244.あたしにも首輪をつけておいた方が、世の中のためになるのにねって顔してるよ?
ピカピカした豪華な服を本人に戻してあげて。
着飾った新外交官を引き連れて、今度は領主ご自身の執務室に向かう。
本館の3階部分が、まるごとそういうフロアになっているらしい。
あたしたちにあてがわれた、守護結石の塔と基本設計が同じみたいね。
偉い人は、上の方にお住まいになられるって事かしらん。
中に入ると、大聖女みーよ様の執務室より、広くて豪華。ま、当たり前か。
こっちの部屋には、あたしたちの部屋とは別の執事さんと、メイドさんたちが、あたしたちの部屋の倍の8人、お出迎えでした。
その中の1人がメイド長みたいね。細いメガネがお似合いですよ。
ずらりと揃って、お帰りなさいませ、と頭を下げられる。
そのまま左右に分かれて、縦一列に整列。
君ら、いつもこんなことしてるの?
大きな執務テーブルに回り込む、領主サーリット様。
執事が豪華な椅子を引いて、座れるように準備。領主様が着席後、縦に並んだ列の先頭に戻る。
副官のテイル卿は、領主様の背後で立っている。
あたしとみーよ、そして新外交官殿は、机の前で立っている。
儀礼上、必要なんだろうけど、めんどくさいねぇ。
そういえば、みーよが大聖女として着任した初日も、執事とメイドさんたちがそんな事をやろうとしてたね。
「新外交官に任命した、トゥーンカ殿だ」
「はっ!」
執事とメイドさんたち、深々と頭を下げる。
外交官、なんか嬉しそうだね。顔がにやついてるよ。
「トゥーンカ殿。命令だ。“城に住む女性たちに手を出すことを禁じる”」
外交官、一瞬、顔をしかめたけど、すぐに元に戻った。
「“承知した”」
へえ、承知したんだ。そういえばコイツ、とってもエロいんだったね。
殺してやった方が世の中のためになりそう位、にね。
それで、首輪をつけて隷属させてるのか。うん、これなら安心だね。
みーよが、あたしをじっと見る。
な、なによ。
あたしにも首輪をつけておいた方が、世の中のためになるのにねって顔してるよ?
なによーテイル、何こっちを見てニヤニヤしてるのよー
面白くもなんともないのよ!
部屋の外からノック。
入ってきたのは、サーリットの取り巻きの部下たちだね。
二人、ちゃんと見知ってる。昨日と今日、朝稽古でたっぷりと可愛がった隊長さんたちだね。
向こうも、おお、お前もいるのか、という顔をしてるね。
後の二人は、ちゃんとは話をしていない。
一人はなぜか、皮鎧だね。他は金属の甲冑なのに、なんか違和感。
目つきがやけに鋭い。カマキリみたいな印象かな。
もう一人は大柄というよりは、ふっくらって感じ。眉が濃いけど目が小さい。
こっちは、おとなしい熊さんって感じ。
で、カマキリさんの方が、どうやら斥候、諜報、追撃などを担当する軽騎兵隊を取り仕切っているらしいのね。
で、熊さんは補給、輸送、回収、衛生、労務、会計、警備、総務といった後方支援の担当者らしい。
メインの軍を団長が率い、左右の軍を残り二人の隊長たちが担う。
軽騎兵を周囲に展開させて情報を収集して、後方支援にも兵をあてがっているのね。
領主様というより、団長さんに対する報告の仕方が、そんな感じだった。
で、斥候隊長の報告。
都市の周囲30キロを手分けして偵察したが、かなりの荒廃具合。
オーク同士の大規模な同士討ちがあり、腐敗した死体があちこちで浄化されずに残っているため、魔素がかなり発生している。それが魔境からの更なる魔物を引き寄せているらしい。
帝国方面からは魔導兵300人を中核とした帝国軍が都市の30キロ手前、恐らく残り1日の行程まで接近中。数は恐らく5000人規模。こちらの斥候隊と接触あり。まだ戦闘には至らず。その中に、ポートビリアから脱出した高官たちが含まれている模様。
都市の復興具合の報告は、熊さんが行う。
正門の修復は今日中に完了する。大聖女の祝福と認定が欲しい。
皇龍公国側の都市フェイスより、船で順次支援物資の搬入が行われるため、資金、食料、物資の問題はない。必要なら、船でこの都市の脱出も可能。ただし全員の移動には日数が必要。
焼け落ちた住宅街の復興は、まだ日数が必要。人手も欲しい。
避難民の食糧事情が良くない。食料はあるが、割り当てる予算が無い。ポートビリアの行政官は、そちらには資金を使いたくない模様。領主の判断を求む。
サーリット領主が頷き、報告の授受を告げる。
早速、指示。
外交官の手配を行う。執事に、そのための部屋をあてがうように指示。
執事、メイドの幾人かに、手配をし始める。
ミヨ殿、コイツの部下を呼びだせるか。
承知しました。
ほどなく、外交官のお付きたち、初対面の時に、あたしたちに手を掛けようとした男たちが現れる。全員、作業服だね。
外交官を見た瞬間、全員の首輪が落ちた。
戸惑う男たちに、領主様が尋ねる。
君らは自由だが、どうする?
元はこの方の奴隷ですので、いまさら自由を得ても生きて行けない。
その辺はなんとかするが?
いえ、よろしければ、このままこの方に仕えさせて欲しい。
許可する。おい、甲冑や荷物を返してやってくれ。
なんか、アワアワしてる外交官に、自分たちが付いているので、安心して欲しいと声をかけている。
ふーん、そんなもんなのかねぇ。そういうの、奴隷根性って言うと思うんだけどね。
さて、トゥーンカ殿。仕事を頼みたい。
今の報告にあったように、魔導帝国の軍が近くまで来ている。外交官の初仕事だ。貴殿を使者として遣わす故、交渉に出向いて欲しい。
我々は対価を頂ければ、そのままこの都市を明け渡し、速やかに撤収する。
魔導帝国側が何を望んでいるのか、聞きだしていただきたい。
判断は拙者がする故、何を聞かれても、領主に判断をゆだねると告げて欲しい。
準備が出来次第、向かってくれたまえ。
承知しました。
執事がメイドを手配し、その案内で、外交官と奴隷根性な部下たちが部屋を出ていった。
で、あたしたちへの指示ね。
オーク軍が来る前に都市を脱出した高官たちの一部が、魔導帝国の救援軍と共に戻ってきている。
彼らは都市を見捨てた、いわば職務放棄したも同然である故、我々としては、そのまま元に戻すわけにもいかない。
各自面談し、判断材料にしたい。ミヨ殿、守護結石の現正規守護者として、そっちの面談を頼めるか? 拙者は現在の行政高官と共に、元の高官たちと面談する。場合によっては荒事になるやもしれん。
承知致しました。こちらは付き人イクミがおりますので、問題ないかと。
逆の方面で心配ではあるな。
えーそんなことないよ。ホントダヨ?
いずれにしても、外交官殿の手腕に期待だ。
こちらとしては、それまでの間、都市の復興と正常化に努めることにしよう。
承知しました。
修復中の正門に大聖女の祝福を掛けた後、巡礼に向かっても宜しいでしょうか?
そうして貰えるか。
お、取り巻きの一人、熊さんが声を上げた。
本当に、戻ってきていただける保証があるのですか?
んーそうだと思うけど?
心配か?
念のためですが。
サーリット領主が、みーよを見つめる。
「命令だ。“巡礼が終わったら、この都市に戻ってきてくれ”」
「畏まりました」
みーよが、厳かに答える。
そんなことしなくても、ちゃんと戻ってくるけどね?




