72.はぁ、お友達、か
日が暮れ始めるころ、目的地に近い、小高い丘で野営の準備をする。
前にゴブリンの集団と遭遇した地点の近くだと思う。
ここは丘を降りたところに小さな水辺があるのと、ある程度見晴らしが良いので、襲撃に備えやすいみたい。
人間も馬も野獣も、そして魔物も。
生きていくために水が必要。
なので、少人数ならともかく、大きな隊商は、どこに水があるか、道はどう繋がっているのか、適切な野営地がどこにあるか、など、覚えておく必要がある。
なので、例え報酬が安くても、こういうポーター制度に参加することで、そうした情報を得られやすいという面もあるみたいね。
馬車を円陣に組んで、防御陣を敷く。
馬を馬車から外して、水辺に連れていく。
火を起こし、食事の支度をする。
この辺の雑務は、前衛として戦闘には出ない後衛職のお仕事らしい。
ただ、上級の後衛職は、自分たちの仕事ではないとばかりに、思い思いに寛いでいる。
以前はみーよも、雑用をやってたのね?
そうだよ。
野良聖女ちゃんたち、張り切ってるね。
そーだね。
そして、あたしらは上級なんで、そういうのに係わる必要は、全く無い。
みーよが何でもないような顔で、あたしらのためだけの野営準備を始める。
アウトドアテーブル、イス、タープも掛けて、ついでにテントも設置完了。
ランタンもぶら下げて、灯はみーよ得意の光の奇跡。
食事はどうする?
ん-タダだけど、あれを食べたい?
ん-そんなには。
だよね。じゃ、用意するね。
パックご飯を温めて、レトルト親子丼。美味しそうー
何呑む?
ビールとか、あるの?
あるよ。
ブリキバケツに氷の塊がゴロゴロ入った中に、缶ビールがゴロンゴロン入っている。
一本抜いて、プシュッと開ける。
未成年はお酒禁止? んなもん、いまさら知らん。
頂きまーす。うわぁ冷たくて美味しいー喉が潤うわー
で、ホカホカの親子丼。こういうのは、お箸で頂かないとね。
ん-美味しー卵がトロトロ。ごはんがホカホカ。一緒に食べると、ホント美味しいのよねー
で、ビールで流し込む、と。
ん-幸せー
……何だお前ら、それなんだ?
ん-奇異の目で見られてるね。
無視無視。
「すまん、すまん、ちょっといいか」
「だめ。あげない。あっち行って」
来ると思ったよ残念剣士。
「俺からも、いいか?」
なによギルドマスター?
「なんだ、それ?」
「んもー後にして」
「い、いや……」
いや、じゃないわよ。食事の邪魔しないで。
「あたしの故郷の食事スタイルと設備。付き人専用の特典なんだと思う。こっちは命張ってみーよの付き人になってんの。文句ある?」
手短に簡潔に、説明したわよ、とっとと消えて。
ギルドマスターと残念剣士は、互いに顔を見合わせる。
「聖女ミヨ、君、ホントに変わったな」
「お褒めに預かり、光栄ですわ」
缶ビールを片手に、涼しい顔でみーよが応えた。
堅い黒パンとスープ、干し肉とナッツ。
配給された食事を、思い思いに冒険者たちが食べている。
あたしたちも食後のデザートのプリンを食べながら、夜風に吹かれてくつろいでいた。
「いい夜だねぇ」
「だねー」
「見張りは、交代制なの?」
「下級の冒険者たちが話し合って、当番で務めるよ。あと、上級のパーティーの斥候役が、交代で周辺を見回ってくれる」
「ふーん」
と、その話し合いをしているらしい下級冒険者たちの中から、男が一人、こっちに向かってきた。
みーよを村に置き去りにしたパーティーの、ちょいチビだ。
へー、ポーター制度に参加してたんだ。
「お、おい!」
勇敢だね。でも無礼だね。で、懲りないんだね。
そういうの、好き。
イスから飛び跳ねると同時に、頭を引っ掴んで地面に叩きつける。
グワッと呻いたけど、関係ないね。
「それがウチらへの挨拶の仕方? まだまだヤキの入れ方が足りないみたいね」
そのまま地面に擦り付けてやる。
バタバタしてるけど、気にしない。
奥から慌てて、ちょいノッポとガタイのいいニブちんが駆けてくる。
「す、すまねえ」
「悪かった、コイツ、なんか気にしてるなとは思ってたんだが……」
「くそぉ、放せぇ」
あたしはフン、と鼻を鳴らし、お仲間にちょいチビをくれてやる。
「ちゃんと首輪つけときなよ。放し飼いしてると、間違って殺しちゃうよ?」
「すまねぇ……」
「なんでこっちが謝るんだよ! こいつら、まだランクEだろ! 食事の支度も、見張りの当番も、ちゃんとヤレよ!」
あーそういう文句かー
ん-ある意味、スゴイねー
どーすんの、これ?
ちょいノッポに目線を向けると、身長がどんどん縮んでいく。
「ちゃんと言って聞かせるから、頼む、堪えてくれ……」
「なんでだよ、俺は間違ってなんかないぞ!」
「そう言ってるよ?」
スゴいね、あんだけヤラれて、まだ懲りないんだ。
これは本気で締めないとダメだよね?
どー料理しよーかなー
「ちょっと試したい技が、あるんだよね……」
舌なめずりして近づくあたしに、ちょいノッポは本格的に怯え始めた。
「スマン本当にスマン! おい!」
デカいニブちんが、ちょいチビの足を持ち、二人でそのまま抱えて逃走した。
なーんだ、ツマラン。
「わたし、本当に、あんなのと組んで遠征してたんだね……」
自分に飽きれている、みーよ。
うん、そーだね。仲間にする相手は、ちゃんと選ばないとダメだね。
今回、馬車に一緒に乗った連中は、それぞれクセはあるけど、気持ちのいいヤツばかりだった。信頼関係は、大事だねぇ。
さて、プリンの続きを……
「お食事当番、さぼっちゃダメなんですわ!」
「私もそれ、食べたいんだけどー」
「それ、なんなのー?」
わぁ、ウルサイのが来たよ。
「メロー、わたしたちはギルドマスターの依頼で参加しているの。だから、食事や見張りの当番は免除のはずよ?」
みーよが冷静に、野良聖女たちを捌き始める。
「アオイ、この食事は、わたしの付き人専用です。他の人にあげるものではないわ。分かるでしょ?」
野良聖女たちが、顔を見合わせる。
「それはそうですけど、私たち、お友達ですわ」
「ギルドマスターに確認するけど?」
「それ、何の飲み物なの?」
みーよは、ため息をついた。
「お友達なら、わたしの付き人のために貴重な奇跡を行使している時間を邪魔したりはしないわよね? 当然、何をしているのか答える義務もないはずよ?
……お引き取り頂いても、宜しくて?」
「ミヨらしくないですわ」
「ミヨが変わっちゃったんだけど」
「ミヨ、冷たいなのー」
なおも絡もうとする野良聖女たちに。
「わたしは今でも、みんなの事が好きよ。でも、けじめは必要なの。これ以上邪魔するなら、付き人を差し向けるわよ?」
あ、いいの?
あたし、女の子にだって優しくするよ?
うん、とっても、やさしくするよー
あたしの目がギランと光ったのを察知したらしい。
「オホホごきげんよですわー」
「おじゃましちゃったけどー」
「かっかっかえりますなのー」
綺麗な三重唱を奏でて、そそくさと退散した。
「はぁ、お友達、か……」
みーよ、ため息が、深いよ?
「根は、悪い人たちじゃ、ないのよ?」
「うん。知ってるよ。みーよ、頑張ったよ」
「ありがと……」
そうだね、精神支配されたままじゃ、しょうがないよね。
でも、やっぱり、そういうのは、厳しいよね。
~ ・ ~
テントに潜り込んで、念のため寝袋は解放して、それでも意外にきちんと眠れた。折り畳みベットのおかげで、地面に直接身体を付けなくても良いし、それなりのクッション性もあるので、寝返りも打ちやすかった。
4人用テントにあたしたち二人なので、広さも十分だしね。
女性だけのテントを襲うような不届きな輩は、いないみたい。
むしろ、襲ってくれないかな? とさえ思ったんだけど、いないみたいね。
ちなみに他の女性陣は、馬車の中に固まって眠ったみたいね。
冒険者の女性は、あまりそういうことは気にしない傾向らしいんだけどね。
というか、元々女性の参加者は少ない。
野良聖女ズと、C級の精霊術士と、B級の女僧侶、そしてうちらしかいない。下級ライセンスの参加者の中には、女性冒険者はいないみたいね。
でも、現代人のあたしたちが、馬車でみんなで雑魚寝なんてありえない。
月の光程度の穏やかな、みーよの結界に包まれて、安らかに眠りについた。
(つづくっ!)




