63.カンタ、余計な事じゃないよ。あんたは正しい
スリングの収納袋に、革ベルトをもう一枚通して、模擬剣を吊るす。
こうしてみると、二人とも見習い剣士みたいで、それなりに様になっている。
「似合ってるね」
「そ、そうかなー」
「にーちゃん、似合ってるよ」
「そっか、カンタ、お前も似合ってるぞ」
二人で歯を出してニヤニヤしている。
「あとは、防具だね。手足に板を挟んで、皮で巻くだけでも結構有効だよ」
「へえ……」
「イクミねーちゃんのは?」
お、年少さんは鋭いね。
「あたしのは特製。あたしの民族の中でも、かなりレアもん。ホントは、こんなゴチャついたもんは付けたくないんだけど、ヤッパ手足を守るのは大事なんだよね」
半分分かって、半分分かんない顔。ん-共通語理念、お仕事しろよー
「頭とか胴体は、攻撃には使わないんで、とにかくかわせば大丈夫。んなもん、当たんなきゃいいのよ。手足は、武装が全部故障とかした場合に、徒手空拳しなきゃなんないから、装甲を少しでもまとわせておけば、全損までの時間を稼げるでしょ?」
これもダメかー翻訳が半分を切ったね。
なんでだろ? 普通に初心者解説としてしゃべってるんだけどな?
「郁ちゃん、郁ちゃん……」
なによ?
「……この世界の人に“マッチメーカー”の話をしても、通用しないよ?」
あ、そっか。そうだった。
共通語に慣れすぎるのも、マズイのか。勝手に翻訳してくれるから、しゃべればなんとかなるとか思ってたわ。
概念自体が理解できないものは、翻訳しようもないんだっけ?
でもさー他の動画とか漫画とか小説は、その辺はすっ飛ばしてるじゃん?
もーちゃんとやってよねーリアル感が無いんじゃないの?
……だから、誰に言ってるんだろう、あたし?
みーよが、郁ちゃんは異世界の異民族出身だから、この世界の事はあんまり知らないの、と、世界の理を取り繕っている、じゃないや、説明してる。
ま、この世界の住民ではないあたしにとっては、それほど大事な問題じゃない。その辺は、女神さまがちゃんとしていれば問題ないんでしょ?
あれ、みーよ、ここ、あたしが睨まれる所?
あたし、正論しか言ってないよ?
ついでに言うと、みーよはあたしたちの世界の人間。
本人の意思でこの世界に来たということにされてるけど、頭の中に声が響いたからここに来ました、は、現代社会では通用しないよ?
そういうのは、現代では“洗脳”という重罪だからね?
分かってんだよね、女神ちゃん?
事と場合によっては、一発殴りに行くからね?
あたしの性格、今までの事で存分に分かったでしょ?
あたしと、みーよの間に、アイコンタクトが生じた。
え? え? って感じで、男の子たちが、あたしらを怯えた様子で見つめる。
そりゃそうだよね。気持ちは分かる。
でも、ここは引けない。
視線切った方の、負け。絶対、譲れない。
「おいカンタ、お前、余計なこと言ってんじゃないよー」
「ゴメン、兄ちゃん……」
シュランが、おどおどしながら、それでもなんとかしようと、カンタに話を振っている。
知ってる。女神ちゃん、そんな事で動揺なんかしない事位。
オークって、頭を半分カチ割られても動けるんだって事位、知ってる。
力でも知識でも、全然敵わないことも。
あたしはこの世界ではヒヨコ同然で、右も左も分かんないことも、よく知ってる。
でも。
あたしは絶対無敵、絶対に無敵だって事も、自分でよく分かってる。
ソイツを貫けないときに、負ける。
だから、突然でもイキナリでも。
ここは勝負所。
絶対に譲れない。
よぉく、知ってるんだ、あたし。
……でも、そうだね。
こういう時は、格下の方から動くのがセオリー。
大丈夫、仁義は守るよ。
「カンタ、余計な事じゃないよ。あんたは正しい」
目線は決して逸らさず、でも、カンタを通して仕掛ける。
みーよの姿をした、女神ちゃん。
あたしの存在意義を、どうゴマカスつもり?
ってか、あたしとこのまま敵対すんの?
心を読まれているあたしが、なんにもしないままでいるとでも思ってたの?
そーいうの、前にヤラかして懲りてるんだわ。
パパを放っておいて、イザという時にヒドい目に遭ってんの。
あんた、女神様とか言ってるけど、そういうの、自分で経験したことあんの?
だいたい、マムセンセーを見捨ててオークどもの餌食にしておいて、自分はなんにも悪くないとか、それって虫が良すぎるんじゃないの?
その場で助けろとは言わないけど、色々とルールがあるんだろーけど、でもさ、慰める位は、してもいいんじゃないの?
人間を、マム院長を、なんだと思ってんのよ?
人間になんてそんな価値が無いというなら、最初から人間なんて使ってんじゃないよ。
みーよを、返してよ。現代に、帰せよ!
髪が逆立ってるのが、自分でも分かる。
さぞや“悪い顔”してるんだろうな、ん-分かる。
男の子たち、これから先、あたしに怯えるんだろーなー
でもね、ゴメン、ココは譲れないんだわ。
絶対に、譲れないんだわ。
大通り、武器屋の店を出て、すぐ。
男の子たちに模擬剣を装備させて、似合うねーなんて和やかな会話をして。
あたしの武装について、カンタがそれナニーと、何気に尋ねてから。
どれ位、時間が経ったんだろう?
あたしの中では、相当な時間が経ったけど。
実際は、そうでもないらしい。
「どしたの、郁ちゃん?」
“素”のみーよが、話し掛けて来た。
……戻ったのね?
女優を意識して、対応をかき集めて。
「カンタは間違ってないよって言っただけ。なんでもないよ」
そ、カンタは間違ってない。
で、あたしも間違ってない。
これで何が有っても、あったとしても、あたしは後悔しない。
女神ちゃん、みーよはアンタのモノじゃない。
あたしのモノでもない。
みーよは、みーよのモノだ。
その仁義を踏みにじるなら、あたしは何が有ってもアンタを殴りに行く。
ココロ、読めるんでしょ?
よーく、分かったわよね?




