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Sweet Bomb NEXT  ~ 今度は異世界で大暴れっ!  作者: 白河・DG・夜舟
転移六日目っ! ~ お金は使ってナンボなのっ!

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58.純粋な恨みのこもった願い

 この部屋に入るのは、この世界に来て一番最初に、みーよとこの教会に来た時以来だ。

 あの時はマムちんがみーよをいきなり叩こ(ビンタしよ)うとしてたから、付き人(ガード)スイッチが入ってたけど。

 改めて入ろうとすると、妙に緊張する。

 ちょっと待って、相手はマムちんだよ? どーして緊張なんてするの?

 んーなんか、こういう偉そうな人がいそうな部屋って、緊張しない?

 だから、それは偉そうにするための舞台や小道具なんだから、変に構えなくてもいいよねって、自分で自分に言い聞かせてなかった?

 あの時はあの時、この時はこの時だもん……

 そんなあたしの中の葛藤を知ってか知らずか、みーよがドアをノックして、中に入ってしまう。

 あ、待って心の準備が。

 いやでも、あたしは付き人。聖女様をお守りするのがお役目。付いてかなきゃ。

 あたしは女優(アクトレス)、と言い聞かせて、なんでもないよ、な表情を作る。

 大丈夫、ちゃんと出来てる。あたし、偉い。


挿絵(By みてみん)


「待っていましたよ。さあ、お掛けなさい」

 マム院長はいつもの大きな机の奥ではなく、右側の応接用のソファとテーブルに案内してくれた。

 前々から思ってたけど、この建物も院長室も、内装の調度は結構立派なものなんだよね。

 古びてはいるけど、ソファーは革張りで、中にクッションのようなものが入っているらしく、弾力性がある。

 テーブルも、ついでに院長の机も、天板が一枚ものの板で出来ている。

 壁際に備え付けの棚には、羊皮紙だと思う、巻物が並べられていて、巻かれた中央の木の棒のようなものも、装飾が施されている。

 ん-本当にお金に困ったら、こういう調度品を売り払えば何とかなる気もする。お金が無い無いと言いながら、割とちゃんとした生活をしてるんじゃないかな、と思えなくも無い。

 ま、詳しい事情を、あたしはまだ知らないんだけどね。

 ほどなく、アリちゃんがワインの入った壺と、人数分の器、チーズやナッツの入ったお皿を持ってきてくれる。

 機嫌よく丁寧にテーブルに並べて、一礼して去っていく。

 よくできた子だね。

 みーよが、マムちんの器にワインを注ぐ。

 あら、あたしの分も、スイマセン。

 で、自分も吞むのね?

「光の女神アーリューシャインの恵みに」

乾杯(アズラエール)!」

 ん-いまだになじまないなーこの掛け声。告死天使(アズラエル)にしか聞こえないわ。


挿絵(By みてみん)


 普段は一人で晩酌? してるはずのマムちん。

 みーよは、こういう席には付き合わない、と思う。まじめ子ちゃんだからね。

 で、ふまじめ子ちゃんのあたしが付き合うことになるの?

「付き人イクミ。あなたの働きは本当に素晴らしい」

 えーなによそれー褒められるのは嬉し恥ずかしーんだけどー

 最近、解体作業を教わるおにーさんにも褒められてるしー

 やーなんか体がホカホカするわ。

「……オーク集団の討伐依頼、受けるのですか?」

 ちょっと真剣なお顔。

 ん-あたしが決める事じゃない、けど。

 決めてもいいなら、行きたいかな。

「あたしは付き人だから、みーよが決めることだよね」

「先生、明日ギルドに行って、確認してから判断するということで、宜しいでしょうか?」

「そうね。そうして頂戴」

 先生、ワインをぐっと飲み干すと(そしてすかさずみーよがお代わりを注ぐと)、あたしをジッと見つめる。

 ん-、さっきから何か言いたそうだわね。お酒の力を借りて、打ち明けちゃおうって感じかしらん。

 いーよー聞いてあげるよー

 あたしもイロイロと情報は欲しいんだわ。

 現代にみーよを連れ帰るためには、何でもいいからヒントが欲しい。

 こっちも、グッとワインを開けちゃう。(そしてすかさずみーよがお代わりを注ぐ)

「知っていると思いますが、私はその昔“オラクルの大聖女”と呼ばれていました。そういう時期があったのです」

 んと、その都市の名前とか、地名を冠する聖女様って、相当スゴイ人なんだっけ。職業として聖女をやるなら、是非とも目指したい立場なんだとか。

 んで、教会の外見はともかく、中の調度やお手入れは、かなり丁寧に行き届いている。孤児たちがお掃除やお世話をしているんだとは思うけど、大人の院長先生じゃないと出来ないこともあると思う。

 聖女としての情熱は、まだ煌々と燃えているんだね。

 でも、彼女は“その昔”って言ったよね。

 つまり、今は“違う”んだって、事だね。

「勇者様とも旅をしたことがあるのですよ。軍を成して攻め寄せるオーク・キングを打ち倒すお手伝いをしたのです」

 へえ、そうなんだ。

 勇者も“職業”として、あるのね?

 勇者とくれば魔王だけど、魔物を統率して軍隊化する、そのトップとしての“魔王”ってことね。まーそれはその通りだね。

「その功績によって、この教会の建造を許されました。資金も、その時の報奨金を用いたのです」

「へー、一攫千金ってわけね?」

「いえ、光の女神アーリューシャイン様のお導きなのです」

 これこれ、とみーよに睨まれた。あ、マムちんが気分よく話してるんだから、茶々は禁止ってことか。ゴメン。

 そんなに気分を害してはいなさそうなマム院長が、ワインを口に含みながら話を続ける。

「地域の住民に善行を施し、布教を続け、弟子を幾人かとり、私の付き人であり夫でもある彼と共に、幸せな日々を送っていたのです」

 付き人=夫、か。あー孤児たちがみんな男女ペアなのは、そういう魂胆かもしれないね。

「ただ……」

「ただ?」

 幸せは長くは続かなかった、が、話の流れだけど。

 そういうベタな話?

「依頼を受けてオーク集団の討伐に向かったのですが、それは欺きだったのです」

 欺き?

「気づくと、味方は付き人以外に誰もおらず、善戦むなしく私たちはオークに敗れ去ったのです」

 えー? 仮にも“オラクルの大聖女”と呼ばれた人を置き去りにして逃げたりするの?

 それって裏切られたって事?

「夫は四肢を全てちぎられて、目の前で殺されました。私は、幾晩も幾晩もたくさんのオークどもから辱めを受け続けました。聖女として理性を失わないための奇跡を願い求め、それは叶えられました。しかし、他の全てを失ってしまったのです」

 うわぁ、なにそれー

 ちょっと引き気味なあたしに、何でもない事のようにマム院長は微笑んでチーズを口にした。

 そのまま美味しそうにワインで流し込む。

 なによ、こんなこと、平然と話していいようなもんなの?

「その後、人族の軍によってオーク共は殲滅され、私は解放されました。しかし、付き人を亡くし、聖女としての力をすべて失った私に残されたものは、この教会と幾人かの弟子たちのみ。信徒は全て在野に散りました。弟子たちも一人、二人と去っていき、後には私しか残らなかったのです」

「今いる孤児たちは?」

「教会同士で、互いに行き倒れた子や身寄りのない子を引き取る取り決めがあります。引き受けたなら世話をする勤めがありますので、弟子のいない私の所で何人か引き受けたのです」

 んーそういう話ね。ま、マムちん一人だから、たくさんの面倒は見られないけど、これ位の人数ならなんとかなるでしょ、ということかもね。

「アリとシャランは、随分大きくなりました。聖女や付き人としての見込みが無いのであれば、在野に帰さなければなりません。女性のアリは、良い結婚相手を見つけてあげればいいのですが、シュランについてはどうしたものかと悩んでいました。

 付き人イクミ、あなたがあの子(シュラン)を弟子にしてくれると聞いて、本当に嬉しかったのですよ。少し、心配事が無くなりました」

 んげ、そんなに重たいお願いなの?

 ん-まー出来ることはするけどさ。

 あたし、まだこの世界に来て6日目だよ?

 右も左もマダマダ分かんないんだよ?

 あたしに任せて、大丈夫なもんなの?

「任されるのはいいんだけど、教会(ここ)で働けばいいんじゃないの?」

 貴重な男手候補でしょ? 勝手も知ってるし、思春期を過ぎれば、人柄もマシになるでしょ? ってか、あの頃の男の子って、あんなもんだし?

「働きに見合う報酬を、支払ってあげられませんよ」

「その辺は、院長センセの腕の見せ所でしょ?」

 信徒を集めて、寄付とかお布施とかをガッチリ巻き上げればいいんじゃないの?

 ん-これじゃあたしが悪徳宗教法人みたいだけどね。

 でも、本人たちがそれでイイっていってんなら、いいんじゃないの?

 ってか、この世界って、ごく普通に魔物が群れを成して攻めてくるんでしょ?

 聖女という実力行使ができる(対抗手段を持っている)人って、もっと大切にされていいと思うんだけど?

 少なくとも、聖女を裏切ってオークどもの中に置き去りにしていいはずなんか無いよね?

「いまさら、私にそのような力など、残ってはいないのですよ」

「そーかなー、マムちん、全然諦めてないよね?」

 こらこら、敬称つけてよー!

 みーよに睨まれまくった。

 でもさ、お酒の席の話だし、垣根なんか取っ払って本音トークした方がいいと思うんだよね。

「シュランとアリちゃんを引き取った後も、カンタとリコットに聖女教育しようとはしてる。しかも、あのチビちゃんたちも、将来はそうやって育てようとか思ってるんでしょ?」

「たまたま、たまたまなのですよ」

 何照れてんのよ?

「本人たちも、あたしも、そんな風に思ってないよ? あの子たち、院長先生の事を尊敬してるし大好きだと思ってるよ。マムちんがそんなところで日和(ひよ)ってドーすんのさ」

「私には、もう、聖女としての力は、残されていないのです……」

「あるじゃん。聖女教育してるじゃん。後進を育ててるじゃん。かつてオラクルの大聖女だった経験を語れるじゃん」

 なによーこんな当たり前のこと言われて、ハッとならなくてもいいわよ。

 現にそうやってるんでしょ?

 まあ、ボタンの掛け違いみたいなもんはありそうだけど、んなもん直せばいいだけでしょ?

「子供の将来を心配してあげるのもいいけど、あの子たちがどうしたいのか、ちゃんと話を聞いてあげなよ。んで、みんなで一緒に考えようよ。マムちんの頭の中だけで考えない方がいいよ。だってマムちん、頭が固いんだもん」

「頭が、固い?」

 みーよが、顔をしかめている。

 あ、言い過ぎたねぇ。

 ま、言っちゃったもんはしょうがないでしょ。お酒の席の話だしー

「あたしみたいな異民族が横から言う事じゃないとは思うんだけどね。ま、参考位にはなるんじゃないの?」

 異民族だからしょうがないの。許してね。メンゴメンゴー

 だよねえ、と、思い直して貰えたらしい。良かった良かった。


 と言うことで。

 マム院長としては、オーク集団の討伐中に、仲間から裏切られて置き去りにされる(トラウマ)があるから気を付けてね、という事らしい。

 みーよは“オラクルの大聖女”と呼ばれる立場を目指せる急成長株(見込みあり)なので、大切にして欲しい、でも無理はしないで欲しい、どっちなのよモウ、みたいな話と。

 邪悪で醜悪で淫猥なオークどもを一匹でも多く蹴散らして欲しい、純粋な恨みのこもった願いと。

 マムちんが言いたいのは、そういうことのようです。

 稼ぎは、そんなに期待はしてないけど、出来るだけヨロシクね、でした。

 ポーター制度は、食いっぱぐれはあんまりないんだけど、その分儲からないらしい。まあ、比較的安全に経験を積めるのがいい所で、ただ、くれぐれも裏切られないように気を付けて欲しい、と念を押された。実感こもってた。


     ~ ・ ~


 女部屋でシャワー浴びて、お着換えして。

 みんなで、たっぷり寝た。

 ん-屋根付きって、やっぱいいわー

 ポーター制度で遠征ってことは、建物の中で眠るのはあんまり期待できそうにはない。寝れるときに寝ておこう。



                         (つづくっ!)

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