253. これ、何? 取りあえず、話してみるか
元の行政高官たちとの話し合いも終わったらしくて、現役の役職者が集まって会議。
なぜか、守護結石の塔の談話室に集合。
どうもみなさん、コーヒーに釣られているらしい。それにお菓子もつくからね。
ただ、メイドさんたちが執務室と談話室の間を行ったり来たりして忙しそうだね。
で、元の領主さんはやっぱりというか、住民の支持が得られないだろうということで、解任確定、追放決定。
それでも、都市から脱出時に持ち出せなかった蓄財を引き渡すので、都市に置いてもらえないかと打診されたそうな。
うーん、ほとぼりが冷めたら元の地位に戻れるかもしれない、という思惑かかしらん?
サーリットにしてみれば、コイツへの元の支持者もいるにはいるだろうし、寝首をかかれちゃたまんないからね。追放は覆らなかったね。
同じ理由で、ターバン男の元守護者さんも解任決定。ただ、こっちは、守護者補佐の可能性が残っているのと、領主の館住まいではなく、元々の教会に住むので、そんなに迷惑にはならないという理由らしい。
ちなみに信奉する宗教は“幸運”だそうです。
それって、宗派なの?
胡散臭いんだけど?
ま、そういうものに頼りたい人がたくさんいるなら、十分に成立するのだそうです。
防衛隊長は、元々都市から逃げたりせずに、精いっぱいやるべきことをやっているので、そのまま留任。当然だね。名前は、ハンディ、じゃない、ハンデォ、でもない、これ、発音がなんか難しいんだよね。共通語なのに、そんなことってあるんだね。ハンドゥだ。うん、ハンドゥ。
行政長官代行のエンダナは、晴れて正式に行政長官になりました。前任者は前領主様と一緒に逃げ出した口。居残るには居づらいということが分かっているので、前領主様と一緒に追放で構わないとのこと。手に職があるので、他の都市でならやり直しが利く。なんならお世話になった領主様の生活の面倒をしばらく見るつもりでさえあるんだとか。やるじゃん。
で、最後。宮廷魔導士。
何者? って感じだけどね。
オラクルのマクロン閣下と一緒で、顧問的な役割を任じられていたそうです。
宮廷というのはオーバーだと思うけど、他に相応しい呼び名もないというか、前領主様がそう呼んでいたんで、そのまま呼び名が定着したらしい。
まあ、公務員としての魔導士なんだから、宮廷付きでもオカシクはないのかな?
なんで逃げ出したかというと、脱出する領主様の護衛としてなんだそうです。
強制されたとかじゃないけど、あの時は自分の命も惜しかったし、渡りに船かなぁと思ったんだとか。
なので、また同じように雇ってもらえるならそれでいいし、ダメなら別に恨むことでもない。
城下に小さな店を構えているので、どうしても領主の館に住む必要もない。元々は通いだったのだとか。
ちなみに、そこまで魔力は強くないんだって。
どうする?
「無害なら、そのまま居ても、とは思うが」
「素性がなんとも言えないですね」
皇龍公国側の意見。
太髭は、まあいいんじゃないの?
カマキリ男は、あんまりいい顔はしてない。
他の隊長二人は、我関せず。
テイルは、面白そうだから置いておきたい。アンタ、そういう基準を大切にするよね。
ポートビリア側の意見。
防衛隊長のハンドゥ。防衛には役に立たない。というか、役に立っているのを見たことがない。単なる給料泥棒では?
行政長官に正式任命されたエンダナ。そうですね、あまり役には立ちませんよ? どちらかと言えば、反対ですね。
行政高官ではないけど、なぜか必ず顔を出している商工会会長、ぎょろ目のカントス。是非置いて欲しい、ああいう天才は、いつか花を咲かせる。先行投資が必要。損してでも大事にしたい。ただ、自分のカネは出さないけど。オイ。
え、あたしたちにも意見?
会ったことない人に、そんなこと言われてもねえ?
一度会ってるよ、竜人が来たときに、避難していた要人たちの中に紛れてたよ。
そういうのは、会うとは言わないでしょ。
じゃあ、ちゃんと会ってみる?
ほどなく、メイドさんによって連れてこられたのが。
5、6歳くらいの幼女だった。そりゃ分からんわ。
大きすぎる鍔付きの紺色帽子の下から、クセのある赤毛が腰まで伸び放題。ロクな手入れはされていない。
もっさりとした、サイズの合っていない、というか大きすぎる紺のワンピースをダボッと着て。
裸足。うん、裸足。
手には細い木の杖。2か所くらいに小さな枝。小さな葉っぱがそれぞれの枝に2枚ほど生えている。先端は丸く磨かれている。
眠そうな顔。大きな緑の瞳。鼻ぺちゃ。薄い、血色の悪い唇。そばかす。白い肌。不健康そうな細い手足。
見る人が見ようが見まいが、子供のお遊びに見えるよね。そうとしか見えない。
「ドモです。シーチャンでしゅ。仲良くしてくだしゃい」
噛みまくりというか、キチンとしゃべれないらしい。
視線がちゃんと合ってない。ああ、これ、ちゃんと視えてないね。
あたしとみーよは、互いに顔を見合わせた。
これ、何?
取りあえず、話してみるか。
「あたしはイクミ。こっちは聖女のミヨ。分かる?」
「あ、はい、わかりましゅ」
相変わらず視線は彷徨ってる。でも、声は分かるらしい。近寄ってきた。
「シーチャン、マクロン閣下は分かる?」
「マカロンせんせー! わかりましゅ!」
お、元気が出てきたね。マクロンだけどね。マカロンはお菓子だよ?
「あたしらのダチなんだよ」
え、いつからお友達に?
そんなみーよの視線を、あえて無視して。
「おともだち、しゅごい、しゅごいでしゅ!」
シーチャンの反応を観察する。本心から喜んでるように見える。そうにしか見えない。
そして、彼女の奥の気持ちが、何にも分からない。
敵意や殺気は感じない。気持ち悪さもない。
でも、底知れなさは感じるんだよね。この子、ただの幼女じゃないよね。
「シーチャンは、何が得意なの?」
「シーチャンは、シーチャンは、なんにもできないことがとくいなのでしゅ!」
杖を掲げて万歳のポーズ。ううん、手ごわい。
「お店を持ってるんだよね? 何を売っているの?」
「お、お薬とか、薬草とかでしゅ」
へえ、こっちは少し、意識がはっきりしてるね。
ちょっとだけど、キリッとしたよ。
「教えてくれて、ありがとう」
「どしてまして」
ぺこりと頭を下げられた。
どういたしまして、だよね?
まあいいや。
再びメイドさんに連れられて、彼女が去った後で。
「あたしは、面白いと思うけど」
賛成に1票。無害そうだし、面白そうではあるわ。
「わたしは、うーん、悩みますね」
みーよは、決めかねてるみたいね。
「賛成が4人、反対が3人、保留が3人か」
最終決定権を持つサーリット領主が、腕を組んだ。
「確かに、悩ましいな」
だよね。前任の領主は、なんでこんなのを側に置いたんだろうね?
「だが、明確に追放する理由もない。宮廷魔導士として、彼女を任命する」
「御意!」
一度決まれば、皇龍公国側の反応は早いね。
ポートビリア側では、商工会会長のぎょろ目だけが喜んでるね。
「エンダナ殿、それぞれ、手配を頼む。後の各々方は、通常の業務に戻られよ。あ、リカルド、イクミ殿のナイフを見てやってくれ」
「は!」
解散かと思いきや、あたしの面倒までチェック入れてんのね。サーリット、細かい所に気が回るね。
みーよは執務室に戻って、お仕事の続きみたいね。行ってらっしゃい、だってさ。




