33.この世界では生卵は禁止だよね、きっと
市場まで、あたしとみーよ、年長組の男の子と女の子で向かうことになる。
男の子は、ちょっと小さめの荷車を引いてきた。ん-大八車だったっけ、観たことあるけど、しゃべってみたら共通語では「荷車」に翻訳された。
ま、そっちの方がメジャーだよね。大八車ってナニ? とか聞かれそう。
言葉は、要は通じればいいんだから、分かりやすくしますよ、というのがコモンの理念なんだろうね。あたしみたいに変な知識で凝り固まってても、優しくほぐしちゃいますね、という言語なのね。便利なものね。
スラムの連中は、遠目で見ているけど、今の所、何もしてこない。
まあ、あんだけ脅しとけばね。
みーよは、ここまで送ってくれた御者の中年男と息子さんにも用事があるらしい。
スラムを抜け、大通りの活気ある広場の中で、すぐに見つける事ができた。
向こうもあたしたちをすぐに見つけてくれて、にこやかに丁寧に挨拶されちゃった。やっぱりコヤツ、スキないね。
持ってきた商品は、あらかた売り終わったみたい。エールが1樽、まるっと残っていて、売れなければなじみの酒場に卸すつもりだったようなので、こちらで買い取ることにする。
木の実も樽ごと売れたんだけど、なんたって卵が大人気で、真っ先に売れてしまうのだそうです。
10個で1セットを10ケースほど持ってきて、なんと1個につき小銀貨1枚!
現代では1個千円! 10セットで10万円じゃん。
へえ、貴重品なんだね。
旧時代では滋養強壮の薬替わりとして珍重されたらしい卵。
大量の鶏を飼うようになって、値段が下がったけど、栄養は変わらないので、食べられることがありがたいことだと思うのよね。
あたしも卵は大好きよ。現代ではファームプラントの無菌室で衛生的に生産されているわ。
ただ、お隣のシリウスコロニーでは、残酷だとか言う理由で卵は生産されていない。ん-よくわからん。
あ、そっか、この世界では生卵は禁止だよね、きっと。
なんか、菌が付着するんだとかしないんだとか。
だから、生で食べられるのが珍しいはずというか、絶対にやらないはず。
ん-マヨネーズも造れないじゃない。あれ、生卵と酢と油、塩をすっごくかき回して作るんでしょ?
異世界に持ち込む珍しい大人気調味料ナンバーワンなのにねぇ。ダメだね。
……ん?
炎上地雷を踏んだ音がしたけど、気のせいだよね?
エールの樽は、多分36リットル、2斗樽だと思う。樽の重さも含めると約40キロ。大の男の人が何とか持ち上げて運べる位だね。
冒険者ギルドで出されたジョッキは、そーだね、300ミリリットル程度。1杯銅貨2枚で、1樽で120杯分。
1樽で銅貨240枚分。大銀貨2.4枚分だね。
今回は3樽の売上げだから、大銀貨7.2枚の商売だね。
かなり安いと感じるけど、水代わりに飲むと思えば、そんなもんかもしれない。主食の黒パンも銅貨2枚で買えるそうなので、材料費は同じくらいなのかもね。
荷馬車で運べる重さを考えると、結構目いっぱい頑張ってるお仕事だと思う。ついでにあたしたちまで乗っけてくれるだなんて、割と親切すぎるとも思う。
御者の中年男、見た目より相当な凄腕なのかもしんない。一目置いてるけど、予想以上なのかもねー
ん? なんでお前がカネ勘定や重量を気にするんだって?
あーマッチメーカーで、機体に搭載できる武装の重量や、手持ち資金でどれだけ買えるのか価格を計算するのは、ごく当たり前のことだからよ?
なによ文句でもあんの?
……誰に言ってんだアタシ。
市場を巡って、それこそ木の実の入った樽や、固く焼きしめられたパンを箱ごとや、腸詰めソーセージや干し肉や、漬物っぽい樽や(中身が分からん。普通に食べられる保存食らしい)、小麦や大麦の詰まった樽を荷車ぎっしりに買い込んだ。
生の果物なんかも結構なぜいたく品らしいんだけど、遠慮なくたくさん購入した。余ったら干すかオリーブ油漬けにできるんだって。
通りに面している、建物の1階に組み込まれている店舗は、高級品を扱っている。院長先生が好きだという、そしてここ数年は口にしていないというワインやチーズやなんとかのオリーブ漬け、ついでにオリーブ油と塩を大量に買い込んだ。
荷車は子供たちが番をしてくれているので、とりあえず安心。市場と違って店内には持ち込めないからね。
一通り買い終わって、屋台に出ている串焼きとやらを試してみる。子供たちは見たことはあっても、食べたことはないそうな。
ん-鳥の串焼きだね。野鳥、多分ハトじゃないかとは思う。
他にも色々あって、小鳥の串焼きもあった。
お値段は銅貨5枚。高いね。2本で小銀貨1枚。ちゃんとした1食分のお値段だね。確か干し肉を戻したスープも同じ値段だったと思う。
どうも、肉は貴重品で高めらしい。パンやエールみたいな小麦、大麦製品は比較的安いみたいね。そう考えると、串焼きは安くて手軽と思えてくる。
値段を知っている子供たちは遠慮してたけど、みんなの分もお土産に買うから、というと納得して食べ始めた。そして、ほっぺたが落ちるほど美味しいらしい。
あたしたちも食べてみたけど、あたしはちょっと物足りない。味付けが塩だけなのはしょうがないけど、焼き加減にプロとしての心意気が足りない気がする。
みーよは美味しそうに頬張っていた。こっちの世界の人になったみーよにとっては、結構な御馳走なのかもしれないね。
預かってきたお金は結構使ったけど、教会にいる全員が1ヶ月は十分に食べていける量を買えたらしい。
こんなに買い物するのは初めてだ、見たことがないと、年相応に喜んでいる中学生(?)コンビ。冷静さが売りの女の子も、格好つけの男の子も、なんか大はしゃぎだ。
さすがに荷車が重そうなので、あたしが引っ張ってあげた。
最初は遠慮して、自分の仕事なんだと言い張って一緒に引こうとしていた男の子も、いつのまにか女の子といっしょに荷車の後ろに乗っかって仲良くおしゃべりしている。いいね、青春だねぇ。
みーよと並んで教会に戻る最中、物欲しげなスラムの住民の視線を感じまくった。でも、絶対に手出しはしてこない。よしよし、よく躾けられているねぇ。




