222.「お帰りなさいませ、聖女様、付き人様」
暗くなってきたんで、城に戻る。
内郭の門を守護しているポートビリアの兵士たち4人が、最敬礼して出迎えてくれた。
上流階級の人たちが暮らす内郭部分は、激しい戦なんか無かったかのように、平和だった。でも、ちょっと前までは、持ち堪えられるか、ギリギリだったんだと思う。
逃げ出せている人は、とうに逃げ出していると思うんだけど。
残っている人たちは、それなりに覚悟して住み続けていたのかしらん。
深々と頭を下げていく住民たちに手を振りながら、あたしとみーよは領主の館へ歩みを進めた。
館に入ると、執事さんかな? な、背筋をしゃんと伸ばした老人と、メイド服の、様々な年齢の女性たちが4人、出迎えてくれた。
「お帰りなさいませ、聖女様、付き人様」
うわぁ、なんか照れるわ、こういうの。
みーよは平気みたいね。そりゃアンタは生粋のお嬢様だけどさ。
「新しい領主さまが、夕食を共に取られるよう、招待しております」
「お受け致します。案内を」
「はっ」
恭しく頭を下げられ、執事に案内される。
あたし、ちょっと前まで、女神ちゃんの教会の談話室の長机でビール飲んでぐだぐだして、みんなが揃ったらガシガシとパンとスープ飲み食いして、たまにお肉をたらふく平らげてたんだけどね。
領主のご家族って、普段からこんな優雅な暮らし、してるんだねぇ。
案内されたのは、渡り廊下を通る、中庭にある守護結石の塔じゃなかった。
入口の右寄りにある大きな廊下を通り、向かいの階段を二階に上がり、来た方向にちょっと戻った処にある部屋だった。
とても長いテーブルと椅子のセットが4列。
その奥に、横向きに長いテーブル。この上には白いテーブルクロス。布が高価品のこの世界においては、かなりのぜいたく品だと思う。特別席扱い?
縦のテーブル席の半分位が、すでに参加者で埋まっている。思い思いに、彼らは何か話をしている。あたしたちが来たから注目する、ということは無いみたいね。
奥の横のテーブルは、まだ誰も座っていない。
で、そっちに案内された。なにこれ、あたしたち、主賓扱い?
すぐにメイドさんが寄ってきて、何か軽く飲まれますか? だって。
んじゃ、ワインをよろしく。
みーよも、同じものだそうです。
運ばれてきた食器は、銀製の皿に盛られたチーズと干し肉。
ゴブレットも、銀製だね。
一口飲んでみると、美味しい。すごく美味しい。いいワインだね、これ。
ほどなく、司令官や副官、取り巻き4人、ポートビリアの防衛隊長、行政長官代理、商工会会長もやってきた。
横ならびに、あたしたちも入れて11人。
メイドさんたちがテキパキと、ワインとおつまみを運んでくる。
その間に、縦列のテーブル席も、どんどん人が入ってきて、埋まっていく。
これ、もしかして皇龍公国の騎士団の集まりなんじゃないの?
あたしたち、場違いみたいだけど?
司令官が立ち上がると、皆、それに合わせて立ち上がった。
手にはワインの入ったゴブレット。
「オーク軍を撃退し、街を救うことが出来たのは、皆の奮戦のおかげである。今宵、ささやかではあるが、宴を用意した。英気を養い、明日からの任務に備えて欲しい。
では、乾杯!」
「乾杯!」
「乾杯!」
短いスピーチの後、皆で一斉にワインを飲み干す。
各自、思い思いに座り、ワインの入った壺を互いに注ぎ合い、おつまみを摘まんでいると、メイドさんがパンの入った籠とスープやエールの入った器をどんどん持ってくる。
最初にセットしない方針らしい。それはそれで大変そうだけど。
で、あたしたちの方にも、専属のメイドさんが4人がかりでお世話だね。
すぐに食事が並べられる。
お肉もきた。すでに切り分けられている。何かのソースが掛かっているみたいね。湯気が立っていて、美味しそう!
一応、司令官をチラ見。多分だけど、一番偉い人が食べ始めないと、手を付けたらダメなんでしょ?
ん? 関係ないみたい。来た順に食べ始めてるね。
どうも、この騎士団、そういうマナーみたいなもんはあまり関係ないみたいね。統率は取れているけど、速さと合理性を重視してるのかしらん。
なら、食べてもいいのね、頂きます、とかぶりつく。
うん、旨い!
ねっとりと絡んだソースに、スパイスが効いている。オラクルでは、こういうスパイスの利いた料理は食べたことがない。あって、岩塩くらいだね。
ソースが掛かっている料理を食べるのも、初めてかもね。ちゃんとした料理人がいるんだね。
その後も、新鮮なお野菜や果物、そして多分、ジャムやマーマレードといった、オラクルではお目にかかれないものが出てきた。
砂糖が高いらしく、こういう加工品は見たことないんだよね。
まあ、肉料理に甘いジャム入りパンは、食べ合わせとしてはどうなの? と思うけど。
でも、皆、美味しそうに食べてるから、まあいいんじゃない?
ワインが甘めで、ソースも若干甘めなので、意外に味の調和は取れてる気はする。そこにスパイスの刺激が入るんで、現代人のあたしは違和感を覚えるだけなんだと思う。慣れると、結構いい感じになる。
一通り、食事が振る舞われ、食べる人はお代わりを頼んでいるみたい。
あたしもメイドさんに肉とパンとスープとエールと果物とサラダのお代わりをお願いする。あ、このジャムも追加で。
ワインは、黙ってても壺で持ってきてくれる。
何杯目だろう、ワインを飲み干して。
周囲を観察すると、司令官や副官の前に人だかり。配下の部下たちだねぇ。
司令官自らワインを部下たちに注いで回って、もう一回、カンパーイ、だって。
いや、あの時のお前の勇敢さがどうとか、お前の剣捌きがどうとか、一人一人に声を掛けては、笑ったり褒めたりしている。
マメな人だねぇ。
あたしはそういうの、苦手なんで。
やってきたお代わりの料理を食べるのに専念するわ。ホント、お腹空いてたんだよね。
「郁ちゃん、まだ食べる?」
「ん、もうちょい」
噛みちぎった肉を飲み込んで、みーよに応える。
「顔見せは十分なので、引き上げても良さそう」
「この夕食会って、顔見せを兼ねてるのね?」
「騎士団の規模は、大体3000人。参加者は殆どが100人隊長クラスね。
わたしたちやポートビリアの行政官たちの顔を覚えさせるには、ちょうどいい機会なのよ」
まあ、隊長さんたちは、重要人物の顔を覚えておかないとダメだろうね。
「部屋に戻ったら、現代食をなんか出してくれるんでしょ」
「足りなさそうな顔してるもんね。分かった」
そんなにお腹空いてる顔してるかな?
二人して司令官たちの所に行き、退出許可を貰う。
そのまま行政官たちにも挨拶して、部屋を出た。




