39.ああ、なんで私は聖女に選ばれなかったんだろう
男の子たちが、あたしが教えた技をお互いに掛け合って遊んでいる間に。
年少の女の子の方は、みーよやアリちゃんみたいに、自分も聖女の勉強をしたいんだけど、先生が教えてくれない、なんとかならないかと相談された。
けど、んーあたし、その辺はちっともワカランとしか言えなかった。
でも、男だから女だからじゃなく、自分にできる事や合ってると思うことをやったらいいんじゃない? と言うと、少し自信が付いたみたい。
なんか、アリちゃんもウンウン頷いている。
こっちはこっちで、聖女候補として育てられ、期待されていたのだけれど、神代語とか聖女の作法とか祈りの文言がちっとも覚えられなくて困っていたのだそうで。
そんな時、院長先生がみーよを“拾ってきて”聖女の教育を始めたので、モヤモヤしていたのだそうです。
拾ったって、どこでどーしてそーなるのよ?
なんでも、街の外に気を失ったまま倒れていたので、捨てられて行き倒れた子供として処理されたのだそうで。
子供、ねえ。
ま、この世界の人から見れば、モンゴリアンの女性は、成人に近くても子供扱いされそうだね。
街にはいくつか教会があって、孤児院も大体は併設されているのだそうで。
でも、どこも一杯一杯か、都合があるので受け入れは厳しいんだけど。
数年ぶりに、院長先生の心の中に女神さまの声が聞こえたんだそうで。
これは光の女神さまのお導きに違いないと、ウキウキしてみーよを連れ帰り、聖女教育を施してみたら、見る見るうちに教えたことを覚えて。
聖女として認定して貰って、自分が使っていた法服と杖を託して、聖女の活動を始めさせて。
しっかり稼いできてね、と送り出したんだけど。
……てんで使い物にならなかった、というわけね。
これなら私の方がまだマシ。ああ、なんで私は聖女に選ばれなかったんだろうと、モヤっとしていたのがアリちゃん。
その辺はまだあんまり考えていなくて、教えてくれないのはドーシテと思っているのが年少組の女の子、リコットちゃん。
みーよ、頭はスゴクいいんだよね。あんまり勉強している風には見えないけど、学力は常に学年トップ10に入っている。
本気で勉強すれば学年1位になれるのに、というと、別にそこまでしたくもないのだとか。
もったいなくない? と聞くと、郁ちゃんは頑張れば赤点をクリアできるのに、頑張らないの? と返された。
うん。頑張らない。絶対にイヤ。無理なもんは無理。
でしょ? そーいうことよ、とごまかされた。
ん-ごまかしては、いないか。
でも、この世界で生きて行くために、みーよはスゴク頑張ったんだと思う。
ごまかし無しで、真剣に頑張ったんだと思う。
無理だよ、現代人がいきなりこんな所に放り込まれて、聖女の技能はあるにはあるけど、右も左も分からない、ましてやゴロツキに近いようなのしかイナイ冒険者ギルドでお仕事だなんて。
ましてや教会周辺には本当のゴロツキどもとか、生きるのにもっともっとシタタカなスラム住民がひしめいているんでしょ?
現代のお嬢様なみーよは、よく頑張った方だと思うよ?
ま、そういう事情を知らないアリちゃんとか、世間の事情を知らない年少さんとかには、分かんない世界だろうね。
ちなみに聖女は一人しか成れないの? アリちゃんも頑張れば二人目の聖女に成れたりしないの? と聞くと。
その宗派、というか、信仰する神様によるのだとか。
聖女は神様の代理人。で、沢山いてもいい派と、一人しか認めない派がいるんだって。
みーよの所はお一人様派。ただ、信徒が増えて規模が大きくなれば、司祭、司教といった組織としての活動ができるようになるのだとか。こっちは人数制限はナッシング。
そうなるためにも、先陣を切る役目として、スポークスマンとして、聖女は重要な役割を果たさなければならないらしい。責任重大だねぇ。
そのためには、活躍して、その地域や、さらには国に貢献度を認めて貰って「○○の聖女」みたいな肩書きが欲しいのだそうです。
そうすると、その区域や国が組織づくりを応援してくれるし、人々も入信してみようという気になってくれる、いう所の「勝ち組」になれるわけですな。
なので。
結構、宗派同士でライバル関係というか、蹴落としあうということも間々あるようで。
ホント、生きて行くって大変だねぇ。
~ ・ ~
院長先生とみーよのお話し合いも、終わったみたいだし。
みんなでお夕飯の準備準備。
結構大きな台所は、パン焼き窯と煮炊き用の竈があった。もちろん、熱源は薪だね。火を点けるのに苦労しそうだけど、アリちゃんは慣れた様子で準備していた。
ちなみにパンは、ここしばらく焼いていないのだそうです。買ってきた黒パンを細々と食べて繋いできたのだそうで。薪がもったいないらしいね。
黒パンは、固く固く焼き締められていて、水分がないのでカビが生えない保存食みたいなものらしい。旧時代の“乾パン”みたいなもんかな。観たことあるわ。
それじゃ歯が立たなくて食べられないので、干し肉を戻して味付けしたスープが食卓の必需品。芋や根菜、野菜もよく入れられるそうです。
そのスープに黒パンを浸して、柔らかくして食べるのがこの世界の基本スタイル。肉が無くても、タンパク質はこのスープから補うわけね。
いかに食材を保存するか。
そこに主眼が置かれていて、味は二の次みたいね。
あと、勿体ないことは一切しないので、パンは全粒粉。外のもみ殻はさすがに食べられないけど、内側の皮とかは一緒にすりつぶして粉にしている。精製するという発想が無いみたいね。
ただ、お貴族様以上は、白パンを毎日屋敷で焼いて召し上がっているんだってさ。
庶民も、ある程度上の階級であれば、朝はパン屋で毎日購入して焼きたてを食べるようです。
貧しい人たちは、固い黒パンをまとめて購入して、切り分けて食べていくみたいね。
そのパンも買えない場合は、小麦や大麦を茹でて食べる、つまりオートミールにするみたい。こっちは、スープも作れない程の貧しい食事、という意味合いもあるのね。
煮炊きする薪を買うお金も無い場合は、麦を生でクチャクチャと噛んで、飢えをしのぐんだってさ。家畜じゃないんだからさー無理じゃんそんなの。
でも、煮炊きする設備、屋根があって眠れる場所、身分を証明してくれる立場の人が存在すること。これがとても大切な事のようです。
そういうものがアヤフヤか、もしくは全く無いのがスラム住民。
仮小屋を勝手に建てて、お互いに奪い合ったり、時には助け合ったりして、なんとか生活しているみたいね。
なんというか、つくづく非道い世界ねぇ。
ま、あたしは自分の目に届く所にしか関心無いしね。そこまで届く手は持っていないわ。
難しいことは、院長先生とみーよが決めてくれるでしょ?




