柄なのよ?
もっとちゃんと見たいでしょ?
チラッと見せて、すぐ隠す。
かぁるく、腰をゆすって見せる。
見たいでしょ? 触りたいでしょ? 欲しいでしょ?
お、かかった。
一匹が、興奮して前に出て来た。
穴、見っけ!
そのまま近寄ったヤツに抱き付き、ヤツがとても欲しがったアギト・ナイフの刃を、皮鎧の上から腹の中にタップリとくれてやる。
呻くオークの背後に回り込み、隊列の崩れたその中に突入する!
前、右、左に三連撃でアギト・ナイフの突きを入れていく。
二列目の隊列なので、槍は気にしなくていい。
ついでに後ろは、さっきアギト・ナイフを腹の中一杯に突き刺してやったデカい身体が守ってくれる。
囲いが乱れた方向に、あたしは乱暴にナイフを振るいながら、強硬脱出を図る。
身体で止めようとするヤツにはナイフを。
ナタを振るおうとするヤツにもナイフを。
槍で突き刺そうとするヤツにもナイフを。
狭い所じゃ、そんなものは役に立たないということが分からないらしい。
まあ、集団対集団で戦おうと思ってたんだもんね、しょうがないんだけど。
致命傷までもっていけたのは、そんなにいないし、そんな余裕もないけど。
なんとか、囲いは抜け出した。
んで、デンは?
女性たちの荷車は、扉が開いている。
でも、誰も自分で逃げ出す様子はないね。
で、デンが何人か引っ張り出しているみたい。
力が無いので無理なのか、彼女たちに逃げ出す気力が無いのか。
3人、外にいるけど、倒れたままだ。
ついでに言うと、あんまり言いたくないけど、全員、裸。
ん、これ、無理だ。
「デン、無理、引くよ」
なんでかぶりを振るのよ。無理なもんは無理だって。
あたしも、かなり危ない橋を渡ってるのは分かってる。
彼女たちに、そこまで命を掛けなきゃならない理由が、あたしにはないよ?
あん、どうしても、嫌らしい。
ってか、オークどもに気付かれちゃったよ。
「出すだけ出す。10秒」
お、頷いて、オークの方に向かっていったよ。
死ぬんじゃないよ?
危ないのは承知で、荷車の中に身体を突っ込む。
あたしが敵なら、そのまま閉じ込めるね。10秒持たせてよ?
うっすらと明り取りの窓から光。
申し訳程度のカーペットの上に、年齢の様々な女性たちが、全員裸で横たわっている。全部で7人。
臭い。ものすごい臭い。
死臭じゃない。もっと邪悪で醜悪なニオイだ。
「出ろ! 急げ!」
反応なし。
アギト・ナイフを収納し、同時に2人、腕や肩を掴んで放り出す。
ほぼ抵抗なしだけど、一応、自分の力で降りられは、した。
反応は無くても、意識は残っているらしい。
同じ動作で、後2人。
残り3人。イケルか?
外を確認したい気持ちを堪えて、2人追加。
あと1人は、小柄な少女なので、そのまま抱えて外へ脱出。
こっちは意識も反応もないね。
10秒はとっくに過ぎてるよね?
あーやっぱり、囲まれちゃってる!
アブナイ、扉を閉められるところだった。
そこまで知恵が回らないらしい。アブナかった。
外に出した裸の女性たちは、全員、オークの腕の中だ。
ニタニタ笑いながら、彼女たちの身体を舐めたりニオイをかいだりしている。メチャクチャ気持ち悪いんですけどっ!
そっか、コイツら、ソッチの方に気を取られたみたいね。アブナイアブナイ。
で、彼女たちが身悶えしているけど、苦痛ではないらしい。
もう、まともな精神が残っていないんだ。
あたしも、抱えていた気を失ったままの少女を地面に降ろす。
さて、どうしよう?
デンめ、みんなあたしに押し付けて逃げたな?
にゃろーどうしてくれよう。
と、思った時。
オークたちの背後で悲鳴が上がる。
そっちに注意が、一瞬だけ向いた。
その一瞬で十分。
アンタらの相手は、あたしだよ!
手前のオークに、飛びつきざまの居合抜きで、首を半分切断。
着地と同時に、2匹目の腹にナイフを突き通す。
3匹目はわき腹から。4匹目は背中から。
オークどもがこっちを見ると、再び背後からオークの悲鳴。
そっちを向けば、あたしが餌食にしていく。
2回、ヤツラが振り返り、振り返りした辺りで、オークたちはまともな心を失った女性たちを放り出して、逃げ出し始めた。
その後に残されていたのは、デンだった。




