73.大相撲も、まさにそういうのが起源だもんね
新章開幕。
よく眠れたとはいえ、旅先の朝なので、起床は早い。
野良聖女ズが朝食の準備をこまめに始めている音で、起こされたようなものね。
かしましーけど、お仕事はきちんとするのね。
まだ眠っているみーよを起こさないように、そっとテントを抜け出す。
日の出はまだだけど、周囲が明るくなってくるのを感じる。
周囲を軽く散策して、見張りの男に軽く挨拶。
軽く、右正拳の型とかを素振りしていると。
「一手、お手合わせ願えますかな?」
C級の、なんちゃって聖職者だ。
「素手?」
武装は強化戦棍だったと思うけど?
金属製の棍棒。先端が膨らんでいて、いくつか突起が付いている武装。
マッチメーカーでも、そういう武装があったよ。実体武装なので故障無し。攻撃強化もされている。でも、ちょっと重くて、威力の割りには高いのでコスパが悪い。あたしは、選ばない武装だね。
あと、確か、盾も持ってたよね? 立派な金属製の丸盾。
あんた、どこからどう見ても戦士系じゃん。
ま、朝の散歩にフル装備は持ち歩かないんでしょうけど。
なので、戦士系のアンタが格闘系のあたしと素手で手合わせする意味なんてないでしょ?
「いえ、ガントレットも素手で振るえる仕様になっていますから、素手戦闘も得意ですよ?」
「へえ、そーなんだ」
あー、最初からそのつもりってワケ?
へえーやる気十分だね。
あたしもガードグローブにエンジニアブーツ着用。
アギト・ナイフは腰袋ごとテントに置いてきてる。
うん、朝食前の軽い運動なら、ちょうどいいか。
防御陣を引いた馬車の外、見張りの男の目が届く範囲。
少し緩やかな傾斜がある草原。一応、地形は考慮しなくちゃね。
戦士兼僧職者なのか、僧職者だけど戦士も出来るのか。
なんだっけな、“殴りプリ”とかいうんだったっけ、どっかでなんか聞いたこと、あるんだけど、思い出せない。思い出せないなら、思い出さなくてもいいんだよね。
「両肩が地面に着いたら負け。急所攻撃は無し。気絶か降参で負け、で、いい?」
「十分です」
話が即通じる。あら、アンタ、結構バトル好きなタイプ?
そういうことなら合図はイラナイ。
ちょっとだけ取った距離から、あたしたちはお互いに駆け寄った。
打ってこない。打撃無し、組んで解れてが好きなタイプかな?
あたしは初見相手に組み付くのは好きじゃない。もうちょい様子をみたい。
様子見、にしては強めだけど、お遊びだし、いっか。
しゃがんでの水車蹴りを放つ。
敏感に反応、下がってかわされる。
でも、こちらの技の終わりに踏み込んでくる速さはないのね?
じゃあ返し技のドラゴンキャノンは必要なし、と。
それなら、コレは受けてくれるのよね?
しゃがんだ状態から、水車蹴りの回転をそのまま生かして、飛び上がりながら後ろ回り蹴り!
お、ちゃんとガードされた。やるねえ。
ま、こっちも大技大技で、見え見えだからねぇ。
まともに入るとは思ってないよ。
で、空中で蹴りだした足を掴まれる、ということも無いのね。
それならそれで組み打ちしようと思ってるんだけどね。
堅実だねぇ。
着地ざま、ジャブを三連発、距離感を掴んで右ストレート!
全部防がれた。ガードが堅いね。
奥まで踏み込んで脇腹目がけてフック、も防ぐのね。
そして結構な密着状態。
こっちが距離をしっかり詰めても。
コイツ、ガードをきちんと固めて、あたしの打撃に正確に対応しようとしている。
でもさ、いつまでも反撃しないと、こっちのヤリたい放題になるよ?
左足を相手の間に踏み入れて、絡める準備。
相手の腕ごと抱きとめるように迫って。
さすがに、近い、近すぎる。
気が付いたのね、遅いね。
寸勁は、さすがに撃たせてもらえそうにないし、必要もない。
足を絡めて、相手の背中に腕を回して、肩を掴む。
後ろに引き倒そうと力を込めると踏ん張るので、そのまま前に押し倒した。
片足が絡まれているので、相手は踏ん張れない。
ついでに斜面の下の足を引っかけているので、一度バランスを崩せば、傾斜も手伝ってくれる。
地面に倒れて、起き直ろうとする所を、肩ごと抑え込む。
片方は地面につけた。もう一方を付けられまいと、もがく相手だけど。
スカートが捲れるのも気にしないで自分の片足を引っ張り上げて、体重を掛けていく。
「ぐぬう……」
堪える、堪えるけど、ダメ。
両肩が、地面に着いた。
「あたしの、勝ちだね」
「……納得した。本当に強いんだな」
「よく言われるよ」
先に立ち上がり、起き上がりを助けるために手を差し出す。
掴んだ手の先に、苦笑いの表情があった。
「素手格闘は、死者送還の時に使用する。私の信奉する武神は、その奇跡の行使の際に武芸をお求めになられるのだよ」
「武芸?」
また、変な宗派が出て来たな。
「そんなに変でもないだろう? 剣の舞や組手、型を神々の御前で奉納することはよくあることだ」
まーそういうのもあるね。旧時代の動画で、結構見てた気がする。
それがさらに発展して、歌舞伎になるんだったっけ?
大相撲も、まさにそういうのが起源だもんね。
「呪われ、死ぬことを許されない死者の怨念を、自身の武芸によって断ち切ることは、神聖であり重要な勤めなのだよ」
「ふーん」
「惜しいな、そなた、実に惜しい。アーリューシャインなどという、よく知られてさえいない女神などより、我が武神にお仕えしないか?」
うわー勧誘かー
初めてのパターンだね。
「ん-女神ちゃんのことは、そんなに好きではないけどさ、悪いようにはされてないよ? それに……」
「それに?」
「あたし、自分より強い男が好きなの。アンタじゃ、お断りだねぇ」
「い、いや、私と付き合って欲しいとかではないのだが……」
「アンタんとこに入るなら、お勉強しないとダメなんでしょ? あたし、そういうの苦手なの。考えるのはみーよ、即行動するのはあたし。ちょうどいいコンビなんだよ、あたしたち」
「そうか。残念だ」
それほど残念でもなさそうな顔で、改めて握手を求められる。
「機会があれば、また、組手して欲しい。そなたとの試合は、心が躍る」
「いーけど、反撃はきちんとしないと、いいようにヤラれちゃうよ?」
分かってると思うけど。手加減でもしてるつもりなのかもしれないけど。
「す、すまん。隙が見いだせなかった」
あーあれで本気だったんだー
ま、アンタんとこの主戦力は、あの戦斧使いだもんね。それはそれで、イイんじゃない?




