235.「やるべきことはやるよ」
正門前で大騒ぎらしい。
あたしはともかく、みーよの足じゃ間に合わないね。
抱えて走るか。
とか思ったけど。
「郁ちゃん。跳ぶね」
ん、なにする……
ぶわっと、景色が変わった。
即、瞬時に、正門前。
なによ大聖女様。瞬間移動? なんでもありなの?
正門奥に、デカいのがいる。2体。
周囲に倒れている兵士。何人だろう。門番替わりで、当たりが悪かったって事ね。
うち一体に、サーリット司令官が立ち向かっている。
もう一体は、テイル副官が足止めの術を使ってるのかな?
「大鬼。人里に来るのは珍しい。強いよ」
走って近づきながら、みーよが説明してくれる。
「コマンダー?」
「武術付き」
おっけ。
そのままダッシュ。みーよの光の祝福は、間に合いそうにもないんで。
足止めされてるオーガに向かって、あと10歩。
「テイル、サーリットの援護に廻っていい。あたし、これ初見」
「足止めでいい。あっちを仕留めたら援護する」
手短なやり取りで、お互い、即動く。
スリングセット、即射出。
身長3メートル、体重150キロ超。
やけに細マッチョ。ってか、ガリガリ。腰帯以外、防具無し。
手には細長い棍棒。他に武装無し。
頭に二本の角。目つきは悪い。口からはみ出す犬歯。
髯無し。髪はお手入れ無しのボーボー。肌は青白い。
亜人。悪鬼系。闇の種族。
んで、多分、強い。
はん、あたしも、強いのよ。
スリングの石を棍棒で弾き返し、こっちを睨みつけるオーガ。
構わず、そのまま突っ込んだ。
もっのすごい速度で振るわれる棍棒。
でも、所詮は棍棒でしょ。
オーク・キングの金属製の大矛に比べたら、まるでオモチャ。
あんときは、迂闊に受け止めて、右手骨折だもんなぁ。
こっちの腕じゃなく、相手の棍棒を叩き折るつもりで振り切ったアギト・ナイフの背は、きちんと仕事をしてくれた。
へし折った棍棒の威力も貰って、回転運動のまま、ローリング・ソバットをオーガの顔面に叩き込む。
……なによぉ、よろめく位、しなさいよね。効いてないのは、聞いてないわ。
おっと、噛みつくのはヤメテよね。そういうのはお子様のやることよ?
ま、似たよなもんか。
接近状態のまま、地面に着地。
適当な膝蹴りが飛んできたけど、片手で勢いを逸らす。
蹴りが重い。当たり前だけど。
でも大丈夫。まともになんか受け止めないもん。
自分も回転するようにして、いなす。
そのまま自然にヤツの背後へ。
身長差が大人と小学生低学年だけど、とりあえず腰巻を片手で掴み、アギト・ナイフを腹部に突き刺してみる。
うげ、固い肉だなぁ。でも、刺さらない事も無い。
渾身の力を振るって、しがみつきながら貫きにかかる。
うお、嫌がって暴れ出した。
背中を取っているんで、簡単には剥がれないけど。
アンタの腕も回しにくいでしょ?
そんなのいいから、さっさと刺され! さらに力を込める。
あ、コイツ、あたしを潰そうと倒れ込んでくる。
とっさにかわすついでに、半分めり込んだアギト・ナイフに、蹴りを入れておく。
うん、キッチリ刺さった。
ひっくり返ったデカいオーガを、立ったまま上から見下ろしてやる。
うん、いい気分。
腹から出血あり。アギト・ナイフは根元までしっかり突き刺さっている。
でも、まだ動けるんでしょ?
組み打ちすると、血で制服が汚れそうだなぁ。
お、立ち上がろうとしてくる。
スカートをめくりあがらせながら、前蹴りを顔面に打ち込んだけど、まるで効いてないね。
怒りに任せてあたしを捉えようと、両手を伸ばしてくる。
しょうがないなぁ。
こっちも懐に入って、身体を密着。
うへぇ、血でべとべとじゃん。
両手をゴツゴツな身体に押し当てて。
左脚起動、右足を添えてうねりを呼び、腰、背中、肩、腕に勁を伝えていく。
「お前ごときに勿体ないけど……“寸勁”!」
正確にヤツの心臓の辺りに、あたしの爆発的な全力を幾重にも重ねて直接叩き込んでやった。
「グガア!」
何事が起きたのかも分からないみたいで、オーガが硬直する。
その間に、ヤツの腹に刺し込んだアギト・ナイフを無理やり引っこ抜く。
前かがみになった頭の、ちょうどいい所に角があったんでガッチリ掴み、反対側に廻した腕でアギト・ナイフを、逆刃に持ち直して喉奥に当てた。
腕を逆方向に、一気に回す。
今度はきれいに刃先が入り、オーガの喉を半分以上、切り裂いた。
ヤツの頭ごと抱え込んでるので、返り血を浴びるのはしょうがない。
あー汚い。
デカい身体がバッタリと倒れて、自分の血の池に沈んでいく。
コッチはオシマイ。もう一体は?
お、サーリット司令官、キッチリ仕留めてるね。
なによ、コッチの見学とか。余裕過ぎない?
「手が空いてたんなら、手伝いなさいよね」
「必要だったか?」
うーん。却って邪魔かな。
「いや、やっぱりイラない」
あんまり美味しい肉じゃなかったから、任せてイイならその方が良かったかな、程度だね。
「コイツら、なんなの?」
「都市の門が破壊されているからな。大勢の人間たちの匂いに惹かれて、悪鬼が寄ってくるのはやむない事だ」
んな物騒な。
「修理を急がせてはいるのだが。それまでの間は警備を強化せねばならぬな」
そう言って、あたしを改めて見つめる司令官。
「先ほど、妙な技を使っていたな」
げ、やっぱ見られてるのか。
「拙者との勝負の時は、用いておらなかったな」
そりゃそうでしょ。あんなところで見せる技でもないし。
「ぜひ、拙者にも使って貰いたいものだな……いや、今のは無しだ」
何言ってるの?
まあ、ソッチの立場もあるだろうからと手抜きした事は、したけどね。
いや、普通に、発勁を使わなくても勝てそうかな、と思ってただけだよ?
あと、女神ちゃんの祝福も、使わずにすむなら、そうしたいかな。
自分の力だけで、アンタを仕留められたら、なんたって気持ちいいでしょ?
あ、みーよが来た。
「郁ちゃーん、お疲れ様。怪我は?」
「多分、何ともないとは思う」
「後でちゃんと診るね。サーリット様、お怪我は?」
「拙者も恐らくだが、大丈夫だ。奮戦した警備兵たちの具合を診て貰えるだろうか?」
「承知しました。郁ちゃん、少し待っててね」
そう言って、トコトコと周辺で倒れている兵士たちの所に行ってしまった。
「さっきの“今のは無しだ”って、何の事?」
発勁を使って欲しい、やっぱり無しって、何?
「いや、大したことではない。拙者が迂闊に“命令”すると、隷属の首輪が発動してしまうだけの事だ」
そうなの?
「貴殿らは協力者だからな。政治的な意味合いや部下との手前、首輪を付けて貰わねばならないのではあるが、本来はそのようなもの、無用であろう?」
まあ、そうだとは思うけど。
みーよがそう判断してるなら、その辺はどうでもいいよ。
「ポートビリアの高官たちも、自分らの側について欲しいといっておったであろう?」
「なんか、それっぽいこと、言ってたね」
「逆を言えば、皇龍公国側の人間にとっては、仮の領主である拙者が、守護結石の守護者をきちんと手中に収めていてくれないと、敵地で危険な立場に立たされる、と懸念するのだよ」
ふーん。
うん、ゴメン、よく分かんないかも。
「ただ、領主、守護者、行政を運用する高官が揃っておれば、統治機関として機能できる。都市の住民の拠り所となるので、不法住民とはならずに済むのだ」
まあ、この世界はそうなんだね。
「これから、魔導帝国側の貴族や役人、皇龍公国側の貴族や役人、それに、今来たような大型の魔物や、大規模な野盗、山賊もやってくるだろう」
そ、そうなんだ。
「全てが終わるまでは、住民たちの安全を確保せねばならぬ。今後とも、よろしく頼む」
あたしに頭を下げられてもねえ。
そういうのは、みーよに言ってよね。
でもまあ、この人なりの礼儀、仁義の通し方なんだろうね。
「やるべきことはやるよ」
そういうと、ニカッと笑ってくれた。




