77.まだ行くのかって? 当たり前でしょ?
斥候役のデンが馬車から飛び降り、駆け足で森の奥へ消えていく。
馬車自体は速度を落としてはいないんだけど、デンの足が速い。
「デンが戻り次第、馬車から降ります。ひそかに近づいて、奇襲を掛けましょう」
僧侶戦士のマイアミが、そう提案する。
「オッケー」
「聖女ミヨ、オークたちに呪いは掛けられそうですか?」
「残念ながら、わたしはその系統の理力を授かっておりません」
「そうですか」
分かっていたけど、残念そうなマイアミ。
「いえ、奇襲ですから、詠唱するだけでも対処されてしまいそうです、お気になさらず」
「いえ、呪いよりもコワイ存在を送り込みますから、大丈夫ですよ?」
別に落ち込まない、むしろ自信たっぷりにみーよが応える。
……ずいぶん大きく出たな、ああ、付き人か。
……しかし、本当に大丈夫なのか?
二人の男たちに、そんな顔をされてしまった。
「わたしの光の見えるところにいて下されば、光の女神アーリューシャイン様の御加護をお授け致します。治癒はマルチ・ヒールを授かりましたので、お任せ下さい」
「それはありがたい。以前は使えませんでしたよね」
「はい、最近、授かりました」
……そうですか、以前のションベン聖女とは、違うのですね。
マイアミ、そういう顔だね。何か、表情が優しいぞ。
フン、みーよは、まだお前なんかの嫁には出さないからね。
どうしても欲しいなら、あたしを倒してから行くがいい!
10分位経った頃、デンが斥候から戻ってきた。
馬車を止め、あたしたちが降りる。
そのまま、デンの案内で、少し道を外れた、獣道みたいな所を歩いた。
5分も歩いたかな。もう、オークどもの声が聞こえる。
デカブツの集団だからね。声や姿を隠すのは、無理だよね。
デンはあたしを見て、みーよを見て、格好が派手だからすぐ見つかる、とゼスチャーする。
しょうがないでしょ。みーよはそういう職業なんだし。
あたしは、好きで着てるんだからいいのよ。
「先に行く。後から来て。みーよの事は、光の障壁が出来るまで、守ってあげてね」
「お、おい」
戦斧使いの言葉なんか聞かないで、身を潜めながら、獣道を速足で移動する。
まだ奴らに見つかっていない。間合いまで、後30歩かな。
腰袋から石を3つ掴み、スリングに仕込む。
振り回さないで、一個目を上に放った。
そのまま、二個目を仕込みつつ、移動しながらタイミングを計る。
3、2、1、今!
落ちてきた一個目の石が、オークの集団の誰かに当たって、声が上がる。
オークどもがそっちに注目した瞬間、あたしは二撃目の石を、一番手前のオークの後頭部目がけ、放つ。
ダメージはほとんど無いんだろうけど、こっちを見させるには十分。
3個目の石を仕込んで、石を当てたオークが振り向いた、その目を狙う!
命中! さすがに痛そうで、手で目を抑えている。
この集団の中で、今の瞬間、一番弱いのは、お前だ!
全速力で走りながら、スリングを手早く腰袋にしまいこむ。
素手のまま、オークどもが何事が起こっているのか判断できずにただ見つめる中、あたしは目を抑えているオークの、身長2メートル越えの頭を目がけて跳び上がる。
スリングを収納したその手が、アギト・ナイフを握りしめた。
抜きざま、目を抑えているオークの腕を掴み、そのまま首元にナイフを滑らせる。
半分ほど切断。すごく刃が通る。滑らかすぎ。
血が噴き出すのを避けながら、オークの肩から跳び上がり、2匹目のオークの頭、そのてっぺんにアギト・ナイフを貫き通した。
ありゃ、深く入りすぎた、抜けるかな?
そんな心配はいらなかった。
頭から血を吹き出しながら、なおもあたしを捕えようとする腕をかわし、3匹目のオークの顔面に蹴りを入れる。
後ろから追ってくる腕が、蹴られたオークの顔を掴む。その時にはもう、あたしは別のオークの後背部に取りつき、ヤツの心臓に冷たくて切れ味のいい刃を刺し通していた。
短剣だと肉が厚すぎて届かないんだけど、コイツは大丈夫なんだよね。
ホント、使いやすいわ。
さっき、顔を掴まれてたオークが地面に倒れて来たので、ついでに首をかき裂いておく。
「3、じゃない4匹目か」
地面に降り立ったあたしを捕まえようと、たくさんの腕が伸びてくる。
足元を転がりながら、アキレス腱や太ももや肘裏の肉など、当たるを幸い、切り裂いていく。
怒りに震えて地面に叩きつけられた拳をかわし、そのまま掴んで奴の首元へナイフを刺し通す。これは致命傷にはならないね。
そのまま背後に回り、頭を掴んでよじ登って、ちらっと周囲を観察。
隊列が乱れまくっている。後ろの方が、ようやくあたしという敵襲に気づいたみたい。
前の方はもう、バラバラだね。
みーよたちが、追い付いてきたみたい。
「来い!」
一言だけ叫んで、あたしは後方の無傷なオークどもに向かう。
前の方のとどめは、任せた。みーよだけ、ちゃんと守ってね。
「この格好付けがぁ!」
なんか言われた気がしたけど、聞かなかったことにしよう。
後方のオークは、さすがに奇襲は効かないね。武器をきちんと構え、隊列を乱していない。
互いが互いを守り合い、あたしを強敵だと認識して油断していない。
ま、関係ないけどね。
歩幅を緩め、ゆっくり近寄る。
何だコイツ、という反応が返ってくる。
そうそう、そういう素直さが大切よ。
ゆっくり、ゆっくり、突然ダッシュ!
反応が鈍い一匹を見つけ、足元にスライディング。
片方の足首を切り落とし、密集した二列目のオークの腹にアギト・ナイフを突き刺す。
悶え、怒りに震えるオークに構わず、隣のオークの腹にもナイフの刃をくれてやる。
もう一匹、イケそう。オマケとばかりに腹をかき裂き、そのまま再び足元に潜り込む。
バタバタと揺れる足を切り裂きながら、隊の外へ転がり出る。
アンタら、腹がデカいんで、集団の足元に潜り込まれると、下が見えないんでしょ? 知ってんだゾ。
向こうもこのまま隊列を組んでいるとかく乱されるだけだと、ようやく気付いたらしい。隊長? らしいオークのブヒブヒ声で、散らばって隊列を組みなおす気だね。
あたしも、一旦引いてみんなと合流、立て直しを図る。
って、まだ片付いてないの?
何を苦戦してんのよモウ。
みーよにオークが取り付いちゃうでしょ? シッカリしてよー
戦っているオークの背後から、1、2、3匹と軽く仕留めて廻る。
コッチを全然見てないので、楽勝だった。
「余計なお世話じゃ!」
「あーハイハイ」
何だ戦斧使い、意外に弱いなぁ。
僧侶戦士も、手負いのオーク1匹にてこずっていたので、援護というか、サクッと仕留めた。
「だいじょぶ?」
「た、助かった」
息も絶え絶え。んーご苦労っていうか、ホント大丈夫?
「ダンジョン、では、こんなに、一度に、たくさん、魔物は出ない、ように、してる……」
息が切れ切れだ。まあ、勝手は違うよね。
「ま、まあ、助かったわい。礼は言わんとな、礼は」
「いいとこあるじゃん。一度に3匹相手は、さすがにキツイね」
3匹どころじゃない数を相手にしてるあたしが言っても、説得力ないけどね。
デンは、ゆらり、といった態度で、みーよの側にいる。
光の障壁に守られているので、特に問題は無いみたいだ。
ホントに危ない時は助けに行く感じ?
あたしが来たから、任せて良いだろうという感じ?
強いの? 弱いの? ん-よく分からん。
みーよが杖を振って、あたしにスポーツドリンクを出してくれた。
「ありがと。8匹仕留めた。前の方の連中に結構な傷は与えたけど、残りは逃げたね?」
「あ、ああ。それで少し楽になった」
「後ろの方は4匹に多分致命傷。もう戦闘は無理だね。他にもう何匹か足を切り裂いてるから、見た目より余裕だと思う」
なによ、なんて顔で見てんのよ?
まだ行くのかって?
当たり前でしょ?
スポドリを飲み干して、空容器をみーよに返す。
「さて、もうひと稼ぎ、もうひと汗かきますかー」
すっかりひるんだオークちゃんたちに、あたしはニタリと笑いながら近づいていく。
まともに動けるのは、多分7、8匹って所だね。
逃げ出したのは、本隊に仕留めて貰おう。追っかけるの、メンドクサイし。
大体、そこに新鮮な肉があるんだから、美味しく頂きたいのよね。
あ、無傷のまま逃げないでね?
まだアンタらの方が、数では多いんだし。
大体、そのデカい図体のくせに逃げ出すって、どういう根性してんのよ?
なんて、まあ所詮は豚だもんねー
人間様を真似て、二本足で歩いている時点で、もうダメなのよ?
そうそう、固まって、お互いを守り合って、丸くなっていてね?
逃げちゃだめよ? あたしが全部、美味しく頂くんだからー
と、オーク共がてんでバラバラに、別方向に逃げ出しやがった!
「こらあ、逃げんなぁ! 戦えぇ!」
隊長でもないのに、あたしは声を絡げて呼び止めたけど、止まらない。
追っかけるの、メンドクサイなー
とか思いつつ、1匹、2匹と仕留めていくと。
デンが他の方向に逃げたオークを仕留めてくれている。
足が速いんだよね、コイツ。頼れるじゃん。
汚い血が垂れ流しされるのを必死に抑えながら地面に座り込んでるのは、あたしが腹を切り裂いた奴らだね。こいつらは後回しでいいや。トドメは後でちゃんと刺してあげる。
先に、元気に逃げ回る奴らを追いかけなきゃねぇ。待てぇー




