51.ここがダントツで上手いんだって
この世界では、お洋服は高級品。庶民はお古を着回すのが定番。
お裁縫は女性にとって必須の技術で、手直しお直し着回しが当たり前。結婚するなら裁縫の腕は確かな人を選ぶのが定番中の定番。
お貴族様はこういう事とは無縁だが、刺繍の腕前が必要なので、裁縫が上手な庶民を下働きに雇い入れて、こっそり刺繍してもらう、なんて事もあるらしい。
材料の糸は、家庭内で内職として紡がれることが多い。糸を織り合わせて布を作り、市場で売ることも良くなされている。
貧しい人は稼ぎが足りない分を、そうやって補うのだそうです。
旧時代よりも、さらにもっと古い時代。
家庭内工業とか言ってたような、動画だったような。
あたしたち現代人には、ちょっと理解が難しいけどね。
糸? 布? 織り合わせる?
ポリマーレーザー加工が当たり前、じゃ、ないのね。
材料の液体を投入して、プログラムを読み込ませて完成、じゃ無いのね。
だって布って、糸をより合わせてるんだから、中身が穴だらけというか、スカスカなんじゃないの? 大丈夫なものなの?
ま、あたしはこの世界の人間じゃないから、いいんだけどね。
大通の一角に高級な洋品店があるのは、目星を付けている。
子供たちは見たことはあっても入ることは絶対に無いらしく、尻込みしている。
あたしはそんなもん、まるで気にもしないで中に入る。
胡散臭いのが来たぞ、と寄ってきた店員に、外の荷車を預かってくれるか尋ねる。
ふぅむ、という顔をされ、いや、見た目で判断は良くない、それにしてもなんだその恰好、まあ取り合えず客として接して様子をみるか、と判断されたらしい。
裏に馬車を付けるスペースがあるので、そこにいる下働きに声を掛けてくれればいい、と言われた。
ま、対応としては及第点かな。
みーよと子供たちが荷車を置いて、店内に入ってきた。
子供たちのみすぼらしい格好に、眉をひそめる店員。
ま、気持ちは分かるけど、さ。
服を買いに来てんのに、ちゃんとした格好で来い、というのは……合ってるね。メンドクサイけど。
クソぉ、やるな、この店員。でも、負けないもんね。
「この子たちに上下一式、見繕いたいの。出来る?」
出来んの? と、コッチから圧力を掛けちゃる。
「採寸させて頂いて、お好みの生地をお選び頂きます。流行や定番は、ご存じでしょうか」
知らん。
「定番でいいよ。その辺は任せる。じゃ、採寸お願い」
いかにも慣れた風に、店員に子供たちを預けた。
不安げな顔をされたが、あたしがドヤ顔でいるので、少しは安心したみたい。こういう態度は、結構大事なのよ。
待ち時間の間に、みーよと二人で店内を見て回る。
ディスプレイされているのは、布を重ねてふんだんに使ったドレスや、高級な生地を惜しげもなく使った礼服。
ん-庶民の服は、無いねぇ。お店間違えたかなぁ?
いやでも、新品の服を作ってくれる所って、ここしか無いと思うんだけど?
「ここで大丈夫だよ。庶民用の服は飾るほどの価値がないからだけだよ」
なるほどね。採寸手作りだから、そんなにたくさん作れない。だったら飾る意味はない、ということかな?
「ここは領主さま一族や、その下の子爵さまたちも御用達のお店なの。お屋敷に採寸に伺って、ここで被服してお届けしているのよ。お針子さんも大勢雇ってる」
へー。大きな街だけど、洋服屋さんはここ一軒だけ、ってこと?
「もう何件かあるけど、腕が信用できない。ここがダントツで上手いんだって、ミドリが言ってた」
「ミドリ?」
「わたしと同じ、野良聖女の一人」
あーあのかしましーのか。
ん-色と名前が違うと、覚えられないなー
「緑色の法服を着た、もじゃもじゃ頭で黒メガネの娘よ。青の法服で濃い茶色の髪の娘がアオイ。黄色の法服で、金髪の髪の娘がメローね」
ウワぁ、そんなに名前覚えられないよ。あたしの頭の程度、知ってるでしょ?
「無理に覚えなくてもいいよ」
分かってる、とみーよが頷く。
そー言って貰えると、助かります。
採寸が終わったみたいで、ちょっと大きなテーブルがある場所に招かれる。
いくつか布を広げられて、好みを尋ねられた。
「好きなの選んでいいよ」
えー何これー、な年少さん。君らはねぇ遠慮なんかまだ知らなくていいよ。
戸惑ってばかりの年長さん。君らはもう遠慮って言葉を知っているんだね。
「院長先生は、スラムの人たちに炊き出しをしたいと言ってたでしょ? それに、先生の教えを聞きたいと思って他の人たちも教会にやってくるかもしれないね。そういう時に、君たちがちゃんとした服装をしていると、先生もきちんとしている人なんだと思ってくれるよ」
みーよが、優しく解説する。だから、遠慮なんかしなくてもいいんだよ。
「マム先生のために、いい生地を選んでね。小さな子たちは自分で選べなそうなら、お手伝いしてあげるね」
お、納得したらしい。
年長さんの顔から不安がなくなり、真剣に選び始めた。
年少さんはそういう気持ちは最初からないので、あたしが好みの色を聞いて、布の触り心地を確かめて、選んであげた。
シレン、じゃないや、えっと、シュランは割と早く生地を選んだけど、アリちゃんはさすが女の子だねぇ、かなり吟味していた。
こそっとお値段のことを聞かれたけど、大丈夫だから好きなの選んで、と言っておいた。
実際、一着につき金貨1枚、計4枚で済んだしね。
前払いが必要? と聞いたら、頂けるなら、と応えられた。
店としても、ちょっと安心できるらしい。
みーよが高級金貨袋を取り出して、そこから4枚数えて渡す。
全額先払いなら、何の文句もないでしょ?
本格的に安心して貰えたようで、なにより。
子供たちはビクビクしてたけどね。そこまでは面倒見れんよ。
店員が、よく分からない、多分魔法陣だと思うんだけど、それが書かれた羊皮紙をテーブルに広げて。
懐から、ギルドカードと同じような、半透明のプレートを取り出した。
みーよも、同じようにプレートを取り出す。
「契約と隷属の管理者アストレージの御前にて、ここに契約を結ばん」
「契約を結ばん」
店員が唱えて、みーよが後から唱和する。
なに、これ?
子供たち、ビックリしている。
あたしも、ビックリしている。
魔法陣が一瞬光り、それでオシマイ、みたい。
「これにて、契約完了です。お引き渡しは1週間程みて頂けますか」
「承知致しました。光の女神アーリューシャインの加護がありますように」
軽く杖を掲げ、一瞬だけ、光って消えた。
んー祝福?
付き人にしか使えないんじゃなかったっけ?
あたしの疑問には答えてくれなかったけど、多分、アイサツみたいなもんなんだね。




