21.そう、素直がよろしい
街の(多分)正門には、あたしたちと同じような馬車がずらっと、20台位並んでいる。許可がないと街の中には入れないしい。
なんでも、ワイロを渡すとすんなり入れるのだと御者の中年男は言うのだけど、そんなお金は無いのだと威張ってもいた。
街に入るのに、ワイロって何よ?
聞いてみたら、門番たちが小遣い稼ぎとして、わざわざ難癖つけてくるんだって。
足元を見て、困っていそうなヤツから小遣い稼ぎするのだそうだ。
だから、ちっとも困っていない、ダメなら帰る、という姿勢を示すのが大事なんだとか。
だって。みーよ、どーする?
と、馬車を降りて、そそくさと駆けだすみーよ。
んー相変わらず可愛い走り方だなぁ、とか感心してる場合じゃないや。
あたし、あんたのお付きなんだってば。
大股でズンズン近寄って、背後でよーじんぼーだよーな顔をする。
みーよは、門番の中で一番偉そうな、兜になんか飾りを付けた細面の男に声を掛ける。
「冒険者ギルドに所属している聖女ミヨです。至急の要件です。連れの者と共に、通してください」
「ああん? 野良聖女が何を……」
言いかけて、背後のあたしに気づく。気づくのが遅いよ。なにボケっとしてんのよ、まじめに仕事しなよ。難癖付けて物流滞らせてんじゃないよ。
ああん、で、殴ってよいヤツ確定。ついでに、野良聖女で大確定。
「付き人、か……」
今度はシゲシゲとあたしを見つめる。
「女じゃないか」
だから、何?
「女はないだろ女は。まあ、男みたいな顔してるが、何だその格好は」
周囲の門番たちも集まってきた。
全部で10人。この偉そうなヤツのそばに来たのは3人。
んーあんたが一番弱そう。ってか、強そうなのが一人もいない。
大丈夫かな、この街?
偉そうなのを無視して周囲を見回すあたしに、ちょっとカチンときたみたい。
「オイ、なんとか言え」
とか言って、あたしのおっぱいを触ろう(ん-握ろう、かなぁ)としてきたので、片手で払った。
パシン、といい音がして、偉そうなのがよろめいた。
「な、何をする!」
「それはこっちの話」
目を見開いて、必要以上にビックリした顔をするんで、コッチも低く凄んで見せた。
「みーよ、コイツ潰してもいい?」
「だめよ、ん、ちょっと待って」
考えてくれるってことは、おっけーが出れば潰してもいいんだ。
ま、殺さない程度には手加減してあげる。腕の1本や2本は頂くけどね。
「隊長さん、緊急事態なので、連れと共に通しては頂けないでしょうか? オーク・アグフに関する報告なのです」
「……アグフ、だと?」
一瞬、額にしわが寄った隊長(コイツが隊長? まあ、偉そうな所だけはソレらしいわ)だけど、すぐにさっきの汚い顔に戻った。
「女を付き人にするようなエセ聖女の報告など、必要無いだろう。さっさと列に戻れ……」
アイコンタクト。
おっけー、みーよ。
あたしはアギト・ナイフを鞘から抜き、刃を横にして、銘が見えるようにして、隊長とやらの男の前にかざした。
「なんだ、こんなもの……!」
最初、ビックリして、こけおどしだと思い、よくよく銘を見て、初めて本当にビックリした。
アンタ、すごく分かりやすいね!
あたしと短刀を何度も見比べて、少し考えた。
「拾ったのだろう、バカバカしい」
「ふーん」
もう、いいよね。十分我慢したよね?
みーよが、呆れた顔をして頷く。
そ、止めても無駄だよ。だって悪いのはコイツだもん。
でも、一応、言い訳しとく。
「あたしの国では、戦士への侮辱は万死に値するんだよ。でも此処はあたしの故郷じゃないんで、手加減してあげる」
本当は、ここなら手加減の必要がないんで、正当防衛とか考えずに殺しちゃってもいい、と言いたいんだけどねぇ。
ま、それはさすがに大人げないしね。
アギト・ナイフを鞘に納めて。
まだ、何事が起こるのか分からないでいる隊長さんの襟元を、片手で掴んで持ち上げる。
「ぐ、な、なにを……」
片手で軽々と持ち上げられて、隊長も周囲もうろたえてる。
その細面の顔を、平手で引っぱたいてやった。
スゴい音がして、そのまま気絶され申した。
され申した……この表現であってるかしらん。
「ほれ」
脇にいた門番どもに、隊長さんをくれてやる。
大慌てで抱えた連中に「んじゃ、そういうことで、通らせてもらうね。文句があるなら掛かってきていいけど?」
門番たちは気絶している隊長さんとあたしを、忙しく見比べている。
一生懸命考えてるんだね。でも、門を通ろうとする人たちに難癖付けてワイロをせびっているような奴らに、なにかする度胸なんてないよね。
馬車に合図すると、半ば呆れている御者の中年男と、目をキラキラさせてあたしを見ている若い息子が近づいてくる。
「みーよ、行かないの?」
「ちょっとだけ待ってて。すぐに済むから」
みーよが、とりあえず寝かされている隊長さんの前に例の前かがみのポーズを取る。
「そんなヤツ、治す価値なんて……」
やさしく、でも、キッと睨まれちゃった。テヘ。
杖が光り、片手はヤツの顔へ。
ほのかな光がヤツを照らし、腫れあがった顔が治っていく。
やがて、隊長さんは、目を開けた。
「ごめんなさいね、わたしの付き人が。でも、アグフの事は、本当の事なの。よろしいですわね?」
言外に“これ以上騒ぐなら、わたしはあの娘をもう止めないよ”と書いてあるのが見えた。
あたしにも見えたし、隊長さんにはスゴクはっきりと見えたらしい。
ブルブルブルと何度も頷く隊長。そう、素直がよろしい。
ついでに、セコイ悪事も、もう止めにしない?
止めたかどうか、そのうち抜き打ちで見に来てやろうかしらん。
もう、誰もあたしたちを止める者はいない。
ようやく、あたしたちは街の中に入った。




