220.なんか、みーよらしいわ
司令官があたしたちに向き直る。
「貴殿らに、幾人か引き合わせたい者たちがいる。配下の騎士たちが都市に入る許可を取りつけたいのだ」
今まで、都市の外で野営していたのは、その人たちの抵抗のせい?
んなもん、勝手に入ればいいんじゃないの?
なんて、そんな簡単には行かないか。
オークどもに襲撃されて正門は突破されたけど、内郭までは侵入させていない。それどころか、外郭の市街区も、正面の大通り以外は蹂躙されている様子がないんだよね。
都市の守備隊、相当奮戦してたんだろうね。
そんな中に、外にいるオーク軍を追い払ったからといって、他所の国の、それも敵対関係にある軍を歓迎して、どうぞどうぞと中に入れちゃうおバカさんじゃないって事だね。
だから、あたしとみーよの顔見せパレードの時も、外郭までは皇龍公国の兵士たちが付いてたけど、内郭はポートビリアの兵士たちが警備に当たっていたもんね。お前らは、ここからは入ったらダメだ、ということね?
でもさ、都市の偉い人達、結局逃げちゃったんでしょ?
決定権を持つ人がいないんじゃ、入れる入れないを決めようもないと思うんだけど?
そんなあたしの推察など、無視して。(そりゃそうだ)
「こちらへ」
隣の執務室らしい所に案内された。このフロアの部屋って、廊下もあるけど、内部でも部屋同士が繋がっているんだよね。
部屋の中は、立派な調度が整えられていた。
執務机、椅子、応接セット、本棚、壁には大きな絵も飾ってある。
窓はないけど、上から魔石をふんだんに使ったシャンデリアが、部屋に光を供給しているね。これって、もしかしなくてもスゴク高価なんじゃないの?
で、部屋の中には、ポートビリア風の加工なんだろうね、司令官とは違った形の完全甲冑の壮年の男性と、明るい色使いのローブを二重に羽織った若い文官かな? と、少しお太り気味の、ぎょろ目と左右に伸びた髯の男性が、応接セットを囲んで何か話をしていた。
こちらに気づいて、立ち上がる。
「呼び出したまま、待たせて済まない。現在、都市の防衛と治安を管理している方々だ」
さっきの放送を観ていたらしい。敬意をもって頭を下げられた。
完全甲冑の男は、都市の防衛隊長のハンドゥ。
二重ローブの若い文官は、行政長官代理のエンダナ。上司は逃げたらしい。
で、ぎょろ目の小太りが、商工会会長のカントス。
名乗られたけど、正直、名前を覚える自信はないね。
みーよは、すんなり頭に入ったらしい。じゃあ、あたしは覚えなくてもいいや。
「こちらはすでに知っての通り、オラクルより来られた聖女ミヨと、付き人イクミだ」
こっちも頭を下げる。
「二人とも我々に“隷属”しているが、ポートビリアの治安が完全に回復次第、解放するつもりでおる。騎士団の名誉にかけて、非道な行いは一切禁じているので、安心して欲しい」
防衛隊長が、疑わしそうな目で司令官を見る。
行政長官代理は、やむなし、という感じ。
商工会会長は、あたしたちを値踏みしてるね。なんで好き好んで隷属状態なんかに? って感じかしらん。
んーその辺は、みーよに聞いて。なんか理由があるんだと思う。
「それで、法的には問題はないとは思えるが、配下の騎士たちを都市に入城させる許可を戴きたい」
防衛隊長が、眉をひそめている。
「我々は、皇龍公国に攻め落とされたわけではない。ただ、外部のオーク軍を追い出して貰えたことには、感謝している」
意地を張りたいのか、感謝したいのか、どっちなんだろね。
他国の軍が入ってくることに、相当な抵抗を感じてるみたいね。
行政長官代理が、意見を述べる。
「しかしハンドゥ殿、法的には、守護結石の守護者が許可を出せば、それを妨げることは出来ないのではないか?」
守護者はみーよ。で、隷属状態だから司令官には逆らえない。なので、妨げられないって事?
実力行使、ダメなのかしらん。しらんけど。
「皆さんが治安維持をして頂かないと、商売ができませぬ。辺境都市への物資供給も滞りますぞ?」
これは、商工会会長のぎょろ目の言い分。
で、都市が荒らされてるので、治安をちゃんとしないと困るのね。
そこに、他国の兵士たちを入れたら、困るのかもしれないけど。
逆に、ちゃんとするのかもしれないね。
で、辺境都市って、なんだろう?
防衛隊長、少し投げやり気味に返答する。
「そもそも我々の許可など取らずに、勝手に配下の兵を入れれば良いであろうに。何をためらうか、“不退転”のサーリット卿ともあろう方が」
“不退転”?
なによその二つ名。ちょっとカッコイイんですけど。
この人、他国でも有名らしいのね?
その司令官、穏やかに応えている。
「いや、名を用いて無理強いはせぬよ。悪鬼の襲撃に怯えた民たちの不安を一刻も早く取り除きたいだけ故」
フン、と防衛隊長が、鼻を鳴らす。信じてないって感じね。
「聖女ミヨ殿。此度の就任を歓迎するし、其方らがいなければ、我々はこのポートビリアという寄る辺を失ってしまう。だが……」
防衛隊長、みーよを険しい顔で見つめる。
「他国に身柄を“隷属”されてまで、大聖女に昇り詰めたいか!」
いきなり恫喝された。
ちょっと、なんのつもり?
みーよに手を出すなら、絶対に許さないよ。
前に出ようとしたら、みーよに止められた。
「ハンドゥ様、わたくしは決してそのようなつもりは御座いません。然るべき方が守護結石の守護者として就任されるまでの、代理で御座います故、地位に固執することは御座いません」
「しかし、現に他国の軍を招き入れようとしているではないか」
みーよは顔をはっきり上げて、防衛隊長を見つめる。
「その軍がいなければ、都市全体がオークの軍勢に滅ぼされていたのではありませんか?」
隊長、言葉に詰まった。
「わたくしたちも、確かにオーク・キングを討伐致しましたが、全員が満身創痍で、命もおぼつかない状態でした。救いの手を差し出してくれた方々に感謝こそすれ、非礼だと指摘する術は御座いません」
重ねてみーよが指摘すると、隊長、黙り込んじゃった。
まあ、無理は承知で抵抗してみたんだよね。
「法的にも問題は無いですし、行政的には、暫定でサーリット卿が領主に就任して頂く事で結構です。領主と守護者が揃い、我々が脇を固めれば、行政組織として内外に示すことが出来ます」
行政長官代理が助け舟というか、話をまとめに来たね。
「ハンドゥ、それで良かろう。我々商人にとっては、魔導帝国だろうと皇龍公国だろうと、まっとうな商売をさせてさえ貰えれば、文句は無いのだ」
商工会長も、意味合いは違えど、同意見みたいだね。
「それで、よろしいか?」
司令官が念押しすると、防衛隊長は渋々だけど、頷いてくれた。
「最後に大聖女ミヨ、なにか意見はあるか?」
あれ、隷属してるはずの、みーよにも意見を聞くんだ。
この司令官、本当に随分と丁寧な人なんだね。
「全て、領主様の仰せの通りに致しますが……」
司令官を領主と言い換えたみーよ。公式の場だからってことかしらん。
「都市の被害状況を、この目で見てみたいと存じます。大聖女として、出来る限りの事を尽くしたいのです。そして、早い段階で周辺の町や村を巡り、大聖女の務めである巡礼を行いたく存じます」
最初にこの部屋にいた防衛隊長、行政長官代理、商工会会長が、一斉にみーよを凝視した。
「そ、其方は単なる代理であろう?」
「そ、そりゃ、そうして貰えたらありがたいですが……」
「そんなもの、正式な守護者にやらせればよかろうに。どうせ税収など無いに等しいものを」
全員で一斉には言わないけど、口々に意見を言い出している。
顔が、呆れたというか、バカじゃないのか、というか、なに考えてるんだ、って感じだね。
「それが、大聖女の務めです故。先生に、そのように習いましたに過ぎないのです」
少し考えて、商工会会長が、思い当たったみたい。
「ああそうか、其方、あのマム・エンデバスの弟子か!」
聞いて、他の二人も納得したみたい。
「先ほどの非礼を詫びさせてもらおう。大聖女ミヨ殿が信頼する軍であれば、ぜひとも入城して頂きたい」
「ああ、そうでしたか。アーリューシャイン様の導きの下、どうかこの都市を宜しくお願い致します」
深々と頭を下げられてしまった、みーよ。なによ、なんで照れてるの?
ああ、自分というより、マムちんが褒められてるからかな?
なんか、みーよらしいわ。




