269.そのまま頭を撫でてあげる
会議はこれで終わりかな、と思ったら。
肝心なのはここかららしい。
近日中に、騎士団はポートビリアを撤収する。
拙者の後任の領主を決めておきたい。
代理職として任命しておくので、引継ぎも速やかに行えるようにしておく。
防衛隊長ハンドゥ、引き受けてくれるか?
他人事のように聞いていた防衛隊長、急に振られて跳ね起きた。
へ、お、俺?
引き受けて貰えぬか?
い、いや、なんで俺?
オーク軍の襲撃に際して、逃げること無く軍を率いて戦い抜いた功績は、領主の地位に相応しいと思えるが?
いや、他に誰かいるでしょ?
サーリット、じっと防衛隊長を見つめる。
拙者たちは、他国の人間故、詳しくは知らぬ。
だが、ここ何日か代理の領主として任に就きながら、様々な者たちに話を聞いてきた。
拙者は、貴殿こそふさわしいと考える。
い、いや、でも……
領主の資質とは、血筋ではないぞ。
それも重要ではあるが、誰しもが領主に相応しいと認めることにあるのではないか?
俺一人で、そんな責任を果たせるはずがない。
誰も一人でとは言わぬ。拙者も部下の助けがなければ、こんなことは出来ぬ。会計とか、計算とか、配属とか、面倒くさくてかなわん。リカルドに丸投げしておるぞ。
ですなぁ、と相槌を打つ太髭。やっぱり丸投げなんだね。
エンダナ殿、カントス殿、いかが思われるか?
賛成です。細かい行政業務は、私でもなんとかなります。喜んでお仕えいたしますよ。
賛成だな。領主は、この都市の出身者がやはり相応しい。我が身可愛さに逃げ出すようなお飾りの貴族 は、信用できん。
お前らなぁ、他人事だと思って……
頭を抱える防衛隊長を、まさに他人事のようにニヤニヤしながら見つめる高官たち。
ぼ、防衛隊長の任務は、どうなるんですか。
知らぬ。貴殿が領主になるのだから、貴殿で決めればよい。
う……
逃げ道を塞がれたね。まあ、諦めるんだね。
しゅ、守護結石の守護者はどうしたら……?
お、こっちに話が飛んできた。
それも、貴殿が決める事だ。
そう言われて、防衛隊長から領主にさせられようとしている男が、みーよを見る。んと、名前はハンドウ、じゃない、なんだっけなぁ。
「隷属の首輪との契約は“ポートビリアの領主”になっておりますから、命じられれば守護結石の守護の任を続ける事になります。しかし……」
みーよは冷静に、領主代理を見つめ返す。
「この首輪の所有者はハンドゥ様では御座いませんので、サーリット様が領主の座を降りられる時点で、隷属の効力は無くなりますわね?」
「その通りだ。その上で、どうするかを決めるがよい」
サーリットに言われて、困った顔をする領主代理のハンドゥ。
「こまってるの?」
幼女、あたしの膝から飛び降りた。
とことこ歩いて行って、ハンドゥの所へ。
「こまってる?」
「……お前かぁ」
本当に、困った顔の男。
「確かに、困ってる。頼めるか」
「いーよー」
ハンドゥに抱き上げられて、キャッキャと喜ぶ幼女。
子供だもんね。そういうの、必要だよね。
ハンドゥの首筋に腕を回して「たすけてあげるよー」と無邪気に宣言してくれた。
「お前の所の奥さんや娘二人も呼び寄せれば良かろう」
「奥さん、元は乳母さんでしたよね。小さい子の面倒も見てくれると思いますよ」
商工会会長や行政長官も、どうやら賛成みたいだね。
「決まりだな。聖女殿、彼女に守護結石の守護者代理の地位を」
「承知致しました」
サーリット領主の申し出に、みーよが微笑んで応えた。
「よし。我が皇龍公国準騎士団は、明日の朝、ポートビリアより撤収し、故国に帰還する」
全員、立ち上がり、サーリット領主に敬礼。
そのままサーリットが、みーよに近づいていった。
「ミヨ殿、貴殿の勇敢なる働きに、敬意と感謝を」
そのまま、みーよの首輪に、そっと手を触れる。
「“解放する”」
みーよの首から、隷属の首輪が抜け落ちて、サーリットの手に収まった。
「あ、ありがとう、ございます……」
「礼をいうのはこちらの方だ。貴殿がいなければ、ここまで上手くは回らなかった」
サーリットも、テイルも、大隊長たちも、ポートビリアの高官たちも、みんな、みーよに深々と頭を下げた。
なによ、みーよ、泣いてるの?
あたしはみーよの頭を抱えて、泣き顔をみんなに見られないようにした。
そのまま頭を撫でてあげる。
お疲れ様。よく頑張ったね。よしよし。




