254.「代金は、あたしが決める。それなら文句ないでしょ?」
「私はナイフの専門家ではない」
太髭リカルドさんのお言葉。
「だが、専門家を紹介することはできる」
それでいいよ。
本館の二階まで降りてきて、吹き抜けである一階をぐるっと見渡し、一人の男を見つけて、大きな声で呼ばわった。
「おい、この方をヘムヘルーダの所に連れて行け」
男が理解したのか、手を挙げたので、礼を言って飛び降りようとして……やめて、階段を降りた。危なかった。変に目立つところだった。
大隊長が直接案内出来なくてスイマセン、と男の兵士さんが謝ってくる。
あの人偏屈なんで、大隊長、あまり直に会いたくないらしいんですよ。
へえ、そうなんだ。
でもさ、お宅らの大隊長さんも、結構な偏屈だとは思うよ?
言わないけど、さ。
で、この兵士さんは、その偏屈鍛冶屋とは仲が悪くないらしい。
そのまま館の外へ。
内郭も抜けて、オークたちの被害にあった下町区画へ。
んと、その鍛冶屋、軍の駐屯地にいるんじゃないの?
元の鍛冶屋が被害に遭って追い出された工房なので、ここがいいんだそうです。
……そうなんですか。わざわざ?
城にも鍛冶場はあったよね?
結構大きかったよ?
いや、そこでいいかなと思ったんだけどさ。どうも、ポートビリアの鍛冶職人たちが専用で使っているみたいではあったんだよね。
鍛冶の腕とか分かんないから、いい機会だと思って何となくサーリットに聞いただけなんだけどね。
なんで、占領軍の鍛冶屋がこんな所で鉄を打ってるの?
こりゃ確かに、偏屈だわぁ。
カンカンと忙しく響く槌の音。
それほど広くもない、所々焼け焦げた跡も見える鍛冶場に、男たちが3人。うち二人は若い。
あっちの、豊かな白髭の親父が、偏屈鍛冶屋ね?
名前なんだっけ、もう忘れた。
「ヘムヘルーダ。客だ」
ああ、そんな名前だったっけ。すぐ忘れそうだけど。
「おう」
こっちにくる。結構デカイ。そしてゴツイ。
ついでに鈍い。自分の重さを持て余してる感じ。
目つきが悪い。眉間にしわが多数。
瞳が銀色。割と珍しいかも。
黒いバンダナがトレードマークかしらん。
あと、髭。すごく豊かだね。顔の半分は髭で出来てるね。
「見せてみろ」
あたしの方は見ない。意識して目線を外しているみたいね。
アギト・ナイフを抜いて、刃を自分に向けて手渡す。
黒バンダナ、なんか、目の色が変わった。
しげしげと眺めて、刀身に映る自分の姿を見つめたり。
グリップの具合を確かめて、持ち替えたり回してみたり。
宝物を夢中になって鑑定しているみたいね。
オラクルにいるあたしのお気に入りの鍛冶屋の持つ真剣さ、鋭さとは、また違うタイプだわ。
「スゴク、いいナイフだ」
「でしょ?」
そこでようやく、あたしの方を見た。
「お前のようだな」
「なにが?」
「鋭く尖っているが、面白い」
「なによそれ」
自分でも何を言っているのか、分からなくなったらしい。
しばらく固まっていたけど。
「優先して仕上げる。明日の朝には仕上げる」
「よろしく。お代は?」
「軍に請求する」
ぼそっというと。
案内してくれた兵士さんが、ちょっと待ってと、止める。
「親父さん、そういうところですよ、ウチの大隊長と揉めるのは」
「……知らん」
「知らんじゃないですよ。こういう事は、最初にちゃんと決めとかないと」
「知らんものは知らん」
騒ぎになったと思ったのか、手を止めて若い男たち、多分、弟子だよね、が、やってくる。
「スイマセン、こっちでちゃんと見守りますから」
はあ。まったくもー。
「代金は、あたしが決める。それなら文句ないでしょ?」
へ、アンタが決めるの?
そんな顔で全員に見られた。
「いつも通ってるオラクルの鍛冶屋では、金貨1枚で研いで貰ってる。あの仕事は、そんだけの価値がある。
アンタが、どこまで出来るのか、ソコと比べて値段を決めるよ。それならいいでしょ?」
「分かった」
お、メラっと燃えたね。ただでさえ悪い目つきが、もっと酷くなったよ。
アギト・ナイフを丁寧にテーブルに置き、少し考えて、奥の部屋に行った。
ほどなく戻ってくる。
「俺の打った中で、最高傑作だ」
突き出されたそれは、ナイフというより、オークどもが好んで使うナタに近い大きさだった。ただ、刃は割と細身。その分長さがある。40センチだね。
振るってみると、かなりバランスがいい感じ。
軽く内側に湾曲していて、先端部が少し太い。
突いたり刺したりができないんで、ちょっと使いにくいかな。
「コイツが仕上がるまで、貸しておいてやる」
ま、借り物なら、いいか。
礼を言って、鍛冶屋を後にした。




