62.なじむ。すごくしっくりくる
冒険者ギルドを出て、鍛冶屋に向かう道中で、男の子たちが変な事を言いだした。
「俺たちは留守番、だよな?」
「だって僕たち、冒険者ギルドの会員じゃないもん」
「だよなー」
あらあら、行く気になってたの?
「だってー参加するだけで金貨1枚だぜ? 冒険者って、すげー儲かるんだなぁ」
「かっこいいよねー」
「なー」
そんなもんかなぁ?
荒くればかりで、口も態度も悪いよ?
きちんと躾けないと、話にならない連中ばかりよ?
ま、そんな現実は、知らないでいた方が幸せなのかもしれないけどね。
~ ・ ~
鍛冶屋に近づくと、中から例の金属を叩く大きな音が響いてくる。
今回は大まかな場所も分かってるし、音を頼りに来ればいいと知ったので、案内はイラなかった。
到着と同時に、音が止んだ。あたしたちに気が付いたというより、タマタマなんだと思う。
一応、中を確認して、ガタイのいい小男に近づく。
「出来てる?」
「ああ」
チラッとあたしを見て、後ろのみーよや男の子たちを一瞥して。
何も言わないで奥の部屋に行って、すぐ戻ってきた。
アギト・ナイフ。
刃が、美しかった。あたしの顔が鏡みたいに写し出されている。
刃の裏側も滑らかに磨かれていて、傷一つ見当たらない。
刃先も、触ったらそのまま切れてしまいそうな程、鋭く研がれている。
あたしは、武器にこだわらない主義なんだけど。
これは、心が引き込まれそう。
気を付けないとなぁ。
「刃の耐久性は?」
「上手に使えば、一回分の遠征の間は十分持つ。骨とか皮程度では破損はしない。血糊は出来る限り、拭き取ってくれ」
「分かった」
握って、刃の上下を回してみる。
握った親指の部分に特別なグリップがあり、とても回しやすい。ここに力が加わることで、柄全体をコントロールしやすくなるようね。
親指を支点に、掌の中で転がすように。
表、裏、表、裏……
それなりの大きさなのに、面白いように良く回る。
ナイフの上下も、同じ要領ね。刃を上に、下に、上、下……
親指を支点に手の掌か、指先で押し出す感覚。
「いいね」
あたしの言葉に、男が頷く。
なじむ。すごくしっくりくる。あたしにおあつらえ向きの出来栄え。
「狩りに、行くのか」
「うん。明日から」
「終わったら、また研いでやる」
「お願い」
金貨を渡し、互いにあいさつなんかしないで、そのまま鍛冶屋を出た。
武器屋はとなりなので、迷うことは無い。
今まで腰に差していたショートソードを鞘ごと外し、代わりにアギト・ナイフを納める。
うん、腰の重さがしっくりくる。ピッタリ収まる感じ。
ショートソードも悪くないんだけど、長さも重さも、コッチがいい。
「いるー?」
「いらっしゃいませ。これはこれは大勢で」
うってかわって愛想のいい、濃いくせ毛の黒髪が特徴の30代ラテン系の店主。鍛冶屋の親父の息子だそうだけど、本当の所はドーだか?
「これありがと。返すね」
ショートソードを丁重に受取り、一応抜いて、中を確かめる。
「ご使用には、なられなかったのですね」
「まあ、借り物だからね。一応、振って馴染ませてはみたよ」
「そうでしたかー」
ん-ゴメン。お買い上げするほどの出来では無かったわ。
「で、この子たちに初心者用のスリングと石、模擬剣を見繕ってくれる? その間にあたしの解体用の短刀と、模擬剣を見させてもらうね」
「かしこまりました。では、スリングかららご覧頂きましょう」
子供たちを売り場に案内し、説明している間に、あたしは短刀を物色する。
マメな性格なのね。売り場の棚に、大小様々な形状の短剣や短刀が並べられている。
長剣は吊るしたり、専用のケースで立てかけているんだけど、短いヤツはこの方が見やすいもんね。
解体職人が使っているような、鍔無しのシンプルで切れ味も良さそうな細身の短刀を選ぶ。予備の武器には、まあ、無いよりマシ程度だけど、軽いし、使い勝手が良さそう。
模擬剣は、自分で使ってみないとダメだろうね。素材が柔らかいと、すぐ壊しそうだけど、まあ、腕次第かー
「外で何本か、試してもいい?」
「中庭がありますので、そちらでどうぞ」
みーよに腰袋を預けて、適当に振ってみる。
3本試して、全部ダメ。どれもこれも軽すぎる。
「ガッコの武道場にある、竹刀とか、無理かな?」
みーよに相談したら、女神さまに聞いてくれるって。
跪き、祈りの姿勢をとるみーよ。
杖が光り、あら、オッケーなの? 竹刀を出して貰えたわ。
振ってみると、塩梅が良い。まあ、これなら稽古を付けやすいわ。
「郁ちゃんにしか使えないみたい。本当に限定品だね」
「十分だよ」
「いつでも出せるけど、終わったらわたしに戻して欲しいって」
「いーよー」
女神様が言ってるのか、みーよが言ってるのか。ま、どっちでもいっか。
子供たちのスリング選びも終わったみたいで、ついでにスリングの収納袋もここで買う。石を収納する関係で、セットになってるんだね。ついでに素材も同じ。
模擬剣も選んでもらって、お買い物終了。
スリングセットは石が5個込みで大銀貨3枚、模擬剣は大銀貨2枚。
二人分で金貨1枚だね。
で、あたし用のスリングの石、店にある残りの分を、あるだけ買い占めちゃった。(金貨1枚分。100個だね)
これって、みーよに持って貰えばいいんだもんね。
オーク討伐なんだし。高い安いは、言ってられないと思う。現地では買えないしね。
あと、あたしの解体用ナイフは定価金貨1枚だけど、おまけで半額にして貰った。
お客を二人も連れてきてくれたし、石もたくさん買ってくれたんで、お礼だって、さ。
んもう、リップサービスも本当のサービスも、上手なんだからぁ。
ホント、また来たくなっちゃうわぁ。




