198.「コイツの実力だろうよ」
新章開幕。
ブクマ、ありがとうございます。ホントに励みになります。
翌朝。なんかものすごくお腹が空いて、起きちゃった。
台所で試食のパンを頬張って。
外に出てみると、皆さんお揃いですね。
あたしは、折角のガードグローブ、エンジニアブーツ装備のカンタの相手をしてあげたい所なんだけど、他の弟子たちの様子も見ておきたい。
カンタ、お前は後でたっぷりとしごいてあげる。
シュランは模擬剣と盾を持たせて、イラドとタイマンをやらせる。
こういう、教会を襲って来るチンピラにちゃんと立ち向かえるようにならないとね。
イラドに、俺の事そんな風に見てたんだ、ヒドイ! 扱いされたけど。
いや、実際にお前の部下どもが教会を襲ってきたでしょ?
シュランも、あの時の事をよく覚えているようで、やる気を出してきたね。
自分より体格の大きな相手に、ビビらなくなった。
一昨日、ホブを相手にしたからね。あの戦いで、一皮むけたみたいだ。
ぼちぼち、イラド程度は卒業して欲しいね。
イーシュは、マイアミに相手をさせる。
あたしの流儀を仕込んではいるけど、どこまで通用するのか、マイアミは丁度いい相手だね。守り一辺倒だから、技を思い切り試せるだろう?
「兄ちゃんたちの闘い方を見るのも、修行のうちだよ」
「う、うん」
カンタに、観察の重要性も教えている。
素直にイーシュの闘いぶりを見つめるカンタ。
その視線の先で、イーシュが苦戦している。
突きや蹴りが、まるで効いていない。
完全防備に近いマイアミの壁を、打ち破れないみたいだね。
と、逆にイーシュの突きを受け止められて、身体を引っ張りこまれる。
覆いかぶされて、体格差のまま押しつぶされて、両肩を地面に付けられてしまった。
「私の勝ちだな」
「ありがとうございました……」
少し、悔しそうなイーシュ。
へえ、マイアミ、反撃できるんだ。
「君の攻撃パターンは、だいたい判ったぞ」
まあ、そうだね。イーシュのは、ちょっと単純すぎるからね。
「もう一度、お願いします!」
「よし、来なさい」
再戦するらしい。
で、兄弟子のシュランの方は?
「お前、急に強くなったな!」
「そうですか?」
模擬剣と盾で、イラドを圧倒している。
普段使っている鉄製のショートソードは、間合いはそんなに広くない。
今握っている木製の模擬剣は、普通のロングソード並みに間合いが広い。
どちらも片手で振れる。
で、革製とはいえ、盾持ち。
広い間合いと防御性能の高い盾という、まさに武装した戦士状態のシュラン。
ただのゴロツキとは、やはりワケが違うね。
「兄ちゃんスゲーな」
カンタが感心している。
そうだね。素手だと、イラド程度じゃ、どうにもならないかもね。
バランスを崩して後ろに倒れるイラドに、模擬剣を突きつけて降参を認めさせるシュラン。体格差は二回りも違うけど、普通に剣士として戦えてるね。
「イラド、まだやれる?」
一応、確認。
「い、いや、これは無理だな」
素直に負けを認めるイラド。そういうのは、あたしに対してだけかと思ってたけど、アンタ自身の性格なんだね。
「上手く育てたでしょ?」
手を伸ばして、起き上がる手助けをしてやる。
「全くだ。お前の教え方が上手いんだろうが……」
あたしの手に掴まりながら、ゆっくり起き上がるイラド。左脚、左腕、左脇腹と、イイのを貰ってるね。模擬剣じゃ無ければ血まみれか骨折かな?
ま、そんな重たい武器を振るえる程、シュランはまだ筋力がないんだけどね。
「コイツの実力だろうよ」
シュランの目をはっきり見て、イラドは言い聞かせるようにそういった。
シュランが目を瞠り、少し顔が赤くなった。
この、人たらしめ。
あたしは惑わされないもんね。このセクハラ野郎なんかに。
「シュラン、まだいける? 少し休む?」
「行けます」
あたしをはっきり見つめる。というより、睨むシュラン。
いい顔してるねぇ。
あたしも自然に、顔がにやける。
「イラドと同じ素手で、あたしが相手してあげるよ」
「お願いします!」
望むところと、大きな声でシュランが吠えた。
イラドを下がらせ、カンタに見ているように言って。
マイアミとイーシュも手を止めて、こっちを見ている。
本気で来い、なんて、もう言わなくていいよね?
シュランは、教えた通りに盾を前に、剣は後ろに引いて間合いを隠している。
少し屈み気味に、身体は横向きに。
当たる所を小さくして、筋肉のバネを溜めて。
革兜で守られた頭はあたしを見ながら、同時に周辺もぼんやりと見つめている。
あたしより一回り小さい体格が、自信とやる気にあふれて、膨らんで見えた。
いいねえ。
若くて、しなやかで、美味しそうだ。
自然に、舌なめずりしてしまう。
「師匠、コワイんですけど」
ニヤつきながら言うことじゃないだろ、シュラン。
「そうかな?」
身体を低くしてダッシュ。お前たちに教えた通り、足元狙いの組み付き。
剣士なんて、ひっくり返せばただの亀だからね。
盾を下に構え、一旦受け止めてから剣戟か。
シュランの利き手と反対側の盾を狙う。掴まえちゃえば力勝負。
お、盾を横に外して、剣戟に切り替えか。
あたしに向かって振り下ろされる模擬剣!
振ったね。もう狙いは変えられないんでしょ?
右足をたたんで地面を前転。
一回転する間に、シュランの模擬剣が空を切って地面を叩く。
左脚を踏ん張って方向転換。
この瞬間、盾も剣もがら空きのシュランに飛び掛かった。
「あっ、うわあっ!」
遅い。
両手で顔を引っ掴む。そのまま頭突きが入りそうだけど、あたしも痛いのは嫌なのでそういうことはしない。
代わりに皮鎧で守られているどてっぱらに、ジャンピングニーを叩き込む。
軽量なので簡単に吹っ飛ぶけど、頭を掴んでいるのであたしは離れない。
そのまま地面に押し倒し、本当は首を刎ねるところを、両肩を地面に押し付けて負けを認めさせる。
「ま、参り、ました……」
「まだまだだね」
先に起き上がり、手を伸ばして起き上がらせてやる。
お腹痛そう。ま、手加減はしといたよ。
カンタとイラドが、判ってはいたけど、コイツ本当にバケモンだ、という顔であたしを見る。
イーシュとマイアミが、ぼぉっとした顔であたしを見る。こっちは、惚れたわぁ、って感じかしらん。弱いお前らなんか、相手にしないけどねー
全員集合。
「シュラン、今、何で負けたか、判る?」
「……盾で受け止めようと思って、あ、こりゃ無理だと思って、剣で……」
答えながら、うん、これは違うと気づいてはいるね。
「他に判る人、いる?」
答えられるのは、マイアミ位かな?
後は、まあ無理だと思うけど、一応聞いてみる。
考えさせるのは、とても重要だからね。
マイアミが、あたしにアイコンタクト。まだ答えない方がいいのか?
そう。そうして。コイツらに考えさせたい。よろしく。
「んと、兄ちゃんさ」
お、カンタか。
「イクミねーちゃ、じゃないや、師匠を近づけさせちゃ、ダメなんじゃないの?」
いいとこ突くねぇ。
「いや、俺、逃げ足はないし、師匠の方が足が速いし」
「そうじゃなくて、んとね、盾で受け止めるって、それがもうダメじゃないかって思う」
「いや、受け止めるのが盾の……ん?」
シュラン、何か分かったかな?
「盾を出しても、単に掴まれるだけ?」
「うん。んとね、雪玉の訓練もそうだけどさ、こう、的を絞らせないっていうか、小さくした方が当てにくいんだよね。盾を掲げると……」
「かえって的が大きくなるって事か」
なるほど。
でも。
じゃあ、あたし相手に、どうすればいい?
うん。考えてる。考えてるね。
チラッとマイアミを見る。
そうだね、マイアミはあたしとヤル時、盾なんか持ってないね。
身体を小さくして、腕で頭と胴体を固く守ってるね。
でも、反撃しないから、やられっぱなしだけどね。
「ま、考えることは大事だよ。試す機会もあげる。その上で、実戦で死なない事だね」
そういうと、なぜかマイアミが苦笑している。
「何?」
「いや、教えるのが上手いな、と思ってな」
そうなの?
ま、師範代を名乗るマイアミに褒められるの、悪い気はしないよね。
その後も朝稽古を続けて。
カンタに基本的なガードグローブの使い方と、いくつかの型を教え込んで。
あたしらが留守の間も、一人で型の練習を怠らないように言って。
朝ごはんだよ、とみーよが呼びに来るまで、それぞれが鍛錬に打ち込んだ。




