229.なんて美味しそうなの!
「あんたが強いのはよく分かった。団員3人と同時に相手をしてくれ」
なるほど、そりゃいいね。
「何でもありでいいのね?」
「無論だ。俺も、どこかで女性だからと侮っていたのかもしれん……
みんな、生きのいい猛獣だ。遠慮なしに退治しろ」
いいねぇ、そうこなくっちゃ!
「喰われても、文句は無しね!」
うーん、生きのいいお肉たち!
全部で30人位かな。鍛えられた精鋭って感じよね。
なんて美味しそうなの!
お相手の隊長が指名した3人が、模擬剣を持ってあたしを取り囲む。
木剣でも、当たれば痛い。
でも、それはコチラだけの話。
だって向こうは全員、全身甲冑で防備はバッチリ。しかも、兜もちゃんと被っている。
ウフフ、遠慮しなくていいのは、ありがたいね。
「はじめ!」
隊長の号令と同時に、3人が同時に斬りかかってきた。展開が速いね。
正面の一人にこっちも斬りかかり、剣を合わせると見せかけて引く。
そのまま円を描くように背後に回り込むと、少し慌ててこっちに振り向こうとする。
同時に打ちかかった背後の二人は、そいつが邪魔であたしに近づけない。
模擬剣を腰の位置から背中側まで十分に廻し、右脚の踏み込みと同時に真横に振り抜く!
身体に隠した刃を、抜き打ちに見立てて。
日本刀の奥義の一つ、居合切り!
まともに男の腹部にヒットしたのはいいけど、あっさりと折れちゃった。
あらら。
でも、まともに入ったので痺れて動けないでいる男の模擬剣を拝借して。
その陰から不意に飛び出し、左の兵士の顎下から、上方に振り上げた!
脳震盪でも起こしてくれないかな。
この剣、まともに打ち抜くと折れちゃうらしいんだよね。粗悪品だなぁ。
うん、効いてる。フラフラしてる。
そのまま跳びつき、片手で頭を抱えてジャンピングニーを叩き込んだ。
倒れる前に、蹴り飛ばすように反動させて、最後の一人に飛び掛かる。
反応されて模擬剣を振るわれたけど、こっちの模擬剣でいなしながら懐に飛び込んだ。
ぶつかった反動でひっくり返せたので、即、腕を掴んで十字固めにしてあげる。
はい、ギブね。
みんな、何か恐ろしいモノでも観たような顔であたしを見ている。
あら、普通よ、こんなの。
オラクルの朝稽古じゃ、もっと激しく……は、してないか。弟子たちには手加減してるからねえ。
立ち上がって、パンパンとホコリを払う。
「隊長さん、3人じゃ足りない。もっと頂戴」
しばらく固まっていたのが、ようやく我に返ったみたい。
「ヨアブ隊、行けるか?」
「承知!」
ああ、10人隊の隊長なのね。配下に9人いるのね。
集まって、何か話している。作戦会議ね。
あたしの実力を見せつけても、怯む様子がない。
「良い部下を持ってるわね」
その間に、隊長さんに話しかける。
「その良い部下を、残さず平らげるつもりなんだろう?」
「ウフフ」
「ウフフじゃねえよ」
あら、実戦感覚で鍛えるって、大事な話なのよ?
本物の怪物相手にして、訓練ですから、なんて余裕は全く必要ないでしょ?
そもそもあたし、まだまだ本気じゃないんだけどね?
で、今回は10人のうち、5人があたしを半円形に包囲している。
もう5人は、少し離れた背後に展開。
あたしがうかつに突っ込んで、バランスを崩した所に一撃を加えるつもりね。
いい作戦だと思うよ。
「相手は素早いオークだと思え。決して油断するなよ」
「おう!」
オーク、ねぇ。
アイツら、こんなに速く動けないし、第一、武芸が分かんないわよ?
ま、いいか。
1、2度ステップ。
着地と同時に“投げる動作”。
中央の二人が反応して、ビクッと震えた。
そこにスキあり、目がけてダッシュ!
模擬剣を構えた相手に、さっき見せた居合切りの構え。
なおも緊張が高まる正面の二人!
左右の男たちが、あたしの行動についてこられない。
あたしはそのまま、構えを解かずにゆっくり近づいていく。
目の前まで来て。
そのまま、模擬剣を手放し、地面に落とす。
なに、やってるんだ……?
完全に硬直している正面の二人の頭を掴んで、そのままお互いの頭に叩きつけてやった。
ヘルメットしてるから大丈夫だと思うけど、そのままバッタリ倒れる二人。
彼らから模擬剣を二本とも奪って、後ろで構える連中にダッシュする!
「か、囲めぇ!」
必死に指示し、立て直そうとする隊長さんに狙いを定めて、急転換。
意を決して模擬剣を構える隊長さんの直前で反転して、後ろから迫ってくる兵士たち二人に、二刀流上下廻し斬りの要領で模擬剣を浴びせてひっくり返す。
うわん、また折れたぁ!
何本折れば気が済むのよぉ……
ひっくり返った兵士たちから模擬剣を奪い取って、右端の孤立してる兵士に襲い掛かる。
逃げずに戦うのは、立派!
でも、技量が伴ってないのが、残念!
斜め上からの袈裟斬りを余裕でかわして、背後を取る。
模擬剣を捨てて、そいつの両足を引っ掴む。
持ち上げてグルグルと回し始める。
これなら、折れないでしょ?
悲鳴がうるさいけどね。
こっちに向かってきた兵士たちに、まともにぶん投げてやった。
まとめて2人、仕留めたね。
よし、これで残りは3人。
位置がみんなバラバラ。指揮系統も何もないね。
離れた位置にいる兵士に向かって走る。
やみくもに振るわれた剣なんて、当たるはずもない。
まあ、これでも喰らって落ちつきなさい、とばかりにラリアットを喰らわせて仕留めた。
そのまま反転。恐怖に襲われても逃げない、勇敢な兵士さんにドラゴンキックをまともに浴びせてあげた。冷静になれば、かわせるのにね。
後は隊長さんだけ。あたし、素手だけどね。
「鎧を着てるんだし、死なないでしょ? その方が、手加減しなくてイイんで楽なのよ」
ツカツカ近づいていくと、顔が真っ白よ?
だからぁ、敵にそんな顔しても通用しないのよ?
そう気づいて、上段から一気に模擬剣を振るってきたけど。
見てから、かわせるよね、それは。
半身ひねってかわし、腕と肩を掴み、足を絡ませて。
最後はコブラツイストを決めてあげた。
ギブね。割とこの技、痛いからね。
うん。おしまい。美味しかった。満足満足。
でも、折角なんで、お代わりが欲しいな。
健在な隊員が10人。
他には、最初に3人食べちゃったんで、中途半端な隊が7人。
あ、そっちの隊の中には一対一で闘った隊長さんもいるから、残り6人なのね。
当然、やるでしょ?
残り全員で相手してもいいよ?
え?
隊の半分を失うと、軍としては機能しなくなる?
今日はもう勘弁してほしい?
しょうがないなぁ。じゃあ明日、また相手してね。
うん、楽しかった。じゃあねー
沈痛な面持ちの面々を後にして、鼻歌を歌いながら歩いていくと。
治癒担当らしい、法服を着た人たちが何人か、走ってくる。
そういえば、各宗派の代表者と会合の予定とか、執事さんが言ってたね。
そのまま、すれ違っちゃった。
うん、ご苦労ご苦労。
あれ、みーよも走ってくるよ?
うーん、走り方、相変わらず可愛いなぁ。
でも、執務室でお仕事してたんじゃ……
え、おいでされた。
なによーさっきの訓練場に逆戻りじゃないのさ。
みーよ得意の、マルチヒール!
あたしがたっぷり遊んだ兵士たちを癒して。
で、個別に、他の法服組が治していくのね。
チームプレイね。いい連携だわ。ウンウン。
え?
ウンウンじゃないって?
やり過ぎです、め!
みーよに叱られちった。しょぼん……




