22.オラクルの野良聖女たち
オラクル。領主様が所在する都市。
さすがに、この辺りで一番の大都市というだけのことはある、らしい。
高さ20メートル以上の城壁、潜った門の長さも5メートルはあると思う。
城壁の上には兵士が配置されて、いざという時は有利な場所から戦って都市を守るんでしょうね。
都市の中は石畳で舗装されていて、建物も全部石造り。
大きな通りに面した建物は、ほとんどが5階建ての、アパートメントな造りだね。一階は全部商店になっている。
道路の幅は10メートル以上。馬車が片側2台ずつ並んでも余裕がある。
歩道のようなものは、なさそう。
あたしたちの世界の道路事情は、エアタクシーがぜいたく品なだけで、道路は普通にある。でも、交通管理システムがあるから、渋滞は一切ない。
代わりに行先を入力すると所要時間が表示されて、場合によっては強制的に待たされる。ただ、エアタクシーは空を飛ぶので、そういうのは一切関係ない。だからこそ、お嬢様の乗り物なのよね。
もち、最強番長様のママチャリだって、そんなもん一切関係ないんだけどね。
……話がそれちゃった。
あたしたちを乗せた馬車は、大通りを奥まで進み、少し大きめの広場についた。まだ数台しか、同じような馬車は止められていない。
多分、市場なんだと思う。仕切り役? みたいな男が、御者の中年男に話しかけている。
今日はやけに早いな、ワイロでも渡したのか?
んにゃ、聖女様の御威光だよとかなんとか言っている。
あんなところで馬車を渋滞させてるから、みんな困ってるわけね。んーあの細面づらの隊長、罪が重いわー
この広場は、到着した順番に商売を始めて良いらしく、御者の男も息子も、馬の手入れや商品を並べるのに大忙しだ。
何か手伝おうかと声を掛けたら、いえいえめっそうもない、付き人様は付き人様にしか出来ない使命がおありですから。熊やオオカミや小鬼狩り、勇猛なる付き人様にしか出来ないことでございます。村が潤い、安全に成りました。心より感謝申し上げます。誠に有難う御座いました。
御者、原稿も何も見ないでスラスラとよどみなくのたまわれた。
のたまう、で、いいんだよね。
この男、スキがないんだよね。
みーよの家に勤める家政婦さんと同じニオイがする。
働く大人って、なんか、スゴイんだねぇ。
こちらも送って貰った礼を言って、あたしたちはみーよが所属するという冒険者ギルドに向かう。ちょうど行先が同じというか、馬車で行き交えるゾーンに建物があるので、必然的に方向は同じになるらしい。
大きな獲物をしとめた後、ギルドに運び入れるのに馬車が必要、ということね。
歩いていると、人通りは結構賑やか。あたしたちのコロニーでは、歩いている人はあんまりいないので、これはこれで楽しい。(健康やトレーニングで走っている人は結構いるけど。用事のために歩く人っていないんだよね)
人種は、ほぼ全員がヨーロピアン。
ゲルマンが6割、スラブとラテンがそれぞれ2割ってとこかなぁ。
あたしやみーよみたいなモンゴリアンは、今の所、見かけない。
ついでに言うと、エルフやドワーフ、ハーフフッドなんかの亜人や小人なんか、まったく見かけない。
もっと言うと、猫耳しっぽ付きみたいな獣人の存在なんか、皆無でした。
いない、わけじゃないらしい。
言葉を呟いてみて、普通に共通語に翻訳されている。
人族の都市だから、ということかしらん。ちょっと調べてみても、いいかも。
大きな通りの中央に、ちょっとした噴水がある。その奥に目指す建物があるらしい。
噴水の周囲にはベンチがあり、程よい休憩所、というか、馬に水を飲ませてもいいですよ、なんなら誰でも飲んでいいですよ、という公共施設なのかも? がある。
そのベンチの一角を、黄色、緑、青の法服をきた娘たちが占拠している。
目立つ。
ん、あたしたちも、ある意味、目立つ。
彼女たちがこっちに気づくと同時に、みーよも気が付いたみたいだ。
なんか、わっと走り寄せてくる。
みーよも駆け出した。
敵では、ないらしい。
見守るあたしの前で、4色の法服娘たちが互いに抱き合って花びらを咲かせた。
「だからいったでしょ、ミヨはあれで結構根性あるんですわ」
「だってアグフだよ、無理だとと思うんだけどー」
「そういう時こそ野良聖女根性を見せつけるのですわ!」
「根性で済んだら世界平和なの!」
「男はホント根性ないんだけどー」
「そうそうすぐ私たちを見捨てて逃げちゃうんですわ」
「一人にされた時こそ野良聖女魂を見せつける時なの!」
「そうよ野良聖女魂なんだけどー!」
……なにを言っているんだ、この子たちは?
話について行けないあたしの前でひとしきりしゃべりながら、お互いに意思疎通を図っているらしい。
みーよも、さりげなく、あたしの側に近寄っている。
話に入れなくなっているらしい。
「で!」
「で!」
「で!」
まとまった、らしい。
「その人、ダレなのですわー?」
「その人、誰なんですけどー?」
「その人、どちらさまなのー?」
キレイに意思疎通して、ハーモニーを奏でてくれた……長かった、けど。
「わたしの、付き人、です……」
一瞬、間が空いて。
「付き人って、女ですわ!」
「付き人は、もう無理って言ってたけど!」
「付き人って、その恰好へんなのー!」
うるさい、というより、かしましいなー
同時にしゃべらないで欲しいんだけどー
「オークたちも、アグフも、全部討伐してくれたの」
また、一瞬、間が空いて。
「うそだぁあ!」×3。
これはキレイに揃ったので、聞き取りやすかった。
「で、これから生存報告と、任務遂行の報告をしに行きたいんだけど」
冷静な声に戻ったみーよ。うん、この子たちとも、色々あったんだね。
「ちょっと待って、あいつらギルド内にいるんですわ」
「もめごとになるけど」
「明日でもいいと思うなの」
だから、同時に話さないでー
「ダメよ、わたしの事も、村の事も、周辺の事も、みんな心配してる。わたしたちは任務に対して真摯でなければいけないわ。光の女神アーリューシャインの名に誓って」
3色の野良聖女ちゃんたちは、互いに顔を見合わせる。
「ミヨ、マジメすぎですわー」
「ミヨ、野良じゃなくなったけどー」
「ミヨ、付き人が女じゃすぐ行き詰まるなのー」
ん-嫉妬? 嫌味?
なんか、足を引っ張ってるような気もするんだけど、気のせい?
「ゴメン、後でまた話そう?わたし、行くね」
あたしを促して、みーよは冒険者ギルドの大きな扉を開けた。
野良聖女に関しては、拙作「聖女ミヨの冒険 その3 野良聖女」(N8175MG)を参照。




