30.シスターマム
スラムの建物に混ざって、その建物はあった。
スラムにふさわしく、塀も壁も所々崩れて、ボロボロだった。
元々は白かったんだと思うけど、すっかりくすんだ灰色の建物。
母屋に当たる教会部分と、同じ位の大きさの住居部分がL字に組み合わさっている。平屋で、屋根はなく、裏にも屋上に上がれる階段でもありそう。
建物の横に、ちょっとした広場みたいな空間もあるけど、きちんとは使われていないみたいね。
塀に門などはなく、だれでも素通り出来そう。
教会の入口の上には、壊れかけた紋章がぶら下がっている。みーよの杖の先端の飾りと同じ意匠だ。目立つところにあるんだし、修理しなよー
外に人の気配は、ない。
中に、誰かいるのかな?
みーよは、ためらいなく敷地の中に入り、教会の扉を開けた。
中は、思ったより小ぎれいに整理されてた。
縦に長い、天井がちょっと高めの室内に、4人掛けのベンチが左右に10列。
中央に、高さ3メートル位の女神像。手前に段差があり、少しだけ高くなっている。
その前に跪いていた、シスター服? をきた老婆になる一歩手前位の年齢の女性が、あたしたちに気づいて振り向いた。
みーよより小柄で痩せている。
白いワンピースの上に、紺の外衣をかぶって、帯で締めている。
頭には同色のベール。肩に垂れていて、髪を完全に隠している。
「シスターマム、ただいま戻りました」
「ミヨ、かい……?」
あれ? なんか怒ってる?
結構な速足で、こっちにくる。
みーよのチョコチョコ歩きに近い。
そういう歩き方なんだろーか? でもあんまり可愛くない。
あ、敵意。
あたしはスッとみーよの前に出る。
でも、あたしのことが目に入っていないね婆ちゃんもどき。
いきなみーよに平手打ちしようとしたんで、はいストップ、とばかりに片手で打ち払った。
この世界の人、こんなんばっかだなー
「な、なにを」
「それはこっちのセリフ。いきなりなんなの?」
非力。警戒するのもなんだかなーと思うけど。
でも、みーよみたいに聖女の力を振りかざしてーみたいな可能性が無くもない。
あたし、この世界の事あんまり知らないし。油断は禁物だね。
「ミヨ、この無礼者はなんなんです!」
「シスターマム、わたしの……付き人です」
少し困った顔の、みーよ。
「誰?」
いきなりイキり立つ老婆もどきは無視して(でも警戒はしてるよ)、みーよに尋ねる。
「わたしがこの世界に召喚された時から、親切にして貰ってる、この教会の、ん-管理者というか、院長で、わたしの先生で、みんなのお母さんで、シスターなの」
肩書きが多いね。その割には外側の管理が行き届いていないみたいだけどね。
「いきなり引っぱたこうとか、ちょっと頭がオカシイ人?」
聞くと、ジトッと睨まれる。
え? 自分の事を言ってるでしょ? と顔に書いてあるけど。
あたしはそんなことないよ?
ちゃんと法律も守ってるし、相手の了承も得ているよ?
悪いのは相手。あたしじゃないもーん。
「多分、冒険者ギルドから、わたしが死亡したと連絡が来ていると思う。死んだはずのわたしが来たから、動揺しているんだと思うの。
……先生、生きて戻ってきました。先生の教えのおかげです」
へーホントにみーよの先生なんだ。
でもねぇ、人としてどーなの、その態度?
目が相変わらずランランと冴えてるけど、それでも少し、興奮が収まってきたみたい。
だけど、その分、あたしのことを胡散臭いな、誰だコイツ、といった目で見ている。
「聖女ミヨ、この方は誰です? 報告しなさい」
目線がみーよの方に向き、情報収集というか、直接聞いてきた。
「わたしの……付き人、イクミです」
「付き人に女を選ぶとは……あなたには、いつもガッカリさせられます」
おおげさに、ため息。
ん-頭が凝り固まったお方かな?
「でも、生きて帰って来たことは評価できます。冒険者ギルドに報告は?」
「先ほど、済ませてきました」
「よろしい。では、成果を詳しく伺いましょう。そこの残念なのも、一緒に来なさい。はぁ……ホントに困った娘」
またため息。
残念なのは、あたしじゃなくてアンタの方でしょ?
なんなのコイツ?
みーよ、コイツ殴っていい?
あ、睨まれた。テヘ。




