76.意見は聞く、けど、どうするかはもう決めている
新章開幕。
慌ただしい朝だった。
気配を感じて起きだすと、まだ夜明け前なのに、かなりの人数が起きだしているのを感じる。
横で眠っているみーよも、あたしが起きたのを感じたのか、起きだしてきた。
昨晩遅く、あたしたちの斥候が、オークどもの拠点を発見した。
この村(の残骸)から北に20キロ、川べりに一大野営地を作っているみたい。
そして、こっちの集結地も、向こうに発見されているみたいなのよね。
主だったメンバーを集めたギルドマスターが、羊皮紙の地図を広げて状況を説明し始める。
まだ日が昇っていないので、みーよが光の奇跡でみんなと地図を照らす。
「オーク軍は野営地の規模から考えて、総数は1個中隊、約100匹規模だ。
別に、犬鬼の奴隷兵どもが補給や武装の整備を賄っている。
どうやら、各地に分隊を派遣して、この地を探っているらしい。
奴らが分散しているうちに野営地を叩きたいんだが、一個小隊約30匹がこちらに向かってきているという報告が来ている。別の斥候の話だと、ここに来るまではあと2時間程度。撤収するにしても、迎え撃つにしても結構ギリギリだ。
……みんなの意見を聞きたい」
意見は聞く、けど、どうするかはもう決めている。
ギルドマスターの顔には、そう書いてあるね。
ここまできて、撤収なんて話は、ありえない。
何しに来たと思ってんのよ?
「こちらから出向いて小隊を叩いて、その足で本拠地を燃やせばいいだけだろう?」
あら、一番過激なのは、魔法使いのおっさんだったわ。
「賛成だな。相手の拠点が分かっているのは大きい」
戦斧使いも速攻派ね。
「散っているオークから、背後を突かれる可能性はないのか?」
狩人は慎重派。
「その辺は、警戒しながら行くしかないだろうな。周辺警戒へ割けるだけの人数はいる。出会ってしまったら一目散に逃げろ、できるだけ我々に分かるように伝えろ、と指示するしかないがな」
「見当違いの方に逃げると、警戒要員の意味がないからな。だが、その意味が伝わるのか?」
「その辺は、信じるしかあるまい。まあ、仮にも志願した冒険者だ。一方的にやられることは無いだろう」
ギルドマスターは、狩人に安心するように応えて、他の意見を求める。
その視線が、あたしに向いて、止まった。
あたし?
あたしは考える人じゃないよ。
そんな目で見ないでよ。みーよに聞いてよ。
いや、あたしの意見が必要なのか。
「何人か足の速いのを先に向かわせて、こっちに来るオーク小隊をかく乱。混乱させてる間にこっちの本隊が接近、迎撃。
……魔法使いのおっさんは、本拠地を叩くために温存でいいんだよね?」
「そうしてもらえると助かるが、規模を弱めて二連撃でも良いぞ」
「魔法は取っておきにして、まとめて本拠にぶち込めばいいんじゃない?
こっちは30匹規模なら、なんとでもなるでしょ?」
「普通は、ならないんだが……」
ギルドマスターが、お前なら出来そうだな、という顔で見つめてくる。
多分ね。出来ると思うよ。
「先遣隊が苦戦するようなら、マクロン閣下、魔法で殲滅をお願いしたい。余力があるようなら、そのまま本拠を叩いて、掃討戦。無いなら撤退戦。それで良いか?」
一同、頷いた。あんまり時間も無いしね。
「本隊はオーク小隊との戦闘に備えながら前進、オーク小隊を撃破後、敵本拠地に向かう。周辺警備は後から俺が指揮を執る。
で、先遣隊は、イクミ、ミヨ、ダナン、マイアミ、デン。頼めるか?」
あー、戦斧使いのパーティーとの共同ね?
一人、全身ローブとフードに覆われた性別不明だけ、よく分かんないんだよね。
デン、っていう名前なんだ。
あーなんか、ギルドで大暴れができる奴の中に入ってたな。一応強いのかー
「承知した」
あ、しゃべった。
あれ? 女声? 低いけど。
「自分の身は守れる。オレに構わなくてもいい」
一応、最低限、コミュニケーションは取ってくれるんだ。それはありがたいね。
「分かった」
しゃべらなくていいなら、あたしとしても面倒がなくていいよ。
「お手並み拝見と行こうか、おんな」
「あたしの邪魔だけはしないでよねー」
戦斧使いと軽口を叩き合う。
「そなたの力は十分に理解した。武神トルモルトよ、ご照覧あれ!」
「そっちの神さまには入信しないからね?」
僧侶戦士にも一応、念押しはしておく。
でも、かつて小便聖女と呼ばれ、二度と使って貰えなかったみーよの成長ぶり、汚名挽回にはちょうどいいんじゃないかな?
ギルドマスターの後ろに控えていた記録官? 顧問官? が、あたしたちの側に来る。
「契約と隷属の管理者アストレージの名において、邪鬼を打ち倒す戦士たちの上に祝福を求めん」
彼が杖をかざすと、何かの波動のようなものがあたしたちを包み込む、ように感じた。
「貴殿らの働きを、我に恩寵を授けて下さるアストレージ様が御記憶なされる。心して励むがよい」
記録官が分析動画を撮ってくれるようなもんね?
「馬車を一台、先行させる。準備が出来次第、乗り込んでくれ」
みんなが動き始める。
「まさか、あの人たちともう一度、パーティーを組めるなんてね」
「もう、ションベン聖女なんて言わせないよ。あたしがついてる」
「頼りにしてる」
みんな、行動が速いね。最後にみーよを、おっと、馬車に登るのが大変そうなので、そのまま抱えて乗り込んじゃう。
「んもう、一人で乗れます!」
「分かってるって」
朗らかに笑われて、みーよが恥ずかしそうだ。
馬車が、結構な速足で進み始めた。
ガタガタ揺れる馬車を操る御者は、小さな少年に見える。
ん-コイツどっかで見たな。
あ、確か、ギルドの受付で大暴れした時、最後まで何人か残っていた後衛組の中の一人だ。
へえ、こんな所に顔を出すんだ。
まあ、あれなら、なんかあっても自分だけは生き残りそうだね。
下っ端は、言われたら言われたことを忠実にこなす。
だけど、出来れば、自分の得意な事をヤラせて欲しいよね。
そういえば、ギルドマスターはエースパーティーを4人セットで本隊につけていたね。メンバーをバラバラにはしないんだね。
あたしら先遣隊も、同じ理屈なんだろうね。
結構、人を見る目がありそうだね、あのマスター。




