215.やれったらやれ、と命令していいんじゃないの?
司令部にいた全員で、ポートビリアの外郭市街地に入る。
馬車の上に、むりやり平たい舞台のような板を乗せて。
その上に、あたしらが立たされる。
オラクルで、オーク軍討伐のパレードの時にやったね。でもあの時は、専用の馬車だったよ。
これは、お披露目というよりは、顔見せ、って感じかもね。
あちこちが破壊され、火がまだくすぶっているような街並みを貫く大きな大通りは、最低限、片付けられ、10メートルごとに全身甲冑の兵士たちが並んでいる。
そんな中を、あたしたちの馬車と、周囲を護衛し、先導する騎馬たちが進んでいく。
お披露目は必要。でも、大聖女として任命される前も後も、みーよが暗殺されると、街のみんなは奴隷にさせられる公算が高い。
だから、こんな大勢の人たちの前で、いかにも狙い撃ちして下さいと言わんばかりのパレードは、危ないことこの上ない。
でも、これをやらないと、守護結石の守護者としては認められないらしい。
街の人たち、というか、生き残った人たちが、不安げにあたしたちを見つめる。
なんか、きな臭いというか。なにがどうなっているのやら。
と、思ってたけど。
身軽そうな格好の兵士たちが、狙撃手が潜みそうな要所を抑えているね。
へえ、やるじゃん。
そんな感じで何事もなく、外郭区は通りすぎる。
内郭の城壁は、守りが堅かったみたいで、オークどもに突破されていないみたいね。門が開いて、その中を通っていく。
こっち側には、皇龍公国の兵士は並んでいない。
代わりに、多分だけどポートビリア側の兵士たちが並んでいる。
こっちは、まだ被害がなかったようで、人々の顔が比較的明るい。
前任の守護者が逃げ出して、どうしようかと思っていたらしく、とりあえず安心だね。
オーク・キングを倒した英雄を付き人に持つ、魔導帝国側の聖女様が新たに就任されるということで、歓迎ムード一色だった。
外郭の街と違って、こちらは被害がほとんどない事も、あると思う。
街の人たちも、上流階級の人たちがほとんどなので、品がいいんだろうね。
みーよもあたしも、軽く手を振って、歓声に応えた。
街の中心、領主の館がある区画に入る。
大きな城壁、高い塔、堅く守られた正門。
オラクルの領主館より、立派な建物だね。
門をくぐったところでパレードは終了。
あたしたちのいる馬車の上部に梯子が掛けられた。
みーよを抱き上げて、軽々と梯子を飛び降りる。
「もう、人前でこういうのは恥ずかしいから!」
文句を言われちゃった。いや、でも、みーよの聖女服だと、梯子を降りるのは難しいと思うよ?
で、司令官と取り巻きの案内で、建物の内部へ。
何十人も入れそうな大広間から、上部に続く階段へ。
渡り通路を通って、別の建物に入って。そこからさらに上の階段へ。
踊り場で折り返して、再び階段。
どうも、館の内部に別の塔が建てられているみたいね。
で、居住区みたいな所に出た。
廊下があり、左側にドアが3つ。突き当りに、また階段。
「この上に、守護結石が鎮座する空間がある。早めに大聖女の就任の儀を行いたいのだが、貴殿らも突然の事で不安もあるだろう。就任前に、貴殿らの仲間たちと相談して、最終決定をして頂きたい」
司令官、変な事を言い出す。
やれったらやれ、と命令していいんじゃないの?
そういう立場なんだし、それが当然だし。
そもそも、隷属の首輪を付けられてるんだから、命令一つで済むでしょ?
そんなにあたしたちに気遣いしなくても、良くない?
……なんて思っても口には出さない。
あたしはみーよのお付き。考えるのはあたしじゃない。
そのまま真ん中の部屋に案内されると。
エロハゲと愛人たちとデンが、いた。
エロエルフは相変わらず、全身が布人間状態。
デンもフードを深くかぶって、実際の所、中身が本人かは分からないんだよね。
猫娘は、見たまんまだね。あたしをジッと睨んでいる。
で、エロハゲ。割と深い怪我を何か所か負ってたと思うんだけど、完治しているみたいね。でも、少し顔色が悪い。
「みんな無事だったのね」
意識を失ってた、あたしが言うことじゃないけどね。
「儂の獲物を横取りしおって、その言い草はないだろう」
さっそく、エロハゲが突っかかってくる。なんだ、元気じゃん。
「知らないわよ。こっちは手筈通りに仕事したわよ。アンタがヘタレなだけでしょ」
「なにぃ!」
「なによ!」
睨み合っていると、みーよに肩を叩かれた。
気づくと、司令官と取り巻きたちが、呆れた顔であたしたちを見つめている。
「お前たち、本当に“仲間”なのか?」
副官が、興味深そうにあたしを見つめる。
違うよ。単なる成り行き。そんだけ。
周囲が見えないエロハゲの面倒を、あたしが見ているだけなのよ。
「これでよく、オーク・キングと親衛隊を討伐できたものだな」
司令官、心底、呆れた顔をしている。
それでも、気を取り直したらしく。
「拙者らは、席を外そう。一刻後に呼びに来る故、話し合いを済ませておかれよ」
そのまま、部屋を出ていった。




