29.ん-ここって、スラム?
みーよは確かな足取りで、かなりの速足で歩いている。
大通りから離れて、建物が2階建て、平屋、ところどころ崩れた塀や壊れた屋根が見受けられる地区へ。
ん-ここって、スラム?
住民が急にみすぼらしくなり、やせ細ってるのしかいなくなって、飢えてぎらついた視線であたしたちを見つめてくる。
地面は舗装ではなく、ただの土を踏み固めただけ。
「セ、聖女様、どうかお恵みを……」
脇から急に、老婆が飛び出してきて道をふさぐ。
「ごめんなさい、急いでいるので」
スルっとかわすみーよ。
「どうかー」
老婆がみーよを捕まえようとしたので、後ろから手刀で頭を打つ。
「急ぎって言ってるでしょ、シツコイよ」
「な、なにを……」
振り向いて、あたしを見て、けげんな顔をする老婆。
「郁ちゃん、構っちゃダメ」
「だってさ」
確かにね。こんなの相手になんかしたくもない。
「お恵みをー」
老婆の叫びに。
周囲からワラワラと、似たようなのが湧いてきた!
「なに、これ」
「あたしたちがお金持ってるって知ってるのよ」
うわぁ、そういうことかー
メンドクサイなー
「潰したらダメなんでしょ?」
こういうのは、あんまり気乗りもしないけど。
「そうね。まあ、ダメといえばダメだけどね」
あれ?
みーよも、別の意味で気乗りしないのね。
「壊さなきゃいいんでしょ?」
「そりゃね」
とか言ってる間に、すっかり囲まれた。
ん-ゾンビの群れに取り囲まれた気分。そういうホラー映画、パパと観たことあるよ。
ま、こっちは全員生きてるけどね。
「お恵みをー」
「何か下さいー」
「聖女様―」
なんかもう、スゴイね。生きる執念というか、たくましさとでもいうか。
「蹴散らすなら、そーするけど?」
「ん-それもねぇ」
可哀想?
んーあたしはあんまり思わないけど、聖女であるみーよは、そうもいかないのかなぁ。
とりあえず、傷つけない方向で。
あー冒険者ギルドの連中は、ある意味楽だったなぁ。
大きく息を吸い、みーよに合図。
杖を肩にかけて、耳をふさいでくれた。
その杖をさえ奪おうとするゾンビ、じゃないや、スラム住民。
さすがに蹴り飛ばしてやったら、ヒエェとか言ってソソクサと逃げて行った。
でも、他の連中は逃げていかない。あたしたちを取り囲んで次々に手を差し出してくる。
あっそ。そういうつもりなら、こっちも考えがあるよ。
気合を入れて、雄たけびを上げる。
「こぉおらああああああぁあああっ!」
地面が震えた気がするのは、さすがに気のせいね。
空気が震えた気がするのは、全く持ってその通り。
密集して取り囲んでいた連中が、一斉に蜘蛛の子でも散らすようにバラけていった。
「す、すごい声ね……」
みーよが一番ビックリしてるんだけど。
もう一回、耳を塞いで貰った。
「聖女様に無礼な態度を取る奴は、あたしが許さない。分かったかテメエらぁ!」
もう一声、念押しで叫んでおいた。
住民達は物陰に隠れて、コッチの様子を伺ってるのが分かる。
まだ、念押しが足りなさそうね。
「返事はぁ!」
念には念を入れて、返事待ち。
誰も、何も言わない。
あっそ、無視するんだ。
軽くダッシュ、物陰に隠れていた老婆をひっ捕まえた。
最初に道を塞いだヤツね。目星はツケといてんのよ。
なんかヒイヒイ言ってるのを無視して軽々と持ち上げ、槍でもシゴくみたいな感じで回転させてやる。
ヒェエとかなんとか言ってたんで、放り投げるのは止めてあげる。
ゆっくり降ろして、顔を両手で掴んだ。
「アンタ、見せしめ。さっきの返事は? 返答次第では投げ飛ばす」
「ひえ、は、はいぃい」
分かればヨロシイ。
「文句があるなら掛かってきなよ。ホント、どいつもこいつもバカばっかりなんだから」
大げさに地面を何度か蹴りつけ、威圧してやる。
こんだけやれば、分かるでしょ。誰を相手にしてるのか、を。
きれいにスッキリした道を、あたしとみーよは教会へと向かった。
もう、誰も邪魔するものはいなかった。




