70.わたしが、後を引き継ぎますから
他の馬車にも人が乗り込み終わって、出発するらしい。
門をくぐり、しばらくすると。
城門の上で、炎が巻き起こった。
竜巻みたい。結構大きい。
「なに、あれ?」
「オラクルの大聖女様の、祝福よ」
「祝福?」
何とも言えなさそうな、みーよの顔。
「強そうじゃん。なんで討伐に来ないの?」
あたしが言うと、みんな静まり返った。
「あの方は、領主さまの娘で貴族。聖女を名乗っているし、強い理力もお持ちだけど、性格が、ね……」
「あれで性格が良ければ、本当の意味でオラクルの聖女様なんだがな」
「ですね」
エースの残念剣士と、黄色い法服の女性が応えてくれた。
性格、か。
ま、お貴族様は、こんな野蛮で汚い遠征に参加するはずはないかー
いや、でも地域住民の為なんだし、こういうのは聖女様のお勤めなんでしょ?
「あれは、街の外へは一歩も出たことが無い。お前の師匠のシスター・マムとは、全然別だな」
「……はい」
あら、エースパーティーの魔法使いのおっさん、マムちんをご存じで?
「あれは立派な大聖女だった。惜しいことをしたものだ」
何よ、その過去形はー
ま、過去の話、か。
「わたしが、後を引き継ぎますから」
キッパリと、みーよが言う。
「できるのか?」
「やります」
つば広帽子の魔法使いの視線に、みーよは真っ向から見つめ返して、視線を逸らさなかった。
「お前、なんか変わったな?」
「そうですか?」
「そうね。雰囲気が変わった」
黄色の女僧侶ちゃんにも言われた。
「もっと、折れそうな、危なっかしい雰囲気だったのに」
「付き人のおかげなのか、いや、お前自身の変化だな」
鋭いねー魔法使いのおっさん。
「ま、期待してないが、期待はしておく」
「はい」
どっちなの? という期待のかけ方にも、みーよは動じなかった。
後衛職には、後衛職同士のつながりというか、目線の違いというか、連帯感みたいなものがあるらしい。
んで、前衛、中衛との組み合わせ、バランスのとり方というものもあるようで。
エースパーティーのリーダー剣士は、メンバー全員を護る防御型。ただし、盾は持たない。剣が半分片手、半分両手のバスタード・ソードだからね。
盾を持ってもいいけど、いざという時は捨てる必要がある。そうすると、お高い防具の回収が本当にできるのか、という葛藤になるんだとか。
んなこと、あたしに言われてもねぇ。あたし、多分、そんなゴツくて長いヤツ、持たないし。
狩人さんは遠距離専門。とどめ用のナタは持ってるけど、これを振り回すのは最後の最後らしい。
で、斧使いはがっつり前に出て、斧をぶん回すのがお仕事。
あたしと同じだね。
いや違うだろ、とか言われたけど、違わないよ?
あたし、接近戦大好き人間だし。
わしの邪魔だけはするな、と釘を刺されたけど、それはこっちの話ですー
オークともみ合ってる時に、一緒くたにその斧で叩き斬らないでね、と念を押し返しておいた。
やらんやらん、ありえんだろ?
どーかなー弱ってるのから仕留めるのは定石でしょ?
そーだが、お前の細腕で、奴らを弱らせるのは時間が掛かりそうだ、牽制だけしてれば、わしが仕留めてやる。
イラないわよーあんなザコ相手にー
そーやって油断しているヤツから先に死んでいくんだぞ。
それはさんせーだけど、あたし油断なんかしないもん。
「はーこれだからおんなは」
「おんなだからなんだっていうのよー」
「もういい。口では、さすがにかなわん」
なによーそっちから口喧嘩仕掛けて来たクセにー
……コミュニケーションって、こんな感じでいいんだっけ?
~ ・ ~
ゆらりゆられて、中継地の村にご到着。
馬車自体は、中には入らないらしい。
いったん休憩を入れて、馬のお世話もして、斥候を出して周囲の捜索。
日が沈む前に、もう少し先まで向かってキャンプという計画らしい。
あたしとみーよが出会った最初の村へは、徒歩で2、3日。馬車で1泊2日という話だったけど、出発が速かったから、時間に余裕があるのね。
村の中に入ろうとしたら、門番のお出迎えだった。
あたしの事もみーよの事もよく覚えていてくれた。
熊やオオカミの奉納、とてもありがたかったそうです。
ゴブリン退治も、とっても感謝されました。
なので、絶対に忘れるはずはないのだそうです。
それはどうも、ご丁寧に。なんか照れるわ。
で、初めてのギルドカードの使用。
ちゃんと胸の辺りから銅色のカードが出て来た。ホント、どーなってんの?
「ああ、もうEクラスなんですか。さすがですね」
へえ、詳しいじゃん。さすが門番。
中に入ると、村の子供たちが目ざとくあたしを見つけて駆け寄ってきた。
赤ずきんのお話をしてあげたからね。まとわりつかれて、いや、悪い気はしないわー
これからお仕事で、オーク集団を討伐に行くよ、というと、大歓声だった。
だよね、あんなブタ共が集団でウロウロされたら、タマンナイもんね。
オラクルまで送って貰った御者の中年男と息子は、あいにくの留守だったけど(商売熱心らしい)、村長さんともお話できた。
先行で派遣された調査団も、この村に行き帰りに立ち寄って、情報を交換していったようで。
最初の村の辺りでオークの一隊に遭遇、互いにけん制して、大きな戦いにはならずに引き上げたのだそうです。
かなり組織的な行動みたいで、オークジェネラルか、オークキングさえいるかもしれない、警戒されよ、ということだそうです。
オークに限らず集団で行動する場合は、補給や戦列の問題があるので、一度に行軍できる距離は限られるけど、集団から派遣される斥候はもう少し自由が利くので、村の近くで姿を頻繁に見るようなら、街まで避難することも考えた方が良いかも、と提案されたみたい。
小麦の収穫まであと1か月、なんとか留まれないものか、いやしかし、命あっての物種だし、悩ましい。
ま、とりあえず、あたしらが行って、オークの数を減らしてくるよ、大打撃を与えれば、怖れをなして腐界に帰るんじゃないの?
というと、ちょっと安心した顔をされた。
冒険者ギルドから派遣された調査団、かなりきちんと仕事してるみたいね。
で、コイツはやばいぞ、ということで、あたしらが来てるわけね。




