251.ホント、人への扱いが丁寧なんだよね、この人
もう一人、というか、もう一組が面会をご希望。
忙しいね。
と思ったら、サーリット領主とテイル副官のコンビだった。
どうも、コーヒー目当てで、サボりに来たらしい。
いや、サボってはいないゾ?
どうだか?
この飲み物、頭が冴えわたるのだ。
執務に必要なのだよ。自分の執務室にも是非置きたいのだが。
付き人への恩寵ですので。
そうであったな。では、ここまで足を運んで飲みに来ることにしよう。
ソファーに深々と腰掛けて、実に美味しそうにコーヒーを飲むサーリット。
貴殿らの所属する教会には、戻らなくて良いのか?
そうしたいのはやまやまなのですけど、こちらの問題を解決する方が先ですので。
元の教会は聖域が掛かっておりますから、当面は問題ないと思われます。
そう言ってもらえると助かる。信頼のおける者が、軍関係しかおらぬのでな。
時に付き人イクミ、何か困っていることはないか。
あたし?
そうねえ、アギト・ナイフを研ぎに出したい。オラクルに腕のいい鍛冶屋がいるんだけど、さすがにアッチに戻って、というのはねぇ。
軍専属の鍛冶屋がいるから、頼んでおこうか?
予備武器も用意しておくぞ。
うわぁ助かるよ。オーク・キングの大矛をコイツでへし折ったんで、多分、刀身がゆがんでると思うんだよね。戻ったらあの鍛冶屋に叱られそうだね。
オーク・キングの大矛を、へし折った?
うん。代わりに自分の右腕も骨折ちゃったけどね。
貴殿、何をやったんだ?
そんな信じられない顔されてもねえ。成り行きだからしょうがないの。
ファイヤーバードアタックは、相手が正面から向かってこられると敵も味方もほぼ回避不可の技だから、しょうがないのよ……なんて言っても通用しないから言わない。
単に、成り行きとだけ、言っておく。
ま、まあ、良い。あとでリカルドの所に行ってくれ。
リカルド……ああ、後方の経理担当隊長ね。太いひげの。
太いひげ……確かにな。名前を覚えるのは苦手か?
顔合わせはしてあったと思ったが。
強い人は覚えるよ。ホントだよ。
……貴殿と話していると、どんどんと話が逸れていくな。
そうかな?
で、本題だが。
居住まいを正して。
「魔導帝国軍は、テオドルの宿営地まで引き下がった。歩兵たちの捕虜は正規軍ではなく、徴募兵や民兵が中心だったので、あまり価値のある取引は出来ないだろう」
「正規兵じゃないの?」
「魔導兵や騎馬隊は正規だがな。魔導帝国自体、そういう兵の徴募を行うのが習慣なのであろう?」
あろうと言われても、ねえ。
ただ、オラクルの兵士は、たしかにそんな感じで、とにかく弱いんだよね。
まあ、まともに給料が出なくて、塩で支払っているんだとか、言ってたね。
「このまま彼らを抱えていても糧食の経費が掛かるし、何もせずに解放しても野盗や山賊になるだけであろう。皇龍公国にも奴隷市場はあるから、船で運んで経費の足しには出来るが、あまり気は進まぬな」
ふーん、敵国の兵士だよ?
ホント、人への扱いが丁寧なんだよね、この人。
「ポートビリアの奴隷市場に流す形で宜しいのでは?」
あら、みーよが結構強い感じで言うねぇ。
「捕虜を奴隷にしちゃうの?」
「そうね。もし彼らが勝利して、ポートビリアに侵攻してきたら、都市の住民が同じことをされるというか……」
ちょっと言いよどんだ、みーよ。
住民が奴隷にされちゃうって事?
「略奪や暴行、強姦や殺人で、都市が闇に染め上がるわね」
あ、そうなんだ。
それって、オークどもと、何にも変わらないんじゃないの?
「元々、徴募で兵士になりたい男たちって、大半はそういうのが目的だからね」
う、うん。
そ、そうなんだ。
そういえば、シュランに兵士にでもなればって言ったら、身分の関係で成れない以前に、兵士自体が嫌いだとか言われた気がする。
そう考えると、正規軍ばかりで統制がきちんと取れていて、都市の住民に乱暴な事をしないこの騎士団って、かなりスゴイんじゃないの?
でもなぁ、兵士になりたいと募集に応じたら、戦争で負けて投降して奴隷にされちゃうのか。なんか、可哀想ではあるね。
まあ、野放しにすると酷い非道いことするんだから、自業自得なのかもしれないけどさ。
「まあ、魔導帝国側に身代金を出させて、そのまま引き取らせるのが一番なのだがな。大聖女殿の意見も、考慮に入れることにしよう」
それと、と、話を変えて。
「新外交官殿には、そのままテオドル村まで再度派遣させている。軍ではなく、都市の再建のための人材や物資を運んでもらうように交渉させる。出来ぬなら、このまま皇龍公国側の都市として運営すると脅させるつもりだ」
へえ。戦争の初戦に勝ったんで、強気なんだね。
「ただ、河を挟むので、この先も充分な支援を続けられるかは何とも言えぬ。交渉次第ではあるが、大公殿下のご判断を仰がねばならぬしな」
都市を助けたけど、出来れば早めに手放したい。費用も掛かっているので、その分は保証して欲しい。出来ないなら、本格的にこの都市を貰っちゃうよ。でも、住んでいる人の事は大切にするからね。
そんな感じでしょうかね、サーリット司令官殿?
略しすぎだと、テイル副官が笑う。そんなに可笑しい?
うわ、こっちも笑ってるよ。
「いや、それで良いぞ。そういうことだ」
ただ、と間を置いて。
「この準騎士団は、地域全体の平穏を保つために発足している。あまり長いこと、この都市に縛られつづけるのは宜しくないのだ。その辺りが、悩ましいところではあるな」
時間制限があるのね?
メンドクサイね。
ところでって、話が変わるの?
「貴殿ら、竜人に会っていくか?」
ああ、カッコつけてやってきた割に、魔法の連発を貰ってぶっ倒れた、あのおまぬけちゃんね?
「宜しいのですか? 皇龍公国の極秘事項では?」
「いや、貴殿らには竜人について、理解を深めて頂きたい」
みーよの言葉に、サーリットは割と真面目な顔で、そう応えた。




