37.革ジャンボス
プライドというプライドを残さず剥がされた連中を連れて、あたしとみーよはそいつらのボスの所にご挨拶に行ってくる。
年長組が付いて行きたがったけど、買った荷物の片付けもあるし、院長先生やチビちゃんたちを守ってあげてね、というと納得してくれた。
この教会は、あたしのシマになったのよ。手ぇ出したらどうなるか、ボスちゃんに分かって貰わないとねー
あと、もうちょいマシなの、いないの?
オークを出せとは言わないけど、退屈なんだよねー
あ、またみーよに睨まれた。ウフフ、なんでもないのよー
スラムのさらに奥のほうに、この辺では珍しい石造りで平屋の建物があった。
まあ、見た目はボロいんだけど、そこそこ広そう。元は、何かの倉庫だったみたいね。
見張りの男たちが、あたしたちと裸のお仲間たちを見て、びっくりして中に声を掛けている。
ぞろぞろと中から出てくる男たち。10人位だね。ボスっぽいのは、とりあえずご不在かな?
「あたしは聖女ミヨの付き人、イクミ。ウチの教会にのこのこ挨拶に来たコイツラを返しにきたよ」
この辺のゴロツキ相手なら、みーよよりあたしの方が本職なのよね。
とりあえず、仁義を切っておく。
「あの教会、あたしのシマになったから。今後、手ぇ出したらタダじゃ置かない。そんだけ、言いに来た」
ボスがいないんじゃシマンナイじゃないのさ。どこいったのよー
「な、なんだてめぇは」
「あのダメ聖女の教会だろ?」
「付き人って、おんなじゃねぇか」
「し、しかし……」
そーだよね気になるよね、お仲間のヤラレっぷり。
ま、ここでもう一回暴れても、いいんだよ?
教会の外なんで、殺しても流血しても問題ないんだし。
治外法権なんでしょ? なにやってもいいんでしょ?
あたしにとっては、あんたらはただの害獣、悪鬼以下。
話が通じない時点で、ヤルことは一つしかないんだけどね。
どーする?
「そこまでだ。こちらの手落ちだ。どうか、納めてくれ」
お、ボス登場。
外からのお帰りですかー待ってたよー
さすがの貫禄、縦も横もあたしより一回り上。いかついゲジゲジ眉に、彫りの深い鼻、分厚い唇。美男子ではないけど、貫禄はあるねぇ。
黒の革鎧、というより革ジャンに近いかな、その半袖バージョン。
半袖の革ジャンって、お世辞にもセンス良くないよ、カッコワルイよ、と思うけど、服装は人それぞれだからねぇ。
黒革ベルトと、黒皮のパンツで統一感を出してるんだろうね。
縫い目に鋲を打って、補強しているみたい。
「納めるって、何をどーすんの?」
「こちらからは、もう一切手出ししない。お前のシマに手を出すような連中がいたら、俺たちが動く。それでカンベンして貰えないか」
あらら、随分な下手だわねえ。
なんかあったの?
「お前のことは部下から聞いた。今朝、冒険者ギルトで大立ち回りしたのはお前なんだろ? スマン、話が行き違って別の部下が暴走した。オーク・クイーンに立ち向かうだなんて、絶対にありえない。申し訳なかった」
……オーク・クイーン。
あんにゃろー噂を広めてやがるな。ヤキ入れ直さないとなー!
「その名前は止めて。ムカつくから」
「す、す、すまん……その方が、怖さがはっきり分かると……」
「やーめーてー!」
あたしの髪が逆立つのが、自分でも分かる。
今すぐ、なんでもいい、ぶん殴ってやりたい!
「郁ちゃん……そういうところだよ?」
オーク・クイーンの由来。
ま、ま、そうかも、ね。
でも、でも、でも、その名前は、いーやぁああああ!
ボス登場、あっさり手打ち。
今までのことは過去に流して欲しいと言われたけど、あたし、過去のことは知らないモン。今後、手を出さなければそれでいいよ。
ついでに、タダで治安してくれるなら、まーそれでいーよ。
なんか有ったら、分かってんでしょうね殴りこみというか、全滅させるからね、ということも十分に分かってくれたようで何より。
代わり、じゃないけど、他の組織と縄張り争いになった時に、顔だけ貸して欲しいみたいなことを言われた。
まー暇なときに、みーよがオッケーなら、やらんでもないよ?
いうなれば、最強番長異世界版だねぇ。
細かいことは分かんないし、そーいうことなら解決でいいんじゃないの?
で、そういう細かい所が分かる相手らしいんで。
教会の塀とか建物とか紋章とか。
修理できる業者のツテはない?と聞くと。
あるけど、お金が必要、とのこと。
金は稼げば何とかなるんで、紹介して頂戴、見積もって貰うからというと、快く引き受けてくれた。
で、ついでのついでで。
稽古というか、素手で立ち合いして欲しいと頼まれた。
はぁ?
あたしと、アンタが?
いや、いいけど、部下の前でヤルの?
恥をかいちゃうだけから、場所を変えるならいいよ、と断ったけど。
構わないんだってさ。
へー、あたしもそういうの、嫌いじゃないしね。
じゃあ、サシでやりますか。
何かのはずみでアギト・ナイフを抜いちゃうとさすがに危ないので、腰袋ごと、みーよに預けた。ん-腰が軽いなー。
もしかして万が一の、みーよを人質にするワナだと困るけど、決闘の仁義として、そういうことをする輩は生涯に渡って不作法者呼ばわりされるので、ありえないんだってさ。
ま、部下の手前もあるし、それもそうだね。
軽く跳ねて、腰袋を外した分の体重移動を微調整。
うん、いいね。
お相手のボスは、へえ、メリケンサックで拳の防御か。ちゃんと、トゲトゲが付いてて、殺傷力があるねぇ。
その分、掴み技は甘いんだよね、それ。
足にもなんか仕込んでるかな?仕込んでるよね?
「降参か気絶で終わり、で、いいな?」
「急所攻撃ありで、ホントにいいの? すぐ終わっちゃうよ?」
ホントにいいのね?
「お互い様だし、実戦でそんなことは言わないからな」
そうだね。気が合うねぇ。
急所あり、だけど、あんた、結構スッキリしてる。
だから、その辺は手加減してあげるね。
お互いの呼吸が、合った。
だから合図なんてイラナイ。
あたしたちは、同時に相手に向かって飛び出した。
あいさつ代わりの左ジャブ。見えるかな?
お、片手で払いつつ、右ストレート。
見え見えなので簡単にスウェー。
で、何する?
そのまま身体ごと体当たりかー
背中側に逃げて、背後を取る。
バックブリーカー、行けるかな?
ガシッとした肉体。いいねぇ、お肉の感触―
左右に体を振って逃れようとするので、相手の左脚に自分の足を絡ませる。
体重が抜ける感触。
イケル。
横投げに近い感じで、地面に投げ倒した。
でも、こんなことで降参なんてしないんでしょ?
マウントを取って、腕を抑えに行く。
「くっ!」
おー抵抗するする。やるねえ。
足をバタバタさせるので、腰をずらして足が当たりそうな範囲を避ける。
さすがにあたしを乗せたまま、起き上がるのは無理でしょ?
こっちの足で、相手の腕を絡ませて押さえつけ、もう一方の手は、あたしの手と腕で固定する。
で、あたしは腕一本残っている。
戦鎚。
握った拳の小指側で殴れば、自分の手を傷めずに相手の顔を殴れるね。
「と、なるんだけど。降参しない?」
「……参った」
あたしは起き直り、起こす手伝いとして片手を差し出す。
「おまえ、スゴく強いな……」
「まーねー」
「俺の嫁にならない?」
あらまーまさかのプロポーズですかー
いやーん、照れちゃうねーもー恥ずかしーわー
「おあいにく。あたし、自分より強い男が好きなの」
「お前より強い奴なんて、いるのか」
「うん、いるよ」
やだもースゴク顔をしかめている。
マジかーってことですかー?
「その人、あたしが大人になったら、考えてやってもいい、だって。ねーもークールでしょカッコイイでしょ惚れちゃうでしょモーサイコーなのよー!」
「郁ちゃん、郁ちゃん……」
ん-なによもーコイバナさいこーなのにー
「相手の人、引いてるから、止めてあげて」
そーなの?
……本当に、そうみたい。




