34.勝った方が全額総取りでいいよね?
教会に近づくと、なんか、不穏な空気。
スラムの住民たちが、崩れた塀によじ登って中を覗き込んでる。
こっちに気づいて、あわてて逃げ出した。
門から、人相の悪そうな男が顔を出し、すぐに引っ込んだ。中に報告に行ったらしい。
「なに?」
「なんだ?」
子供たちも気が付いたようだ。荷馬車から降りて、不安げに様子を伺っている。
「みーよ?」
「多分、この辺を仕切っているゴロツキの一団。みかじめ料とかを徴収してるの」
へーそーなんだ。みかじめ料ねぇ。
「郁ちゃん、悪い顔してるよ?」
「そーおー?」
どうも、隠せていないらしい。
ついつい、鼻歌まで出ちゃうなー
そのまま、あたしたちは門をくぐった。
建物の外にある、ちょっとした広場の真ん中に、院長先生と子供たちが固まっている。
ん-固められている、だねぇ。周囲に見張りの男どもが3人。そのうちの一人がリーダーだねえ。
建物の周囲を見張っているのが5人。あ、リーダーの元に集まってきた。あたしたちを待ってたのね?
全部で8人か。少ないなー
ただ。
院長先生、顔が腫れてる。叩かれたんだねぇ。
子供たちも泣きそうな顔で、先生にすがっている。守ってあげてたんだねぇ。
スラムの住民たちは敷地の外で、怖さ半分、興味半分で見守っている。なんにもしないんだねぇ。ま、それはいっか。君らには関係ないもんね。
「よお、景気良さそうじゃねえか。俺たちにも分けてくれよ」
リーダーの男が、例によって虚勢を張る。
「なんてことしやがる!」
「先生になにするのよ!」
おっと、飛び出そうとする子供たちの頭を捕まえる。元気はいいけど、ダメだよ君たち。
あれは、あたしの、え・も・のっ!
まあ、そっちの口上も聞いてあげないとね。観客が盛り上がらないじゃないのさ。
子供たちをみーよに預け、一歩前にでる。
「たっぷりと、分けてあげるよ。もう嫌だって言う位、存分にね」
「へー威勢がいいな。じゃあ、こいつらはどうなっても構わないってわけかい?」
部下の男たちが、木の棒で威嚇する。院長や小さな子供たちを滅多打ちにするぞ、と脅してるのかな?
なにやってんのーヤルなら縛ってナイフを首元にでしょ?
まるで分ってないなー
ま、いいか。付き合ってあげよう。
「それが掛け金ね? あたしは……」
みーよに手を出すと、心得たように懐から金貨袋を出してくれた。
左手で持ち上げ、金貨をこぼれさせて、右手で受け止める。
「これで足りる?」
「へぇ、この婆さん、いくら痛めつけても、お金はお前たちに全部預けたと言って聞かないんだよな。そうか、本当だったんだ」
あーあ、そんな抵抗しなくても、さっさと差し出しちゃえば良かったのにね。
ま、そうもいかないか。
がめつそうだもんね、院長センセ。
あたしらが預かったお金は、ほんの一部。残りはどこに隠してんだろうね?
ま、いっか。
「んじゃ、交渉成立いいかな。勝った方が全額総取りでいいよね?」
「なに勝手に決めてやがる。いいからとっととソイツを寄こせ」
無視して、みーよに戻した。
「全部殺っていいの?」
「ん-教会内で人殺しは困るわね。血も流して欲しくないな。でも……」
「ん?」
みーよの手が、震えている。
恐怖じゃない、怒りの震えだ。
「それ以外ならなんでもいいよ。強盗強姦強殺は、街の外でも中でも縛り首にしてさらし者にするのが相場。ただ、スラムは治安適用外。ここは無法地帯なのよ」
へーそーなんだ、なんでもありなんだ―
ただ、教会の敷地内で殺しと流血はダメなのね。おっけ―
老人子供には無敵、なにやってもいいとか思っているバカは、悪鬼と同じ。
アギト・ナイフを抜かいだけ、まだマシと思ってよね。
みーよが祈りの姿勢を取り、杖を掲げる。
「光の女神アーリューシャインよ、あなたの信徒たちと、我が付き人を護り給え!」
光の障壁が、みーよたちと荷車を包んだ。
男の子に「あたしがいない間、君がみんなを守ってね」と言っておく。
ビックリした顔にウインクを一つくれると、あたしは光の障壁を出た。




