228.「少し遊んでいくか?」
朝食を終えて、みーよと執務室に戻ると。
「郁ちゃん。わたしが執務室にいる間は、付き人の護衛は必要ないから」
「そうなの?」
「なにかあれば、ここからなら呼び出せるし。必要だったり、外に出かける時は一緒に来て欲しいけど」
「分かったよ」
中でのお仕事の間は、あたしはいなくてもイイらしい。
ちなみに、試しに部屋を出て少し離れると。
「(郁ちゃん、聞こえる?)」
「(聞こえる)」
「(守護結石の守護者は、この都市の中限定なんだけど、こういう感じで、一定以上の権限を持つ人々に直接話しかけられるの)」
そ、そうなんだ……
「(逆は、できないんだけどね)」
あくまで一対一で、呼び掛ける側はみーよ限定なんだね。
「(だから、何かあったら呼ぶから)」
了解だよ、みーよ司令官!
~ ・ ~
急に暇になったんで、城の中をうろつきまわる。
誰もがあたしの姿を見るたびに、立ち止まって敬礼したり頭を下げたりしていくけど。
オーク・キングを討伐した英雄扱いって、本当に有名人扱いなんだねぇ。
白の左側に、練兵場があるのはなんとなく知ってた。建物の造りからして、そこに空間があるはずだからね。
食後の運動というか、ちょっと身体を動かしたいな、という気軽な気持ちで近寄ってみると。
やってるねぇ。騎士通りの、一対一の乱取りか。
司令官の取り巻きのうちの一人が、訓練を見守っている。
こっちにすぐ気づいて、手招きしてくれた。
「暇そうだな」
「まあね」
「少し遊んでいくか?」
「喜んで」
模擬剣を貸してくれて、自分も模擬剣を持つ。
周囲が察して、乱取りを取りやめたまま、あたしたちに注目。
「腰袋、外してもいい? なんかの拍子にアギト・ナイフを抜いちゃいそう」
「構わんよ。おい誰か、預かってやれ」
乱取りしていた若い騎士が、預かってくれる。
大したもんは入ってないけど、アギト・ナイフは別かな。
ん-研ぎに出したいんだけど。この街にも鍛冶屋あるかなぁ。
おっと、今はそんな場合じゃないね。集中集中!
お相手の取り巻き君は身長185センチ、体重85キロって感じかな。
あたしより細身に見えるのは、身長差のせいだよね。
ちょっと巻き毛。瞳は緑。やや細面。髯はうっすら。あまり生えない体質らしいね。
「兜は被らないの?」
「団長相手じゃないからな」
「へえ、団長相手だと被るんだ」
うん、舐められてるね。ついでに、片手で剣をひらひらさせている。
ん-それ、悪手だと思うよ?
だってアンタ、シュトルムより強くはないんでしょ?
ま、いいや。
んじゃ、様子見で突っ込んでみますか。
体勢を低く、タックルする感じで、剣を地面に這わせる感じで、ダッシュを掛けてみる。
予想通り、地面をえぐるような下段突きが飛んできた。
右にかわすと、ステップを踏んで追尾してくる。
さらにかわしつつ、右足を伸ばして地面を掴むように蹴飛ばして回避キャンセル。
こっちが踏みとどまったのに合わせてきた、打ち下ろしの下段切りに合わせて、こっちも貯めた力を解放するみたいに斬り上げる。
がっつり噛み合った模擬剣同士。力は互角。
まあ、下側のあたしが抑えきれてるから、本来の力はあたしが上かな?
剣を合わせたまま、下にスライディング。
バランスが崩れて、たたらを踏むお相手。下から支えてたのが、急にいなくなったからね。
あたしは剣を捨てて、そのままお相手の腰の辺りに組みついた。
「う、うおっ……」
剣士は、こうなっちゃうと無力よね。剣を手放さないなら、このまま決めちゃう……
お相手、潔く剣を捨てて、片手であたしの髪の毛を掴みに来た。
もう一方の手はあたしの肩を掴み、引きはがしに来る。
あたしは足を相手に回し、絡めて、バランスを崩させにかかる。
うわぁ、片足で踏ん張ってる、踏ん張ってるねぇ。
マイアミあたりだと、こらえきれないで倒れちゃうんだけどね。
あたしの髪の毛を掴んでるんで、それでバランスとってるのか。やるねえ。
絡めた足を解いて、両足で地面を踏みしめる。
パワー全開、よいしょお!
お相手を、身体ごとそのまま持ち上げた。
「お、おおぉ!」
身体を掴んだまま大きく揺さぶってこられたけど、何とか耐える。
髪の毛を放してくれないので、そのまま自分の身体ごと、お相手を下にして地面に飛び込んだ。
ぐぬうとか聞こえたけど。
あ、やっと髪の毛を放してくれた。
お相手の足首を掴んで、あたしの両足に相手の片足を絡めて。
肘を支点にして関節と逆向きに締め上げる。
通称、アンクル・ロック。完全に極まってるでしょ?
「こ、こんなことで……」
お、意地張ってるね。結構痛いと思うけどね?
だってこれ、関節技だもん。
いくら鎧で覆っていても、そんなの関係ないからね。
「ふーん、じゃあこれはどう?」
そのままあたしが身体をねじると。
耐えきれずに転がるお相手。
そのまま3回転くらい、思う存分に身体を回してやる。
なすすべもなく、ゴロゴロと転がるお相手。
アマチュアのレスリングなら、試合終了。
身体を自在に支配されちゃってるもんね。
「わ、分かった、降参する……」
ウフフ、アンタ、なかなか良かったわよ。
とっとと立ち上がって、手を差し伸べてやる。
少し、悔しそうな顔。こういうのを見るのも、好きなんだよねぇ。
「お前、英雄だとか言われてるけど、ほんとはズルイだろう」
へ? なんで?
「そんな恰好で組み打ちしてくるとか、普通は思わンぞ」
あぁ、制服のこと?
可愛いでしょ?
「しかも無茶苦茶強いって、どうなってるんだよ……」
「なんでもありなら、そうそう負けないわよ。剣技限定だと、本職には敵わないけどね?」
自分でも、もう少しイイ言葉ないかなぁと思いながら、慰めにもならないことを言ってみる。
「いや、負けは負けだ。団長に、そう伝えておく」
司令官に、負けたーって泣き付いちゃうのね?
「団長は鬼だからな。あの人、本当に鬼だからな」
なぜか嬉しそうに、お相手が言う。
周囲の騎士たちも、ウンウンと深く頷いている。




