214.「付けなきゃダメなの?」
中は、広くて割と明るい。天井から魔石っぽいものを光らせているみたいね。
地図が広げられた大きな机を囲む男たちが、6人。みんな座っている。
全員、完全甲冑。兜だけは、外している。
何か話していた最中だったけど、あたしたちを見て、全員立ち上がった。
「英雄殿、目覚められたか」
真ん中にいた男が、あたしに向かってゆっくり歩いてくる。
多分、コイツが司令官だね。
あたしより二回り位、縦も横も大きい。身長190センチ、体重は100キロ位かな。
傷だらけの、でもちゃんと手入れされているガントレットに覆われた手を差し出された。握手?
「そんな、英雄って柄じゃないけどね」
軽く握り返した手は、機械を連想させた。重量物を持ち上げるマニピュレーターみたいなヤツ。
地図が広がっている机の前に、空席として2脚の椅子がある。
そこに腰掛けるように、促された。
みーよを見ると、頷かれたので、そのまま腰掛ける。
うん、これは確かに、捕虜の待遇じゃないね。
なんかの作戦会議中なんでしょ、これ。
余所者のあたしらが加わって、いいもんなの?
「現在の位置は、ここなんだが……」
握手してきた大柄な司令官の横にいた、あたしと同じ位のサイズの男が地図を指差して説明を始める。
聞きやすい、ちょっとイイ声。どうやら副官みたいね。
「ワシらはユーライア河を挟んで向かいの都市、フェイスから渡河してポートビリアの救援に来ているのだ」
上流から河を渡ってきたのね?
この河、結構大きいからね。
んと、橋は無いのね?
で、この人たちは他国の人間なので、この河で国境を定めているわけね?
「帝国軍がきたら撤収するつもりだったのだが、オーク軍に大きな混乱が起こっていたので、そこに乗じて軍を突入させた」
司令官が、後を継いだ。
「オークどもの司令部まで突入したら、君たちが立てこもっていたので、保護したわけだ」
「じゃあ、都市は無事なのね?」
「そうだ。そして治安上の理由で、我が軍を駐屯させたいと思っている」
そりゃそうだね。
「都市の今後の事は、魔導帝国との話し合いになる。貴殿らの立場というか、立ち位置を聞いておきたい」
立ち位置?
何のこと?
みーよ、説明よろしく。
「わたしたち、扱いが皇龍公国の捕虜ということになってるのよ。それで、この人たちは、わたしたちをこのままポートビリアを救った英雄ということにして、都市を占拠することを正当化したいのよね」
ん?
ちょっとよく分からないわね。
「そうよね。実は、ポートビリアには今、都市の守護結石の守護者が不在なのよ」
それって、大聖女クラスの人がいないってこと?
「都市の所有者というか、守護者が、どこの国に属しているかによって所属が決まるので、いつまでも守護結石の守護者が不在というのは、困るの」
「元から守護者をやってた人はどうしたの?」
「……脱出したみたい」
都市を捨てて逃げたの?
「それはそれで、しょうがないんじゃないの?」
「うん。そうなると、守護者不在の都市なので、住民全員が居場所というか、“人権”を奪われることになるわね」
ん? ん?
「ちょ、ちょっとワカンナイ。なにそれ?」
「守護結石の守護者は、その都市の住民の大多数から支持を得られなければ座に就くことが出来ないの。都市を捨てて逃げ出した人は、支持を得られにくいでしょ?」
そうね。そりゃそうだね。
「このままだと、都市の住民全員が、皇龍公国の奴隷扱いになるのよ」
そ、そうなんだ。
「この人たちは、それは困るので、わたしに、都市の守護結石の守護者をやって欲しいと依頼してきているの」
そ、それは……どうなの?
「オーク・キングを討伐した英雄を付き人に持つ大聖女、ということになるので、支持は得られると思う。で、公式には、わたしたちは皇龍公国の捕虜なので、この人たちの立場というか、今後の統治も行いやすくなる。ただ……」
「ただ?」
「そういう平和的な行い方を快く思わない人たちもたくさんいて、この都市の住民10万人全てを奴隷にしたいと思う勢力もいるんだって」
そ、そうなんだ……
「で、わたしたちに、守護結石の守護者になる気があるかどうかを、今、尋ねられているわけなのよ」
そんなこと、急に言われても、ねえ。
「みーよは、どうなの?」
「マム先生に聞いてみたいところだけど、当面は受けてもいいと思う」
「みーよがいいなら、それでいいよ」
「いいの?」
「だってあたし、考える役目じゃないもん」
みーよは、クスっと笑った。
「そうだったね。オラクルのみんなの事も心配ではあるけど、今出来ることは、今やらないとね」
みーよは、司令官の男を見つめて、守護結石の守護者を引き受けることを宣言する。
副官の男が頷き、地図が広がっている机の上に、高価そうな金属で出来た首輪を二つ、置いた。
幅5センチ位。厚みは約1センチ。
首に巻いたら、隠さない限り、誰の目にもはっきりと分かるね。
「なに、これ?」
「隷属の首輪。拘束レベルは相当高いと思う。わたしたち、これから公式に皇龍公国の捕虜という立場になるから」
「付けなきゃダメなの?」
「皇龍公国の人たちが納得しないでしょ? いつ裏切られるか、分からない人に守護結石の守護者を任せていいと思う?」
「そりゃそうだけど……」
あたしは、そういうのはイヤだ。
みーよにも、付けて欲しくない。
でも、まあ、信頼されてるかどうかで言えば、無茶な事だとは思う。
付けなきゃダメだとは、思う。
思うけど……
「郁ちゃんがイヤなら、それでもいいよ」
そう言われると、弱いんだよねぇ。
「いや、みーよが正しいと思う。分かったよ」
二人で首輪を手に取り、んと、これどうやって付けるの?
「首輪の所有者に、隷属しますと宣言するの」
「分かった。隷属するよ」
すると、首輪があたしの首を通り抜けて、背後でカシリと音がして止まった。
つなぎ目なんてないのに、不思議ね。
みーよも同じようにして。
こうして、あたしたちは公式に皇龍公国の捕虜になった。
なんか、回りくどいね。
でも、自分で進んで捕虜になるというのが大事らしい。
強制的に隷属させられると、守護結石の守護者としては受け入れられないみたいなのよ。




