53.君たちは悩んで悩んで大きくなるといいよ
教会に戻ったのは、昼すぎになった。
さすがにあの皮ジャン男はいなかった。いてもらっても困る。本当に困る。
荷物を降ろして、院長先生に修復工事の契約の話を報告して。
食品庫を整理して、職人さんの分の食材をギュウギュウに押し込んだ。
ちびちゃんたちと遊んで、寝かせて。(ホントこの子たち、すっかりあたしになついたなぁ)
シュラン(んー未だに覚えられない)とカンタ(こっちは簡単カンタ君。覚えた)に、もうちょい複雑な駆け引きを教えようとしたら。
剣を覚えてみたい、んだそうで。
あー今朝のかー
すっかり印象に残っちゃったんだねぇ。
まーいーけどー
あたしの剣は我流、というか、あたし、武器にそんなにコダワリ無いんだよね。
無ければ無いで、どーでもいいって感じ。
ん-でもなーさすがに素手だとオークの分厚い脂肪を切り裂けないし、外皮の固い獲物には通用しないんだろうねー
武器の使い方は、覚えておいて損は無いし。
そもそも、普通に武装しておくのは、この世界では当たり前だよね。
んじゃ、明日アギト・ナイフを取りに行くので、ついでに武器屋によって、練習用の模擬剣を買いに行こうか、というと、なんかスゴク喜んでた。
で、少し離れた処からでも戦えるようにもした方が良いので、スリングを教えてあげようと提案した。
物置から木の人形っぽいのを引っ張り出してきて(なに、これ?)広場に置く。
距離を置いて、武器屋で購入した滑らかな石をあたし特製のスリングに仕込み、ブンブン回して狙い撃つ。
まあ、この距離なら、外さないわね。
おーすげーという歓声に、ドウモドウモと応えながら、的に刺さった石を力ずくで取り外す。(なによこの的人形、随分柔らかいわね)
石をスリングに仕込んで、ちょっとだけ距離を取って、ぶん回して叩きつける。
背中側にスリングを廻して、自分も半身を傾けて、背後からもう一撃。初撃を食らった相手に、これは見えないはず。
身体を沈めると同時に、地面から上へ顎を目がけてもう一撃。相手が苦し紛れの反撃を仕掛けてくれば、カウンターが取れる。
振り返り、立ち去る振りをして、相手を見ないで背中側へ上から振り降ろす。人形の頭に直撃。
この間、2秒。
左手で石が入っている側を掴んで、腰袋に収納。
カッコつけで、スカートを摘まんでカーテシー。
「スリングは、普通に武器屋で売ってたね。使いこなせるようなら、これも買ってあげるよ」
ぼぅっと見ているだけだった男の子たちが、我に返って来た。
「なに、それ…」
「みたことねー」
「ん-君ら、スリングはただの石投げ器だと思ってるんでしょ? 上手く使えば、射程も威力も増すことができるよ。オオカミちゃんたちも、コイツでただのお肉にしてあげたんだよね」
ま、過信しちゃダメだけどね。
「剣も大事だけど、使える武器はたくさんあった方がいいよね。いっそ、武器なんかなくてもいいよね。相手の持ってるのを奪えばいいんだからさ」
あら、目が点だわ。
「ま、あたしの弟子をやるなら、その辺はちゃんと教えてあげる。ついてこられるかどうかは、別だけどね」
とりあえず、コクコク頷かれた。
武器屋で購入した石は高いので、無くされると困る。
そこらへんで拾った石を使って、投擲の練習。
飽きたら、スリング格闘の練習。
結構、自分の身体にぶつけて痛そうにしていた。
この手の武器は、これがあるんだよねー
まぁ、慣れるしかないね。
多少の怪我なら、みーよが治してくれるから、体に染み込ませるのが一番早いと思う。頑張れ、男の子。
にしても、あたし、こういう分野で悩んだこと、無いんだよね。
ホント、自分で言うのもなんだけど、天才なんだと思う。
大抵の技は一度見たら分かるし、再現できる。
で、さらに体に染み込ませるための鍛錬も好き。
やらなくても出来るんだけど、ん-、ゾーンっていうらしい、集中しきった状態になれるのが、ホントに好き。
ま、周囲が全く判断んなくなるというコワイ所もあるんだけどね。
君らには、そういうトコロも覚えて欲しいな、と、師匠としては思うわけよね。
あちこち傷だらけの男の子たちは、でも、とても楽しそうだった。
こういう風に何かを教わるという経験が、無かったらしい。
生きていかなきゃ、ならないので。
年長の男の子が、あんまり儲けにはならないけど、街を出て遠くまで薪拾いをして、それでなんとか全員の生活費を賄っていたんだって。
後は教会の掃除や井戸からの水汲みもするけど、とにかくお腹を空かせたまま、毎日を耐えていたんだとか。
建物の外はあちこち壊れているのに、中が意外にキレイだったのは、そうか、この子たちがお掃除しているからか。
街の中にお仕事出来るところは無いの? と聞くと。
身元のはっきりしない子供は、どこも雇ってはくれないのだそうで。
ん?
教会の子でしょ?
はっきりしてるんじゃない?
教会の子は、つまり孤児だから、誰の子か分からないか、親が死んだか、捨てられたんだから、はっきりしていないことがはっきりしている、と言われた。(ややこしいな)
まーそーだとは思ってたけど。
親がいる子供は、親の職業をそのまま継ぐことが出来る。
親がいない子供は、就職口を求めて苦労しなければならない。
兄弟がたくさんいる子供も、親の職業を継げないので、同じように就職口を探す必要がある。
割と似たような境遇の子はいるので、それが当然だという感覚らしい。
自分たちは教会の子なので、聖女候補の女の子の元で、付き人としてお仕えするものだと思ってはいたんだけど、中々上手くはいかないものだ、と悩んではいるらしい。
あたしに弟子にして欲しい、というのは、戦い方だけでも教われるなら、教会を出て冒険者になるという生き方もあると思いついたみたいね。
まーそーだね。冒険者って、ドカンと稼げるんだね、って実際に見ちゃったからねぇ。
聖女の付き人って、ホントにスゴイんだ、というのも目で見て体験しちゃったし。
ただ、聖女の祝福無しでも滅茶苦茶強い、と言うことも分かってしまって。
で、自分たちも戦い方を覚えなきゃ、と思ったわけね。
そうね、君たちは悩んで悩んで大きくなるといいよ。
そういう悩んでもいい時間を上げるのが、大人の役割だからねぇ。
ま、あたしもまだ子供なんだけど、さ。




