59.あんな大きいの、まともに相手したらダメだよー
翌朝。
男の子たちに稽古をつけていると。
また来たよ、皮ジャンボスの花束宅配サービス。
頼んでないのにね。
カンタ君に花束を中に運んで貰って。
はーもー甘やかすとロクな事ないんだけどなー
「シュラン、ちょうどいい相手だから、素手でコイツ、撃退してみて」
「は?」
「は?」
「は、じゃないわよ。勿体ないから、弟子の練習相手になってあげて。シュラン、格上で体の大きい大人を相手にするって、どういうことか、身をもって体験しなさい」
「えぇ、無理だよー」
そりゃそうだよね。
「コイツ、あたしより背も恰幅も体重も上だよね。でも、弱すぎるでしょ?」
「だってー」
「実戦で相手が、お前は小さいから遠慮してやるよ、とか言うと思う?」
「……思わない」
そういうこと。
「コイツ、そういう手加減はしない主義なんだって。遠慮しなくていいよ。多少の怪我ならみーよが治してくれるし」
「分かった」
覚悟が決まったのか、シュランが構える。
「ホントにいいのか?」
困った顔の皮ジャン。そーだね、さすがに相手にならないよね。
「現実を、教えてあげて」
あえて、付き離す。
シュランが、教えた通りに低い体勢から足首を目がけてタックルに入る。
革ジャン、ひょいと足を避けてかわし、そのままシュランの背中を掴んで持ち上げる。
「うわっ、この、離せぇ!」
「ほらよ」
頭から雑に放り投げられた。
一応、受け身は取ったみたいだけど、とても痛そう。
「話にならない。こんなのより、俺を弟子入りさせてくれよ」
「ん-どーしよーかなー。カンタ、こっち来な」
「はい!」
「お兄ちゃんはあっさりヤラれちゃった。カンタ、仇を取ってやりな」
「はい!」
頭を押さえながら、俺が全く歯が立たなかったのに、カンタに出来るわけねーだろ何考えてんだ師匠? みたいな顔のシュランが見守る中。
カンタは、シュランと同じように、低い体勢から相手の足首目がけ、タックルを仕掛ける。
またか、単純な教え方だなぁという顔で、皮ジャンが足をかわし、カンタを捕まえようと……
カンタは、仕掛けるフリだけで、すぐに下がって構え直した。
あれ? という革ジャンの顔を確認して、もう一度カンタが仕掛ける。
革ジャン、少し大きめに下がって様子見。
カンタも、立ち止まって、様子見。
少し左に寄って隙を伺う。
なんだコイツ、と思いつつ、態勢を立て直した皮ジャンをみて。
カンタが再び仕掛ける。
またかよ、なんだよコイツ、と大きく下がる皮ジャン。
カンタが立ち止まり、指差した。
「敷地から、追い出したよ」
確かに、皮ジャンは門の外に出ていた。
「ちょ、こんなの無しだ無し無し!」
「え? 自分で出ていったじゃない」
ニヤリと笑うあたし。
「こんな子供にイイようにあしらわれてるようじゃ、あたしの弟子なんて到底務まらないよ。顔洗って出直してきな。花束アリガトね」
手を振って、シッシッ。
「ちぇーなんだよもー」
トボトボと帰る革ジャンをお見送りしながら、シュランが悔しそうに呟く。
「にーちゃん、あんな大きいの、まともに相手したらダメだよー」
カンタはとても嬉しそうだ。
「そーだね。よくやった」
頭をなぜてやると、ニコニコしてすり寄ってきた。甘えん坊さんめ。
「くそぉー」
シュラン、ホントに悔しそうだね。
まあ、現実を知ったうえで対処しないとダメだからね。
じゃないと、ホントに死んじゃうからね?
「郁美ねーちゃん、じゃないや、師匠。あの人さ」
あの人? あーあの皮ジャンわんこ?
「スラムの見回り始めたから、よろしくっていってたよ」
んーなんか、昨日も子分がいたねー
「なんか師匠のためなんだから、俺は直接は言えないんだ、お前が言っとけ、だって」
なによそれ? 自分で言えばイイじゃないのさ。
あれ、昨日も子分たちが、言っちゃダメだとか言ってたような。
シュランにも同じこと言ってるのか。
ん-スラムの治安問題?
女の人が殴られないって事?
あたしがそういうことを気にしないで楽でいられるようにってこと?
へ、まあ、やることはやってんなら、そんなに邪険に扱わなくてもいい、かなぁ。
でもそれって、あたしの好感度を上げるためにやってるってことでしょ?
しかも、いかにも自分はさりげなくやってるけど、ちゃんと伝わるようにはしておかないとな、って言う事?
やり口がセコいなーセコすぎるわ。
でも。
ま、気持ちは、ちゃんと、伝わったよ。
そーだね、お礼位は、言ってあげても、イイカナ?




