80.見透かしてますよ? 表情が、そう語っている
前方が、慌ただしい。
戦場が、近い。
アギト・ナイフをよく拭いて、血糊をぬぐって、油を薄く塗っていたあたしの手が止まる。
似たようなことをやっていたシュトルムも、手を止めて道具を片付け始めた。
何で分かるのか、不思議そうなみーよ。
いや、ワカルよ。空気が変わるって、スグ分かるでしょ?
とてもハッキリと分かるよ。
だってあたし、今、スゴク研ぎ澄まされてるもん。
シュトルムの隣で、女僧職者が、彼の行動を見て、自分の支度を始めた。
彼女も、理由は分からないけど、シュトルムには分かる事を知ってるんだね。
「マクロン、宜しくて?」
「……うむ。着いたか?」
隣の魔法使いにそっと話しかけると、やや暫くして返事が来た。
「はい。星の動きは?」
「捉えておる。いつでも撃てるぞ」
星?
運命みたいなもん?
いや、撃つって言ってるんだから、違うか。
と、そこに、斥候に行ってたんだろうね、亜人の小人が帰って来た。
なんでもないように馬車に飛び乗ってきたけど、この馬車、結構高い位置に荷台があるし、走ってる最中だよ?
やるねぇ。
「クチュクチュ、どうだった?」
シュトルムが話しかけると、耳元にコソコソと話しかける。
しばらく聞いて、頷いた。
「分かった。そのままギルドマスターにも伝えてくれ」
小人は頷くと、すぐに馬車から飛び降りた。
「オーク本隊は、そのまま陣営を組んで、こちらを迎え撃つつもりらしい。各地に散った偵察部隊も戻ってきている。あと、向こうはオーク・ジェネラルと、オーク・プリーストが一頭づつ。コマンダーが各小隊の指揮をしていて、今は3人いる」
小人から聞いた内容だと思う、そのままを伝えてくれた。
「奇襲は無理そう?」
「待ち構えているからな」
さっきの小隊みたいには、いかないのね。
まあ、こっちが移動中に、相手の陣容まで先に分かるのは、大きいと思う。
斥候なんて簡単にいうけど、決して楽じゃないと思うよ?
あの小人、かなりスゴイんだね。
と、もう一人の斥候、出来る子デンが、帰って来た。
こっちも、馬車がまるで走ってなんかいないように、乗り込んでくるんだね。
そのまま、あっちのパーティーじゃなくて、なぜかあたしの方に、来た。
「来て」
低く、早い声。
いや、ちょっと待って、いくら速攻即決なあたしでも、反応できない。
急に言われて、戸惑ったまま、そっちのリーダーは、どっちだ、頭の良い方か、マイアミを見る。
「この子がそういうなら、付いて行って下さい。体制を整え次第、我々で後を追います。あなたの聖女様は、命を掛けてお守り致します」
分かった。
みーよをチラリと見て、確認だけして、行こうとすると。
「待て」
魔法使いマクロン“閣下”? が太い大きな声を上げる。
「どうせ全て燃やす。無意味な事は止せ」
デンがズカズカと歩み寄っていく。なんか怒っている。
「止せ」
シュトルムが、その前を塞ぐように立ちはだかる。
そのまま二人が、ジッと睨み合う。
揺れる馬車の上で、二人とも微動だにしない。
「構ってくれそうな若く経験のない子なら、来てくれると思ったのですね?」
その後ろで、何でもない事のように冷静に、女僧侶が指摘する。
見透かしてますよ?
表情が、そう語っている。
デンが、フードを被ったままで、女僧侶を見つめる。
背中越しで、顔も何も見えないけど、怒っているのは分かる。
「ゴメン、ちょっと何言ってるか分かんない。今、大事な時間だと思うんだけど、説明頼める?」
あたしも関係者だし。そう言って周囲を見る。
マイアミ、あんた、行けって言ったよね。なんか知ってる?
「閣下、どれ位時間を頂けますか?」
あたしに説明、じゃないのか、魔法使いに話しかける。
「30分までは待ってやる。過ぎると、星の拘束が外れる」
「デン、それでいいか?」
怒りが収まったらしい、デンが頷く。
感情の切り替え、早いな。
「責任は取れないぞ?」
シュトルムが念を押すように、マイアミに言う。
「全て、私が取ります。さ、時間がありません」
よく分からんけど。
巻き込まれてるけど。
ま、いっか。
みーよに一度頷いて、あたしはデンと共に馬車から飛び降りた。




