201.人間をナメてるんだよね。だから、死ぬんだよ。
マイアミと別れて、村々の周囲に出る魔物退治(実際は、結界石への理力注入)のために、街の外へ。
聖女たちが手分けして行うって話だけど、あたしたちが受けた依頼分はちゃんと片づけないとね。
車を奇跡で出して貰って、いざ、出発!
順調に残りの3件をこなして、任務終了。
何も出なければ、夕暮れ前には街に帰れるね。
と、思ってたけど。
こんなオラクルの街の近くに、オークの先遣隊が出没している。
何でいるのよ、こんな所に?
5匹の分隊。何者かと交戦中。
弓持ちの男と小柄な女性が、夕暮れの広がる空の下、オークどもから距離を取ろうと苦労しながら戦っている。
オークどもは半包囲。じりじりと間を詰めているみたい。何本か矢が当たってるけど、ものともしない感じね。
「みーよ」
「うん。でも、向こうの獲物かもしれないから、確認は取ってね」
「おっけー」
そうだね、助けて欲しいなんて、思ってないかもね。
車を寄せていくと、気づいたオークどもがこちらを警戒する。
振り向いたオークの首筋に矢が命中。でも、効いていないみたいね。
車から降りて、叫ぶ。
「助けが必要?」
「頼む!」
男の声。どっかで聞いたことある声だね。
ま、いっか。
久しぶり、じゃないけど、オークって美味しい獲物なんだよね。
「シュラン、アンタは無理しないでね」
「え、師匠、アレと戦うんですか?」
おろろ、まあシュランにとってはデカすぎで脅威を感じるのか。
「そりゃそうでしょ。あたし、オーク・キラーだもん」
言い捨てて、そのまま観察。
オークどもは3匹があたしに、後の2匹は弓持ちと小柄な女性の方を見ている。
あたしらに挟まれた形だけど、奴らはそんな風には思ってないのかもね。
と、シュランとみーよも車から降りてきた。
オークの一匹が、そっちに気を取られている。
あたしの相手は2匹になっちゃったね。
で、コイツラ。
隊長オーク、結構な武装してるね。皮鎧とヘルメット着用。
武器もぼろい大ナタじゃなくて、ちゃんとしたシミターじゃないのさ。
おまけに丸盾まで持っている。完全装備だね。
で、もう一匹、というか、残りは普通のオーク。
オーク・アグフとの時と同じ、分遣隊みたいね。
もちろん全員、身長2メートル以上。体重150キロ以上。
まるで軍隊だね。
このところ、ショボイ稼ぎしかなかったけど、これは美味しそうだね。
「シュラン、2分持たせて」
「えぇ?!」
なによ、頑張んなさいよ、稼ぎ時よ?
奇跡で車を出しているみーよは、光の障壁を使えないのよ。
知ってるでしょ? みーよの守護りは、アンタしかいないのよ。
気合入れて、体、張んなさいよ。
で、みーよがシュランに向けて、光の祝福を唱えている。
どうやら、あたしには貰えないらしい。
ってか、イラナイし。
こういうのは、先に指揮官を叩いて混乱させるのが一番だよね。
一つステップを踏んで、デカい隊長オークに突っ込む。
斜めに振るわれるシミター。
剣筋が丸見えなんで、ギリギリまで見切ってかわす。
空を切ったスペースを詰めて、ほぼ密着。
姿勢を低くして、脚裏に回り込む。
オマエ鈍重だね、反応が鈍いよ。
アキレス腱の辺りを、アギト・ナイフでバッサリ。
悲鳴なんて聞く前に、そのデカい図体の背中をよじ登り、死角から相方オークの頭上に襲い掛かる!
コイツも大ナタを振るおうとはしたけど、ちゃんとあたしが見えてないんで、空振りだね。
片手でヤツの頭に腕を回し、ぐるりと回って背中に張り付く。
首にアギト・ナイフを差し込んで、掻き切ってやった。
派手に飛び散る血しぶき。
それでも、あたしを掴もうとする腕。
はん、そんな鈍いもんに掴まるわけないでしょ。
飛び降りて、瞬時で周囲を観察。
オークどもは、残り3匹。まだ二手に分かれたまま。
弓持ちの男は大丈夫そう。距離を保ちつつ、弓を構えている。
小柄な女性はかなり疲れているみたいね。んと、理力切れか知らん?
じゃ、先にみーよとシュランを襲う1匹の処理だね。
シュラン、白い光に全身が覆われている。
オークの大ナタを盾で受け流しながら、小剣を振るっている。
へえ、ちゃんと戦えてるじゃないか。
その後ろで、戦いぶりを見守るみーよ。光の障壁がないから、付き人のシュランが頼みの綱だね。
お待たせしちゃったねぇ。
オークの背後に取りつく。
なんだ、と振り向いたその首に、ざっくりとアギト・ナイフを突き刺して、そのまま掻き切ってやる。
シュラン、かわす事を覚えたみたいで、さっと離れたよ。
オークは腕を無駄に振り回しながら、地面に倒れた。
首から湧き出す血が、池のように地面に滲みだしていく。
「やるじゃん」
「は、はは……」
ぶるぶる震えながら、それでもシュランはあたしに向けて、笑って見せた。
「残り2匹。仕留めるよ」
「は、はい!」
立て続けに仲間を3匹失ったオークども。憎々しげにあたしとシュランを睨みつける。
逃げないのは立派。そして、そんだけ。
真正面から突っ込むあたしに、オークが細かく大ナタで牽制してくる。振り回してこないね。
アギト・ナイフの背でナタをはじくと、ようやく怖れの顔がにじんできた。
でも、もう遅い。全然遅い。
力を込めて、柔らかい脂肪まみれのどてっぱらにナイフを突き刺す。
そのまま切り裂いていくと、なんか喚きだした。
破れかぶれの大振りを難なくかわして、片足を切り裂いてからシュランの元に向かう。
あら、力任せの体当たりにひっくり返されてるシュラン。
コイツらにそういう闘い方はダメよ?
シュランを殺そうと襲い掛かったオークの背後に、こっちが殺そうと襲い掛かる。
振り向いたオークの下あごから突き出る牙を掴んでロック。
反対側に廻した腕に力が入りやすくなり、そのまま口の中にアギト・ナイフを突き入れる。
喉の奥から斜め上に引き裂いてやった。
声にならない呻き。
「シュラン、転がって避けな」
「は、はい!」
そのままオークが、シュランのかわしたスペースにどっと倒れる。
心臓を一突きしたいんだけど、態勢が宜しくない。
ま、首でいいか。
あら、汚い腕で抱きかかえられたけど、お返しにアギト・ナイフの口づけを、もう一度口の中に差し入れてやった。
ヤツの血が、喉の奥から肺腑に流れていく。
吐かれても汚いので、ナイフを抜いて、空いた手でヤツの顎を閉めてやる。
ヤツは何度か震えて、あたしを抱えたまま、息絶えた。
あん、もう、邪魔な腕を振りほどいて、ようやく立ち上がるあたし。
まだとどめを刺していない、ラスト1匹は?
弓持ち男が、近矢を放ちながら食い止めてる。
あたしの両手、両足、よし、まだ動くね。
荒れ狂ってなんか叫んでいるオークの背後まで一気に駆け寄る。
気づいて振り向くヤツに、そのまま斬りかかる。
大ナタで受け止めようとされたけど、斬撃をキャンセルして足元にスライディング。
両足の腱を斬りつけて、背後に回る。
なおも大ナタをやみくもに振るってきたけど、こんな密着状態でそんなもん、何の役にも立たないと分からないらしい。
せめて腰の予備武器を抜くか、大ナタを捨てて素手で足掻けばいいのにね。
コイツラ、ロクな武術も無いくせに、力任せで勝てるとか思ってるんだよね。
人間をナメてるんだよね。
だから、死ぬんだよ。
ほら、足の腱を斬られたんでロクに立ってられないんだろ。
下がってきたあごに、垂直にアギト・ナイフを差し入れる。
そのまま斜め右、頭の後ろの方に切り裂いた。
ようやく武器を手放してあたしを捕まえに来たけど、遅すぎ。
もうおしまいだよ。
むやみに腕を振るいながら、大量の汚い血をばらまきながら、ヤツはバッタリと倒れた。
あー汚い。気持ち悪いわ。
アギト・ナイフを収納して、周囲を確認。
弓持ち男、疲れ切っているけど、健在。
小柄な女性、少し離れた処でしゃがみこんでいる。疲労困憊って感じ。
みーよ、無事。こっちに歩いてくる。
側にシュランが付きそう。
オーク、4匹は絶命。最初に闘った、アキレス腱を断ち切った隊長オークが、仲間の死を立て続けに見させられたまま、茫然と座り込んでいる。
ツカツカと近寄る。
座り込んでいる分、あたしより背が低く見える。
何か言ってるけど、共通語じゃないし、分かんない。
武器を捨てて命乞いしているらしいけど、知らない。聞きたくもない。
無言で、とどめを刺してやった。




