249.「郁ちゃんはダメよ?」
丁度、軍隊の奥から魔法攻撃の第2射が放たれた所だ。
竜人も炎で対抗したけど、今度は押し負けたらしく、直撃を貰って大きな体が吹っ飛んでいった。
ちなみに前方で整列し、展開していた長槍兵は、味方の大盾兵たちにかくまわれている。
「あんな物凄い魔法攻撃とか、竜人の炎とかが、街を襲ってきたら、対抗できないんじゃないの?」
「そのために都市の城壁と守護結石の守護者がいる」
「守護結石はなんとなく分かるけど、こんな城壁じゃ、爆破されておしまいじゃないの?」
サーリットはいぶかしげにあたしを見て、あの辺だっただろう、と指を差す。
んと、竜人が眼からビームなんてトンデモ技を放って、あたしがかわして城壁に当たったんだっけ?
爆発してたと思う。
思う。
壊れた跡が、見当たらないね?
この辺だったよね?
「守護結石のある都市の城壁は、魔法や理力攻撃から護られる。壊せるのは物理攻撃だけだ。
都市の住民の大多数が領主を支持し、忠節を尽くしているのであれば、守護結石はその力を持って都市を保護する。
領主は守護結石の守護者を任命し、その力を都市の防備に用いさせる。
行政長官が揃っていれば、都市の住民は領主に忠節を尽くすことが出来る。
どれか欠けていれば、都市は機能しなくなり、やがて滅びる」
いちいち、こんな時にこんな説明をさせるな、と顔に書いてある。
だって、そんなこと知らないもん!
「じゃ、じゃあ、そういうのを持ってないあの軍隊、マズいんじゃないの?」
「持っているから、竜人にも臆せず仕掛けたのであろう」
なるほど。で、ついでにあたしたちも巻き込めれば、都市が領主と守護者をまとめて失うということになるわね。都市の機能を根こそぎ削れるしね。
なんか、竜人もあの軍隊も、50歩100歩で酷い奴らに思えてきた。
いっそ、そのまま同士討ちになればいいのにね。
なんてことを思ったけど。
軍隊の方が、なんか強いみたい。
魔法攻撃の第3射は、竜人、何とか持ちこたえたけど。
第4射に対抗する力が残っていないらしく、直撃を受けてもんどりうった。
「今だ、掛かれぇ!」
「おおおぉお!」
大盾兵に守られていた長槍兵たちが、一斉に動き始める。
掛け声と角笛の音が響く中、倒れている竜人目がけて走り始めた。
「頃合いだな」
「総員、準備出来ております」
あたしが朝の訓練の時に散々からかった隊長さんが二人。
カマキリみたいな顔の斥候隊長? と、太髭の経理担当隊長もいる。
「よし、城門開け。
アンドレア大隊は拙者の隊と一緒に来い。
コーダー大隊は待機。機を見て後詰めを出せ。
ギリアム大隊は戦闘終了後、いつも通り追撃、情報収集。
リカルド大隊は戦後処理を頼む」
「はっ!」
総員、正門の下に駆け出した。
あたしは?
「郁ちゃんはダメよ?」
みーよ?
「わたしと、ここで戦況を見てなきゃダメよ?」
えー?
「だってこれ、戦争なのよ? 捕虜の身分のわたしたちが首を突っ込んでいい話じゃないでしょ?」
そ、そりゃそうだけど、さ。
まもなく、正門からたくさんの騎馬隊が出撃し始めた。
走りながら高く軍旗を掲げ、戦列を組んでいく。
隊が二つに分かれる。大きい隊が、倒れている竜人と、それに向かって襲い掛かろうとしている歩兵たちの方へ。
もう一方の隊が、魔法を撃ってきた本隊の方へ向かって行く。
騎馬なので、展開が速い。
相手の歩兵隊、足が止まった。
向かって来る騎馬隊に向けて、平行陣を敷き始める。
後ろにいた一部の歩兵たちも、魔法を撃ってきた本陣を守るために引き返し始めた。
「さっきの魔法、もう撃たないの?」
「魔力切れなんだと思う。多分だけど」
サーリット司令官、そのタイミングを伺っていたのかしらん。
その大隊を率いる彼は、平行陣を整えている歩兵たちの正面を横切るように軍を動かし、先に倒れている竜人の所にたどり着いた。
周囲に護衛の騎馬隊を置いて、そのまま歩兵たちの平行陣の裏側に回り込む。
歩兵たちが対抗して、密集した陣形を形作り始める。
でも、竜人の所を起点にしてU字型に半分囲まれた状態で、ちょっと苦しそうにみえるね。
これ、出口を塞がれたら囲まれちゃうんじゃないの?
あ、そのまま、歩兵たちが下がっていく。
どうも、本陣から角笛や旗が振られていて、退却の指示が出ているみたいね。
あ、都市の正門から、新しい騎馬隊が出撃していく。
ちゃんとした重騎兵。待機して、機を見て出撃するように言われていた大隊だね。
こっちも走りながら隊形が変化。紡錘型だね。
そのまま固まって中の歩兵陣に迫っていく。
竜人の方面からじりじりと押していく大隊と、都市から突進してくる新しい騎馬隊。
このままでは突き崩されちゃうね。
あ、塊がばらけた。隊列が崩れて、歩兵たちが一斉にばらばらに逃げ出していく。
都市から出た重騎馬隊の後ろに、皮鎧に身を包んだ軽騎馬隊がいたんだけど、それが重騎馬隊を追い抜いて、ばらけた歩兵たちに襲い掛かった。
こうなると、もう歩兵たちは逃げるのに必死になるね。
あんなに整然としていたのに、もう見る影も無い。
歩兵隊、2000はいたと思ったんだけどね。
武器の長槍や大盾を捨てて、投降し始めている。もう逃げきれないと悟ったんだね。
完全に崩れた陣形の中を、重騎馬隊たちが悠々と闊歩している。
軽騎馬隊は、さらに奥へ、相手の本陣に向かって行くらしい。
入れ替わりに、本陣に向かった重騎馬隊が戻ってきている。
都市から、何台かの大きな馬車と、整然と歩く歩兵隊が出撃した。
投降した兵士たちの収容と、武装解除された装備の回収かしらん。
「終わったみたいね」
なんか、あっという間だった。
そして、無駄に死んだように見える人がほとんどいない。
戦争、なんだよね、これ。
「みーよは、戦争に参加したことはあるの?」
「人間同士のは無いよ。観るのも今日が初めて。でも……」
少し悲しそうに、呟いた。
「オークに焼かれた村と、人間が戦争で焼いた村は、同じなんだよね」
ああ、そうだね。魔物も人間も、やってる事は。
結局は、変わらないのかもしれないんだよね。




