43.顔洗って出直してきな
冒険者ギルドに出かける準備を済ませて、みんなが見送る中、玄関を出ると。
図体ばかりデカくてイラない男が、敷地の門の所に立っていた。
花束を、持って。
「お、お、おはようございます……」
ゴロツキを従えてスラムに巣くっていた、昨日のボスだ。
相変わらず、センスのない半袖の革ジャン装備。
抱える花束が、まあ、似合わない事この上ない。
「なんか用?」
あたし忙しいんだけどなーと、アカラサマな態度を取りながら、近づいてみる。
「昨日、一日考えたんだ。やっぱり、俺の嫁は、お前しかいない。頼む、結婚してくれ!」
はぁ、またその話?
「断ったよね?」
「い、いやしかし、俺の嫁はお前しかいない、いないんだ!」
「あたし、自分より弱い男には興味がないんだってば」
「お、お前を負かせば、結婚してくれるのか?」
なんか後ろが騒々しいけど。
キャッキャキャッキャ言ってるけど。
あん時は、ボスであるあんたの体面とか考えてあげて、手加減してあげたんだけど。
あーそーかー分かってないのかー
「みーよ、ちょっとだけ、待てる?」
「少しなら、いいよ。急ぎの用事じゃないしね」
「男の子たち、折角だから、師匠のお手本を見せてあげるね」
観ておくように言って。
ボスに向かって言う。
「そーだね、あたしを負かせたら、考えてあげてもいいよ」
「ほ、本当か⁈」
「うん、アリちゃん、花束くれるらしいので、お部屋に飾ってくれる?」
年長さんを呼び寄せて、花束を預かって貰う。
「この花、どーしたの?」
「スラムの花売りの子に頼んで、用意してもらった」
「脅したんじゃないんでしょうね?」
「しないしない。嫁へのプレゼントにそんなことはしない」
こら、嫁を規定事実にするんじゃない。
その盛大な勘違い、正してあげなきゃね。
「ならいいわ。あたしの両肩を地面に押し倒せたら、アンタの勝ち。あんたの両肩が地面に着いたら負け。気絶と降参は、即負け。それでいい?」
「それでいい。よぉし、今度は簡単にはやられん!」
頬を張って、気合を入れるボス。
「んじゃ、やろっか」
ちょいと距離を置いて。
男が構えるのを待って。
斜め下にダッシュ。
そのまま身を沈めて水車蹴り。
「うわっ!」
モロに足を刈られてひっくり返るボス。
間髪入れずに飛び掛かる。
ゴツイ頭を両手で押さえつけながら、両足をヤツの肩に掛けて、そのまま体重を乗せて地面に叩きつけた。
制服の短めのスカートがヒラヒラするのは、気にしない気にしない。
「はいオシマイ。あたしに勝とうなんて、100年早い。顔洗って出直してきな」
「おまえ、強すぎるだろう……」
顔をがっしり掴まれたまま、ボスが呻く。
「ゴメン弟子たち、コイツ弱すぎて、何の参考にもならなかったね」
観ておくようにいったのに、ホント弱すぎ。
「花束アリガト。じゃーねー」
呆然とするやら、あきれるやら? な観客を残して、あたしたちは街の方に向かった。
~ ・ ~
「正直、郁ちゃんに祝福を掛ける暇というか、その機会がないんだもん」
「ゴメン、あたし、ちょっと強すぎるんだねぇ」
そうかもしんない。革ジャンボス程度、祝福貰うより前に、速攻で潰せるしね。
「だよね。でも、単純な力や技だけじゃどうにもならない時ってあるから、その時はわたしの指示に従ってね」
「えーいつも言う事聞いてるでしょ?」
えーという顔で睨まれた。
そんなに暴走してるかな、あたし。
心当たりは、無いこともないし、有るといえばある。
ま、結構、好き勝手やってるなーとは、思うよ。
あたし、考える前に体が動いちゃうしね。
だから、考えるのはみーよのお役目ね。
それでいいんでしょ?
道中、簡単に聖女の祝福について教えてもらった。
昨日、アリちゃんや年少さんとお話した続きになりそうだけど、これも付き人限定か、誰でもおっけーか、宗派によって分かれるらしい。
緩い所は、それこそ道行く人にでも掛けられる。これで商売じゃないや、布教してもいいんだっけ、している宗派もあるんだとか。
もうちょい厳しくなると、パーティーを組んだメンバーには掛けられるという制限が付くみたい。仲間が聖女の活動を支援しているとみなされるわけね。
みーよんとこは、付き人限定。厳しいというか、ケチだね。
いやでも、信仰を共にしていないのに祝福を掛けるというのは、理に反しているという理由らしいね。ま、そういう言い分は、無いこともないね。
祝福は元々限りがあって、聖女本人の力というのもあるし、神様が現界にどれだけ影響を及ぼす権限を持っているか、というのもあるんだそうな。
ま、あたしは神様の出力そのものも関係してるんじゃないの? とも思うけど?
あんまり言うと、女神ちゃんがヒステリー起こしそーだから、ヤメとこう。
ホント、あたしの心を読むの、ヤメてよね。
で、みーよの場合は、付き人のあたしに純粋な力を及ぼすというよりは、あたしがイメージ出来て、こうして欲しい、あれが欲しいと思うものに関して奇跡が行使されているらしい。
制服とか、シャワーとか、現代のご飯とか、だね。
そう考えてみると、女神ちゃん、結構ヤルじゃん、と思えるのよね。
この世界の物に関してとか、この世界で知られている聖なる力みたいなものは、ある意味当たり前に出来るんだと思う。
でも、あたしたちの世界の物をこの世界に引っ張り出してくるのって、結構スゴイ事なんじゃないの?
そういうサポートをしてくれるなら、力事荒くれ事汚れ仕事は、あたし自身の力で、大抵のことはなんとかしちゃうんだけどねー




