44.ギルドマスター
色々おしゃべりしながら朝の街を歩いて行くうちに、冒険者ギルドにご到着。
建物の前の噴水やベンチも、半分以上が埋まっている。待ち合わせに使われているみたいだね。
どうしても目立つ恰好をしているあたしたちに、いやでも注目が集まっちゃうわ。
「オーククイーンと、大化け聖女だ…」
「おーあれかー」
「俺、昨日潰された」
「俺なんか尻に引かれた」
「その程度ならまだマシだぞ、俺なんかな…」
「あれを飼いならしてんのか、スゲェな聖女」
「俺は癒してもらった」
「俺も。ってか、あの場にいた全員だぞ」
「バケモンだよな二人とも」
「バケモンだ」
ひそひそ噂されてんのをあえて無視して、噴水の横を通り抜ける。
君ら、聞こえるように言ってるでしょ?
ま、その程度でいちいち怒ってもしょうがない。
ただ、オーク・クイーンだけは、ヤメてよね。
~ ・ ~
ギルドの中に入ると、依頼の掲示板の前に人だかりが出来ている。
条件のいい依頼を求めて、早い者勝ちの競争しているんだね。
そーだよね。お仕事しなきゃ、だよね。
で、競争に負けた連中が、昨日はギルドの中でたむろしていたのかー
という事は、外の連中は、もう仕事が決まって、の待ち合わせかな?
わからんけど。
「あたしらは、お仕事探し?」
「ううん、用事はわたしたちというより…」
みーよが周囲を見渡すと、昨日のトロい受付嬢が向こうから近寄ってきた。
今日は、受付業務ではないらしい。
「聖女ミヨ様、ようこそお越し下さいました。別室にご案内致します」
あら、今日は最初から別室なのね。敬称もちゃんと付けるのね。
やれば出来るじゃないのさ。じゃあさっさとやりなさいよ、トロ子ちゃんめ。
ギロっと睨むと、ビビった顔をされた。
あ、みーよにあたしが睨まれた。テヘ。
2階に案内されて、応接間みたいな所で待機。
かなり大きな長方形のテーブルに、4人掛けのソファーが左右にセット。
それほど待たずに、きちんとした制服をきた壮年の男性がやってきた。
左目に縦の傷。目は見えてる。
右頬にも傷。これ、口が裂けたのを縫い合わせてるね。
五角形の顔にオールバック、髪の毛は赤毛。
青い瞳、何度か潰れた跡がある鼻。
美男子ではない。相当な肉弾戦を潜り抜けた顔。
ゲルマン系、多分チュートンの血が濃いと思う。
横幅がガッシリ。身長はあたしより少し上、180cm前後だね。
「聖女ミヨ、見違えたな。で、そちらが噂の付き人君かな?」
顔に似合わず、柔らかく、ゆっくりとした口調。
「はい、ギルド長。光の女神アーリューシャイン様の思し召しにより、付け人を賜りました。イクミと申します」
みーよが、あたしの事を紹介して。
ギルド長が握手を求めて来たので、ガードグローブを付けたままだけど、いいよね別に? 握り返した。
ごっつい手だった。
職業は剣士だよね?
それも、何十年も柄を握ってきた手だね。
あたしはみーよの護衛なので、席じゃなくて後ろで立っていようかと思ったけど、座るよう勧められたので、じゃ、遠慮なく。
ギルド長が向かいに座ると、さっきの受付嬢がお茶とポットを運んできた。
待遇が、昨日とは全然違うんですけどー
出されたのは、紅茶だね。香りがいいね。
教会で使っている木製のコップじゃなくて、ちゃんと陶器。ンと、磁器だと思う。
現代では、この手の容器はほぼ軟金属製なので、正直よく分かんない。お金持ちなオーナーも、この手の趣味はない。そもそも、陶器は地球でしか作られない高級品だしね。
ポットから注がれるので、香りが部屋中に広がる。
温度も淹れ方によって調整しているんだろうね。
手際が良く、上手なんだと思う。
あれ、トロ子ちゃん、もしかして上流階級でもメイドとか務まる子だった?
いや、無い無い。だって、受付嬢なんて、あんな荒くれ相手をしなきゃなんないんだよ? お上品なお方には向いてないよ、致命的に。
そんなあたしの考え事など気にも留めずに(そりゃそうだね)、ギルド長は昨日の不手際の謝罪から始める。
へえ、この人、出来た人なんだ。偉いのに自分から謝れる人なんだね。
オーク・アギトの一隊の件は、薄々聞いてたけど、結構な問題みたいで。
昨日は領主に討伐隊を出すように進言しに行って、ギルドを不在にしていたらしい。
冒険者ギルドの仕事だろうと断られて、いや懸賞金も出しているし、やることはやっている。たまたま、このギルドでもエース級のパーティーが二組とも不在なので、困っている。今回だけでも頼めないか。
いや断る、お前たちだけで十分だろう、みたいな事をやっていたそうな。
柔らかい口調で、あたしたちが納得のいくように説明してくれた。
ごつい、傷だらけの顔の割りに、細やかな人だね。
んで、みーよにオーク・アギト討伐の報告を聞いてきた。
聞いたことを、領主様に報告に行くらしい。
村の全滅の事や、取り囲まれて助けを祈っていたらあたしが召喚されたこと、あっという間にオークを全滅させたこと、オークの死骸の浄化や、村人たちの生存確認、光の女神様による葬送について話した。
ギルド長に認められ、ねぎらわれ、褒められたみーよは、表情こそ崩さないものの、かなり嬉しそうだった。
聖女の使命をようやく一つ果たすことが出来た、と呟き、とても満足気だった。




