64.言ってやりなよ?
教会に帰ってから、みーよの様子がおかしい。
ン、だとは思う。原因は、分かってる。
まあ、男の子たちの遠慮しがちな顔色の原因も、分かる。分かってる。
まーそっちは、どーでもいーかな。
原因は、あたしじゃない。
女神ちゃんだ。
知ってる。でも譲らない。譲ってあげない。絶対に譲らない。
あたしがジッと、みーよの姿をした女神ちゃんを見るたびに、彼女は視線を逸らす。絶対に目を合わせようとしない。
でも、あたしは“みーよ”の付き人だから、側から離れたりしない。
そういうプレッシャーを掛けていく。
時々、みーよの“素”が出てきて、なんで私を見てるの? という顔をする。
でも、すぐに顔を逸らしていく。
「イクミさん、あの……」
「何?」
「いえ、なんでもないです……」
アリちゃんの執り成しも、今のあたしには通じない。
ちびちゃんたちも本能的に察しているのか、あたしの殺気に当てられてるのか、近寄ろうとはしない。
その辺も、どうでもいいかな。
しばらくして、シスターマムが、あたしたちを院長室に呼んだ。
子供たちから事情を聴き、相談されたらしい。
みーよと二人で部屋に入り、戸を閉める。
扉の背後で、気配がする。
これは、子供たち、聞き耳を立ててるな?
扉が厚いから、ほとんど聞こえないと思うけどね?
「聖女ミヨ、何が起きているのか、報告……出来そうにはありませんね」
みーよの顔を見て、何事かを察したようだ。
さすが、元オラクルの大聖女様だね。
「マムちん、あんたさ、女神さまに、何か言いたいこと、あるよね?」
「は?」
突然の話の振り方に、マムちん、ちょっとビックリしてる。
「あたしの方からも言っておいたけど、こういうのは本人が言う方が意味あると思うんだよね。マムちん、女神ちゃんに、言うこと、あるよね?」
「け、敬称を付けなさい!」
「つける程の、価値あんの?」
あたしはマム院長を、真っ向から睨み返した。
「そ、そんなこと、当たり前……」
声が、震えている。
だよね、こんなに一生懸命やってんのに、なんの励ましも慰めもないんだよ?
女神ちゃんさ、この人は、アンタのために頑張って来ただよ?
それを、何もなかったみたいに見捨てんの?
人間が人間にこんなことしてたら、それは人間じゃない。
ひとでなし、だよ?
聞こえてんでしょ、女神ちゃん?
あ、また髪の毛が逆立ってきた。
あたしが言いたいのは、仁義を通しなよ。ただ、そんだけだよ?
ふざけんな、って怒鳴ってやりたいのを、あたし、これでも結構我慢してんだけどなー
あたしは、マムちんに、爆発しそうな感情を堪えながら、ゆっくりと話した。
「言ってやりなよ、ソイツに。
どんな思いで悲しい思いを堪えて来たのか、
どんな思いでつらい生活を耐えて来たのか、
どんな思いでアンタの声を聞きたいと願っていたのか、
……言ってやりなよ?」
マムちんは、あたしの顔を見て、みーよの顔を見て、再びあたしの顔を見る。
何が起きているのかは、よく分かってる。でも、あたしに説明して欲しい。
そう、顔に書いてあった。
「あたしとみーよは、同じ世界から来た人間。ってか、先にみーよがこの世界に召喚されて、あたしが連れ戻しに来た。
だけど、女神ちゃんがみーよを手放さないでいる。
みーよ本人が望んでいるなら、自分の身体を明け渡してもいいと思っているなら、それはしょうがない。
でも、みーよを騙して無理やり身体を奪うつもりなら、あたしは女神ちゃんを絶対に許さない」
「許さないって、あなた……」
そうだね。マムちんの立場だったら、何言ってんの? となるよね。
「あたしは、女神ちゃんの力でこの世界に召喚されてるわけじゃない。
あたしの元の世界で、あたしはみーよと繋がってる。(ん-翻訳できてない)
女神ちゃんには、みーよを通してあたしの声が聞こえてる。
で、みーよと女神ちゃんは、ん-精神感応媒体じゃないや、精神感応金属がこの世界にあるんだね、それで繋がってる。(この辺も、翻訳がダメダメ)
あたし、みーよというもにたぁを(あー共通語理念、今いい所なんだからちゃんと仕事して!)通して、女神ちゃんを現界に召喚び出せてるらしいんだわ。
だからマムちん、女神ちゃんに言いたい事があるなら、言ってやりなよ。
今なら、ちゃんと聞いてくれる。
だって、聞かないようなら、あたしは一生、女神ちゃんを卑怯者呼ばわりし続けてやるから」
自分でも、変な説明だとは、思う。
だって、あたし、こういうのは得意じゃないし。
でも、説明自体は、合ってると思う。
今、目の前にいるのは、みーよじゃ、ないから。
今、目の前にいるのは、女神ちゃん、だから。
アンタのことは嫌いじゃないけど、卑怯な真似は許さない。
絶対に、絶対に、許さないんだから。
あたしが視線の力でみーよの姿をした女神ちゃんを抑え込んでいると。
あたしの拙い説明だけど、言わんとしていることは理解してくれたようで。
院長室の机から回り込んできたマム先生が、みーよの前に来て、祈るように跪いた。
「わたくしは、ずっとこれまで、あなたさまをお慕い申して参りました。あなたさまが下さった全てに、心から感謝しております。
これからも、この命が尽きるその時まで、ずっとお慕い致します。
ああ、だから、わたくしに、一言、よくやりましたの、一言だけでも……」
シスターマムの目から涙がこぼれて、床にポタポタと落ちていく。
みーよの姿をした女神ちゃんは、無表情にその様子を見つめている。
ん、表情が崩れて、また元に戻る。
何度か、崩れては、元に戻っていく。
目の焦点が合わなくなり、また合うようになる。
身体がぐらぐらと揺れて、倒れそうになる。
あたしはみーよの身体に近づき、そっと後ろから支えた。
「あ、あ、あな、たたた、はは、よ、よお、よ……」
震える小さな声で、ガタガタと震えながら、みーよの声を借りた何かが、言葉を紡ぎだそうとしている。
「おおお、おおおおお……」
みーよの身体がぐらぐらと揺れる。あたしが支えている肩を支点に、力が入ったり、抜けていったり、形が壊れるような、踏みとどまっているような。
瞬きが速く細かくなり、呼吸が荒い。
「女神様……」
シスターマムの声に呼応するように。
みーよの身体を借りたナニカが、意識を失った。




