270.ってか、コイツ、名前あるんだ
今日はもう、巡礼はしなくてもいいと言われて。
思いがけず、時間が空いてしまった。
守護結石の正規守護者が住まうこの部屋は、みーよが当面の間、聖域をかけて自分の管轄下におくのだそうで、その準備をしていた。
なので、シャワールームやコーヒーセットはそのまま使えるのだそうです。
なので、部屋を管理する執事さんやメイドさんが、大層感動しておりました。
ついでにいうと、すっかりキレイになった幼女シーチャンのことも気に入られたようで、心を込めてお世話します、いえ、したいです! といって張り切ってますね。
その幼女と一緒に、守護結石の間へ向かうみーよ。
代理守護者の手続きを行うみたいね。
幼女の帽子に、木の枝で出来た冠が。
白くて短いチョッキが。
杖の先端に、三本の回転するリングと小さく光る光体が。
それぞれ、授けられた。
シーチャン、元々は出来る子だったのに、周囲があんまりにもダメだしするから、自分は出来ない子だと思い込んでいたらしい。
なので、重要な任務を任されて、なんか張り切ってるね。
領主代理の奥さんと娘二人(10歳と7歳)もやってきた。
様子を見てたけど、どうやら仲良くやれそうだね。
みーよと一緒に、地下の、青年の部屋に行ってみる。
青年、なんかの本を読んでいた。本、あるんだね。
明日、撤収だって。聞いてた?
さっき聞いた。お前らはどうすんの?
オラクルに帰るよ?
一緒に行ってもイイ?
何しに?
人間の事を、もっと学びたい。
自分の国に帰って勉強しなよ?
いや、人間というか、お前の事をもっと知りたい。
あたし? なんで?
俺さ、お前に、俺の仔を産んで貰いたいんだ。
悪びれもせず、真顔でそんなことを言い出す青年竜。
「なんで、あたしが、お前の子供を産まなきゃなんないの?」
一応、聞いておく。ホントは問答無用でぶん殴りたいけど。
「お前、とても丈夫そうだから」
「それが理由?」
「竜の仔を産む女は、丈夫じゃないと死んでしまうからな」
「もう一回聞くけど、それが理由でいいのね?」
なんで、という顔をされた。
お付きらしいメイドさんが、避難を始める。
みーよがため息をついて、あたしを留める。
「メルセナ様。人族の女性の口説き文句にしては、あまりに稚拙か、と思われます」
「そ、そうなのか?」
ってか、コイツ、名前あるんだ。
「竜人様は皇龍が決めたお相手と寄り添うもの、と伺っております。わたくしの付き人と関係を持つのは、相応しいことではないように思えますが」
「いや、皇龍の命には従う。だが、他に仔を成してはならぬとは命じられていないぞ」
……それって、浮気すんのは構わないってこと?
「メルセナ様のつがいとなられる方が、気を悪くされるように思えますが」
「そのような事はないだろう。メスはいつでも、強いオスに惹かれるものだ」
みーよが振り向いて、お手上げのポーズを取った。
軽く、手が震えている。お怒りのようですね。
分かるよ。実はあたしもなの。
「女神さまの祝福、必要?」
「いや、こんなヤツに使うの、もったいないわ」
アギト・ナイフで切り刻んでやりたいけど、そこまでするのは大人げないよね。
「あたし、自分より弱い男はイヤなの。言ったっけ?」
「俺は弱くないぞ?」
「じゃ、証明してみせてよ」
もう、あたしの間合いだけどね。
本をたたんで、立ち上がる青年。
あたしより縦も横も一回り大きいけど。
怖さは全く感じない。一回負かしてるしね。
「ここでやる?」
「部屋のモノを壊すのは良くないと教わった」
「いい躾だね。外に出な」




