26.マルチ・ヒール
でも、何人か残ってるね。
やるねー。
「君ら、よくかわせたわね?」
「……僕たちは、後衛職なので、荒事には加わりません」
「前衛が戦っている間は、邪魔にならないところに隠れるのは当たり前なので」
へーそーなんだ。
ま、逆らわないなら、別にいいよ、それで。
でも、無罪では済まないよね?
「あんたらは、聖女の報酬を横取りするよーな連中の事を、どー思うの?」
「正直、関わりたくないですけど」
「まあ、自分の受け分が増えるかな、とは思います」
「俺たちも、結構横取りされるんですけどね」
「上手く付き合えば、それなりの稼ぎになるんで、しょうがないかな、とは」
ふーん。まー自分の事で精一杯だよね。それは、分からなくもないかな。
弱いのは弱いなりに、頑張ってるんだねぇ。
ま、そういうことなら、見逃してやるかー
あたし、弱い者いじめはキライだしね。
「いーくーちゃーん!」
「ハ、ハイ!」
げ、センセーじゃないや、みーよだ。
ちょっとふざけただけよ? 悪気はないのよ? 悪いのはあっちの方ヨ?
「やりすぎですっ! めっ!」
厳しく睨まれちゃった。テヘ。
みーよは、玄関口でガタガタ震えながら、事を見守っていた野良聖女ズに声を掛けた。
「みんな、手分けして、治療してあげて」
「えーこいつらの治療なんか、イヤですわー」
「えーあたしたちのせいじゃないんだけどー」
「えーミヨの付き人のせいなのーそーなのー」
みーよは、そう言われると分かってたみたい。
「一人治すごとに、大銀貨1枚」
三人娘の目が、ギラっと輝いた!
「どいてどいてですわー」
「ささ、治療しますけどー」
「あーダメよこの方はわたしがお治しするですわー」
「あーラクなの取ったなのー」
「こっちが先なんですけどー」
「こっちが先なのー」
みーよは呆れた顔で、野良ちゃんたちに言い放った。
「ただし、治された本人が納得しないと、お金は払えませんからね」
グッと固まる彼女たち。
ま、そりゃそーだね。擦り傷程度を治してぼろもうけ、というわけには行かないよね。
そーなると、自然に重傷者に目が行くみたい。適度にばらけて、カラフル聖女たちが治療に専念し始める。
みーよも、前かがみの祈りの姿勢から、何ごとかつぶやいている。
杖が強く光り輝き、フロア全体を照らし輝いた。
「え、マルチ・ヒール⁈」
「ミヨ、使えるようになったの??」
「わたしたちと同列じゃなかったの?」
野良聖女たちが、自分の治療の手を止めて、ビックリしている。
あたしも、結構ビックリした。
みーよ、あんた、そんなこともできるんだね。
男たちのうめき声や苦しむ声が静まっていき、怪我が癒えたことに感動している。さすが、聖女様だねぇ。
でも、癒されたら、そんな感謝なんかどーでも良くなって、治療代は払わないとかいう、頭が残念な連中なんだね?
「大きな怪我は治せないから、個別に当たるしかないのよ。ホント、やりすぎもいい所よ」
叱られちゃった。テヘ。
まぁ、あたしにとってみーよは、AKを修理してくれる源さんみたいなもんかもね。こっちは人間だけどねー
どっちも、大好きよ!
んで、聖女たちが治療している間に、あたしはカウンターに向かう。
「責任はあんたら持ちって言ったよね? 分かってんでしょうね?」
言外に、難癖付けたら今度はカウンターの中で暴れてやるぞ、と匂わせてやる。
今度こそ、完全に怯え切った受付嬢。
固まってる場合じゃないんだゾ、トロ子ちゃん。
「は、は、はい……」
「じゃあ、鑑定早くして。手分けしてやりな。お前ら、ホントにトロいんだから」
「は、は、はい!」
他の受付嬢も、すくみ上っている。
気づくと、受付の人数が倍に増えている。交代制か、休憩に入っていたのが、騒ぎに気付いてフロントに出て来たらしい。
奥の方にも職員らしい男たちが5、6人いるみたい。(一人、気配は感じるけど姿が見えないんで、カウントしていいか迷うわ)
暇そうにしてた受付の割に、中にはそれなりの人数がいるのね。
こいつら、中で何の仕事してるのかしらん?
ま、あたしには関係ないか。
「ほら、そこの治療終わった連中! さっさとテーブル、イスを元に戻す! とっととしないと、ヤキ入れ直すよ!」
カウンターを急かした後は、フロアでぶっ倒れてた連中をこき使う。
人としてオカシクなってる奴らを、元の真人間に戻す。
これこそ、最強番長のお仕事なのよね。
「は、は、はい!」
さすがに懲りたらしい。連中、文句も言わずにお片付けを始めた。
お前がやったんだろうとか言い出す、気骨のある奴はいないかなぁ、と期待したけど、だーれもいない。
ホント、ショボい連中だなぁ。
あ、一人、いた。
ちょいチビが、3回も叩きのめされてんのに、あたしを睨んでる。
やるじゃん。
緑の法服ちゃんに顔を治されたらしく、鼻血の跡も顔の腫れも残ってない。
デカブツを放り投げといたけど、そっちの怪我も、大したことなかったのか、癒されたのか、立ち上がれそうだね。
そっかそっか、 ヨシヨシ。もう一回ぶっ壊してあげるね。
ノッシノッシと近づくあたしに、ちょいチビは視線を逸らさない。
「お、俺は、間違ってなんかいないぞ!」
「ウンウン、そーだねー」
誰もそんなこと言ってないよ?
ただ、あたしが頭に来てるだけだから。そんだけだから。
「ま、待ってくれ」
デカブツが立ちはだかったかと思うと、頭を下げた。
「俺たちの負けだ。勘弁してくれ」
「おい!」
「ソッチはそー言ってるけど?」
どっちにしても、許す許さないはあたしが決める事じゃない。
あたしに生意気な態度を取る限り、何度でも分かるまで躾けるだけだし。
許す許さないは、みーよが決めることだから。
そしてあたしは、みーよにそういう態度を取る連中は絶対に許さないだけ。
ただ、そんだけ。
あたしはその辺、寛大だし、関係も無いんだよー分かるかな?
周囲も、まだヤンのかよ、といった目で見ている。
まーアンタらも、割と同罪だけどね。
コイツも、引くに引けない、んだろうね。
まーあたしも引く気はないんで、トコトンやろうよ?
こういう世界だもん、あるんでしょ?
決闘。
定番だもんね。
あたしにとって、アンタはもう、悪鬼と同じ。
そ、もう、人間じゃ無い。そんな風には見えない。
だから。
仁義に則って、アギト・ナイフで美味しく食べてあげるよ?
ちゃんと、とどめまでキレイに刺してあげるからね。




