252.あ、あたしたち、結構いいコンビって事?
4人で、本館の地下に向かう。
地下牢とは別に、要人の保護施設があるらしい。
一応、鍵付き守衛付きの厳重警戒区域。
でも、普通に人間サイズが通れるだけの通路しかないよ?
あの大きさの生き物が、こんな通路や部屋に入れるわけがないけど?
これが竜人、と言われても、ピンとこない。
だって、普通の青年男性だもん。
ただ、腰巻以外は裸。肉質はまあまま。細マッチョの一歩手前って感じ。
青みがかった、ボサボサの髪。
アーモンド形の瞳。ああ、瞳孔が縦に割れてる辺りは、面影があるかな。
鼻が長く高い。おちょぼ口。
顔色は青みがかっている。体調のせいなのか、元々なのか。
あ、よく見ると、頭の上に寝かせるような感じで、小さな細い角が一対。
一心不乱になんか食べてて、やっとあたしたちに気づいたって所かしらん。
「あ、テメェ、さっきはよくも!」
あたしを見て、立ち上がる青年。ちょっとあたしよりチビだね。
手にした骨付き肉を齧りながら叫ばれてもね。
食べるかしゃべるか、どっちかにしなさいよ。お前はカンタか。
「アンタ、あの竜人なの?」
どう見ても怪物、100歩譲っても恐竜だった、アレと一緒?
ど、どうなってんの??
「竜人は、竜と人との合いの仔であるからな。どちらの姿にも成れるのだよ」
そ、そうなんですか……
ああ、腰巻だけの格好ってことは、竜の姿になると、どうせ破けちゃうから、服がもったいないってことかしらね。
「この地下で竜になると、狭すぎて自身を押し潰すことになるからな」
それで、ここに閉じ込めて、じゃないや、保護してるのね?
「おんなのくせに生意気なんだよ! 乳を揉ませろ!」
ツカツカとこっちに歩いて来たと思ったら、変な事言い出し始めたよ。
あれか、エロハゲと同じか。
ああ、でも、なんかワカル。
コイツも、世界が自分中心で回ってるタイプだね。
そのまま手を伸ばしてきて、あたしのおっぱいを触ろうとしてきたんで。
左手のフラッシュジャブをかまして、そのままリードジャブ。
距離感バッチリ。右ストレートで吹っ飛ばしてやった。
ガラガラガッシャンとテーブルや椅子を巻き込んで、地面にダイブ。
「あ、コイツ、殴って良かったんだっけ?」
「先に聞け」
サーリットに呆れられた。
テイルは笑ってるけどね。
お、起き上がった。頑丈なんだね。竜の仔なんだもんね。
「き、貴様ぁ!」
丈夫なのは結構。手加減はイラナイのね?
キャーキャー避難するお世話係のメイドさんを横目に見ながら、あたしの方からダッシュして接近する。
「アンタ」
左のリードジャブを再び放つ。コイツ、この速さに対応できていない。
「ポートビリアを」
手を振り回してかわそうとしてくるけど。
「狩場にする」
腹が、がら空きだよ。
「つもりだったんだって?」
踏み込んで、渾身のリバーブローを突き刺してやる。
「ぐはぁあ!」
身体が宙に浮くくらいのヤツ。
「どうなの?」
素早く両手を組んで、上からハンマーのように、顔面に叩き込んでやった。
床に叩きつけられ、バウンドする青年。
おまけにサッカーボールキックを、肋骨の辺りに入れておく。
「人間が餌替わり? じゃあ、さしずめ、アンタはあたしのオモチャって所だね」
この程度じゃ、壊れないんでしょ?
テーブルや椅子は、壊れるかもしんないけどさ。
痛いらしい、のたうち回っている青年の、ボサボサの頭を引っ掴んで持ち上げる。
「で、どうなの?」
「ど、どうって……」
アラ、情けないお顔になったわね、ボウヤ。
「アンタ、人間を餌だと思ってるの? どうなの?」
「お、俺は、竜なんだから……」
「じゃ、アンタはあたしのオモチャ決定ね。アンタが死ぬまで遊んであげる」
「いや待て、落ち着け!」
「充分、落ち着いてるよ」
あたしの凄みのある笑顔を見て、これは本気なんだと今更悟った半裸の青年。
「お、おい、助けてくれ……」
後ろのサーリットに助けを求め始めた。
当のサーリットとテイルは、互いを見てニヤニヤしてるだけ。
君ら、性格悪いねぇ。
コイツ、そっち側の人間なんじゃないの?
ほら、助けてぇって言ってるよ?
あ、そうか。
所属が違うというか、単に任務の邪魔しに来てるだけの迷惑者扱いなのか。
「郁ちゃん、その辺にしといてあげて」
あら、お優しいのね、大聖女みーよ様。
つまりコイツ、ただの人喰い爬虫類なんでしょ?
こんなヤツ、殺して皮を剥いでカバンや靴の材料にした方が世の中のためだと思うけど?
「わたくしの付き人に、あまりご無体な事をされませぬよう、お願い申し上げます。宜しいですわね?」
コクコクと怯えた顔で頷く青年。
次は止めないからね、とみーよの顔に書いてあるからね。
丁寧にヒールを掛けてもらって、すっかり大人しくなったね。
よし、教育完了。
「こんなんでも、戦争の抑止力にはなるんでしょ?」
「まあ、そういうことだ。竜人の真価は、侵略に対する防衛力だからな」
へえ、そうなんだ。
「上空から国境付近を監視し、侵入者を目ざとく見つけて一気に襲い掛かる。それは、皇龍公国側の領土だからこそ発揮できることなのだよ」
そういうもんなの?
「皇龍の威光が及ばぬ地域では、竜人は力が半減してしまう。単なる飛竜程度になるな」
「それでもスゴイ力ではあるがな」
テイル卿が後を継ぐ。
「ちなみに隷属の首輪は、元々は人間が竜人を従わせるために用いられていたのだよ」
へえ、そうなんだ。
「竜人には、本来は教育を施さねばならぬが、性格上とても受け入れては貰えぬ個体が大半であるからな」
まあ、そうなんだろうね。そんな風に見えるわ。中身は爬虫類だもんね。
「ただし、人の姿であれば、それほど多くは食べぬし、肉も多くを必要とはしない。普通の竜との大きな違いだな」
ああ、あの大きな体の維持は、確かに大変そうだね。
しかも肉しか食べないとなったら、本当に困るね。
「しかし、竜化した竜人にさえ、臆することなく向かって行くとは、な」
感心してるけどさ、サーリットさん?
「アンタが先に向かって行ったんでしょ?」
「接近して押さえないと、暴れて被害が大きくなるからな」
そりゃ、そうだけどさ。
「そのまま倒しちゃえば良かっ……」
良くないのか。少なくとも、皇龍公国側にとっては。
魔導帝国に対する、かなり有効な抑止力なんだもんね。
そっか、あたし、これは戦闘だよね、出番だよね、と飛び出したけど。
あれ、結構マズかったのか。
「いや、貴殿はそのままで構わぬぞ?」
え、いいの?
って、なんであたしの考えてることが分かるのよ?
あ、顔に書いてあるんですか、そうなんですか。
「拙者には追い足と機動力がないからな。追い込んでもらえるなら、とどめは刺せるし、聖女殿の身も御守護致そう」
あ、あたしたち、結構いいコンビって事?
「ワシらと同じレベルで、しかも気が合う者というのは、そうそう居らぬからな」
テイル卿に、そんな愉快そうに言われてもねぇ。
ん?
レベルで言うなら、アンタはそんなに戦闘に参加してないんじゃないの?
ま、他の事で貢献してるんだろうけどさ。




